ネットを見ていて、変な記事を見つけた。
朝起きたときに猫を撫でながらある呪文を唱えると、その日必ず幸福なことが起きるのだそうだ。
まさか。一笑に伏したつもりだった。
だが翌朝、目が覚めると目の前にうちの飼い猫が丸くなっていた。
ものはためしだ。
ボクは猫を抱きかかえてパソコンに向かい、サイトを呼び出し猫を撫でながら呪文を唱えた。
朝食のとき、妻がボクの顔をのぞきこんだ。
「どうしたの?朝から嬉しそうな顔して」
「いや、なんでもない。なんか今日はいいことありそうかなって」
「バッカみたい。でも、いつもの辛気臭い顔よりずっといいよ」
職場に向かう電車の中でもワクワクしていた。
いつ幸福が舞い込んできてもいいように心の準備をしておかなくては。

その日の晩。
「で、どうだった?いいことあったの?今日」
妻から聞かれて、朝の呪文のことを思い出した。
会社に着いて仕事に没頭してしまい、すっかり忘れてしまっていたのだ。
で、今日一日をふりかえってみて・・・
特別、幸福なことって何もなかった。いつもとおんなじ、平凡な平日にすぎなかった。
いい年して呪文なんて。
「どうしたの?なに笑ってるの?」
ボクは妻に猫の呪文のことを話した。話の途中から妻がけたけた笑った。
「なにがそんなに可笑しい?」
「フフフ、ゴメンナサイ。平凡な一日って、けっこう幸せなのかもよ」
そういう考え方もないではないなあ。
「あのね、今朝あなたがご機嫌だったから、あたしは今日一日とっても幸せな気分だったわ」
そう言ってボクの肩に頭をのせた。
ボク自身でなくボクと接した人が幸せになる・・・なるほど、そういう呪文だったんだ。
妻の肩に手をおいて、結果的にボクも幸せ気分に満たされて・・・
「それでね、買い物に行ったとき、つい奮発してネコ缶買っちゃった。いつもより高級なヤツ」
足元で丸くなっていた猫が、幸せそうに目を細めて口の周りを舐めた。