mooの再構築

映画のクライマックスに相応しく、地球は木っ端微塵に粉砕した。
虚無と帰した真っ暗なスクリーンに、出演者たちがスクロールしていく。
お馴染みのアルファベット。漢字。見馴れぬ民族文字。
無音のまま、いつ果てるともなく続くエンドロール。
誰も見る者のないエンドロール。
mooの再構築
オヤ?なんだか暗くてなまあたたかい場所に閉じこめられて・・・
ボクってだれ?なにがあったんだっけ?
思い出しました、思い出しました。ボクは子ぶた三兄弟の長男です。
オオカミにワラの家を吹き飛ばされてペロリと食われちゃったんでした。
アア困ったなあ・・・と思っていたら、上から何やら落ちてくるぞ。
ドスン!・・・おやおや次男じゃありませんか。
「兄さん、ボクも食われちゃったあ。木のお家もダメだったよ」
「そっかあ。でも大丈夫、かしこい末っ子が助け出してくれ・・・」
ドスン!・・・あれあれ、末っ子ぶたも落っこちてきたじゃありませんか。
「やあ、兄さんたち。思った以上にずるがしこいオオカミでさあ、このザマだよ」
「とんだおまぬけ三兄弟だな。アッハッハッハ」
大笑いしてると、またなにやら落ちてきます。
次から次へと・・・おやおや七匹の子やぎではありませんか。
「なんでまた七匹まとめて食われたんだ?末っ子やぎは上手に隠れてるはずだろ」
末っ子やぎは頭かきかき、
「イヤ~いとも簡単に見つかっちまって。面目ねえ。あとは母さんの救出を待つしか・・・」
ドスン!母さんやぎです。
子ぶた三匹、母子やぎ八匹のしめて十一匹。ブーブーメーメーにぎやか、にぎやか。
ドスン!今度は赤ずきんちゃんのおばあさん。
ドスン!ほどなく赤ずきんちゃんご本人もご登場。
「大丈夫よ、まもなく猟師がオオカミのおなかをかっさばいて・・・」
ドスン!その猟師も落っこちてきました。
「いやはやこれはもう救いようがない。十一匹と三人、なかよく暮らすとしよう」
すると、その晩。
ワォーーーーン。
ワォーーーーン。
オオカミのやつ、さびしげに遠吠えなんか始めます。
「気の毒にさ、からだの中はこんなににぎやかなのに」
「みんな食っちまうからさ。自業自得ってやつだ」
でも悲しい目をした赤ずきんちゃん、オオカミに声をかけます。
「さみしいオオカミさん、あなたも仲間に入れてあげる。いらっしゃいなっ」
なんてよい子でしょう。
でも、どうやって?
「自分で自分を食べるのよっ」
んなアホな、とは思いつつ、ものは試しと自分で自分を食べちゃって、オオカミは裏返しに。
十一匹と三人は自動的に無事外側面へ。
「オオカミさん、これでみんなお友だ・・・」
赤ずきんちゃん、裏表逆転したオオカミのあまりのグロさに思わず「ウップ」
するとオオカミの改心したはずの心も翻意してリバース!!
再びボクから食われちゃってお話もリバース!!
「キミに涙は似合わないよ。このハンカチを使いなさい」
通勤電車内で涙を流していた私に、ハンカチを差し出したのは阿部寛そっくりの紳士だった。
どぎまぎしてハンカチを受けとると、男は苦み走った笑みをひとつ、電車を降りていった。
ほんの一瞬のできごと。お礼を言う間もなかった。
ハンカチを頬に押し当てると、さわやかな香りがした。
彫りの深い顔立ち、よく響く低音ボイス。なんて素敵なのかしら、阿部寛。
それにしても私、電車の中で涙なんか流しちゃったのかしら。
私は、昨晩の『志村どうぶつ園』の感動シーンを思い出していたら、つい・・・。
でも、涙が出てなかったら、出会いはなかったわけだから、結果オーライかな。
とにかく、お礼をちゃんと言ってハンカチをお返ししなければ。
てなわけで、私はハンカチをお洗濯してアイロン掛けて、通勤バッグに忍ばせた。
阿部寛との再会を期して。
ハンカチと一緒にお礼のチョコレートも入れてある。
チョコの包装紙には、私の会社の名刺が挟んであるわ。
そして私は再会の日を待った。来る日も、来る日も。
だがなかなか会えない。
郊外を走る通勤電車内はさほど混んでいるわけでもないのに。
ああ、どうしちゃったんだろう、阿部寛。

もう半分あきらめかけていた、ある朝。ついに阿部寛を発見!
彼は車内を見回している。私がバッグに手を入れて近づいていくと・・・。
彼は、あらぬ方向へとツカツカ進み、ひとりのOLにハンカチを手渡した。
「キミに涙は似合わないよ。このハンカチを使いなさい」
そして、彼は別の車両へ。
ど・・・どゆこと?
ハンカチを渡された娘は頬を染めてハンカチを握りしめている。私のとそっくりのハンカチを。
私はハンカチ出してじっくり見た。
ハンカチには刺繍文字・・・よく見たらブランド名なんかじゃなくて企業名だ。
つまりこれは、ただの広告?・・・ティッシュ配りみたいなもの?
そーゆーことか・・・。
すっかり脱力して、座席に腰を下ろした。
バッグからチョコを取り出してボリボリ食ってやった。
あ~あ、期待してソンしちゃった。ま、別のターゲットを探すとするか。
うん、あ、けっこうイケるじゃないの、うちの会社のサンプルチョコ。
「ねぇ、コレ、何だと思う?」と、ボク。
「オレもちょっと気になってたんだ」と、同僚。
新しくなった病棟の出入り口横にスチールのシューズロッカーが並んでいた。
病棟に勤務する職員、見舞い客、外来者、皆そこで靴を履き替えなくてはならない。
朝な夕なロッカーを利用するたびに、『コレ』が気になっていた。
ロッカーの視線の高さに貼り付けられた、白い板状の物体である。
20センチあまりの幅広の定規みたいな。
左には液晶の小窓があって、アルファベットが点滅している。
出始めの頃のようなモノクロのくすんだ液晶文字が、ただひたすら点滅しているだけ。
小窓上部には卓上計算機同様の太陽電池が付いていた。
右には、また別のもう少し長いアルファベット。
以上、それだけ。手にとってみても、他にスイッチや蓋といった類のものは一切ない。
磁石棒にしては、ムダにでかすぎる。
時計機能付きなのか?タイマーなのか?いや、温度計?湿度計とか?文字が打ち込めたり?
だが、そいつはいつ見ても同じくすんだ文字列を点滅させているだけなのだ。
一ヶ月も眺めただろうか、文字列を検索にかけてみた。
点滅していたのは、ある医薬品の名称だった。
右の少し長い文字列は、その医薬品を作っている製薬会社。
う~む・・・。解決したわけではないが、広告つきのムダにでかい磁石棒として納得するしかないか。
数日後、ロッカーで上司と出くわした。
ボクが気になっていた『得体のしれないもの』をじっと見つめている。
「なあキミ、コレ何だと思う?」
得体のしれないものの、得体のしれない効果だけは絶大だ。
とある焼肉チェーン店を展開する企業の会議室。
「で?どうだ?お客様に牛肉に親しんでもっと食べていただけるようなアイディアを思いついたかね?」と社長。
「ハイ!牛をモデルにしたキャラクターを作ってみてはどうでしょうか。牛の着ぐるのヒーローです」と広報担当社員。
社長が興味を示した。
「スライドをご覧ください。これが『ウッシッシ仮面』です!!」
映し出されたのは、火焔をバックに仁王立ち、筋骨隆々のマッチョなヒーロー、ただし顔は牛。
「われらが『ウッシッシ仮面』が人気キャラになれば焼肉売り上げアップまちがいなし!」
「よ~し、それいってみよう!」

さて。ここは、地球から遥か数十万光年離れた惑星ブラック。
地球に地球人が暮らしているごとく、惑星ブラックにはブラック星人が暮らしていた。
ただし、彼らの形態は人間とは著しく異なっていた。地球で似ている生物は・・・
う~む、生物じゃないけど、アレ。ゲゲゲの鬼太郎に登場する西洋妖怪バックベアード。
輪郭のはっきりしない黒い球体の周囲に枝分かれした触手、中心部に巨大な眼球がひとつ。
基本的に生活ぶりは地球と似たりよったり。
違う点といえば・・・地球人が牛を家畜するように、ブラック星人は地球人そっくりの『ヒト』を飼育してその肉を食べていることくらいか。
「で?どうだ?消費者に『ヒト』のお肉をもっと食べてもらえるようなアイディアを思いついたかね?」と社長。
「ハイ!『ヒト』をもとにしたキャラを作ってみてはどうでしょう。『ヒト』の着ぐるみみたいな」と社員。
「よ~し、それいってみよう!」
というわけで、薄茶色全身タイツのバックベアード登場。
「えっと、『ヒト』は目がふたつだから目をもうひとつ横に描いて・・・うわっバランス悪ぅ~!」
「消化器官を詰め物をしたら、なんか『ヒト』の鼻っぽいですよ・・・いや、曲がっててグロいなあ」
「肛門を赤く塗ったら・・・あ、なんか『ヒト』の口っぽ~い!」
「眉毛は墨で・・・キャー、マロみたい~」
かくしてキャラは完成したが、部品がビミョーにズレてて不気味。
「よ~し、これで『ヒト』の売り上げアップ、まちがいなし!・・・かなあ?ま、とにかく今年もよいことがありますように!!」