以前綴ったバルザックの「谷間の百合」の読後約二週間、次の候補であった堀田膳衛もしくはジッドを一旦飛び越え今朝読み終えたのが、前々から序盤で途中下車していた、ブラッドベリの「火星年代記」であった。



 さて、この「火星年代記」のこれまでの途中下車には、「華氏451度」の通読で、焚書を通じた真意の読み取りの難しさと、抒情詩人とまで謳われているブラッドベリの作風にその抒情性を感じ取れなかったという、根深い抵抗感が少なからずあったものと思われる。



 しかしじっくり読んでみると、この固定観念がまったくの固定観念でしかないことが分かった。


 故郷地球を棄て、火星へ旅立つ人々が新天地でも繰り返す創造と破壊、そして限りない孤独感。

 青く煌く故郷、地球への万感の想いに、地球に居るはずの読み手の私まで、地球の生活を懐かしんでしまうといった、素晴らしい情感を得ることが出来たのだ。


 なお、「華氏451度」「火星年代記」の両作ともハヤカワ文庫のジャンル表示が「NV」となっている。



 小説ジャンルになっているのは、作品を読めば感じ取れる溢れる抒情性と、作品を通じて訴える世の中への風刺がSFの域を超えた文学性があるからと思っている。

 おそらく、今年の読書において最も感銘を受けた作品である「火星年代記」。

 これから何十年も何百年も読み継がれて欲しいと願う作品である。