注意の話⑧-共同注意の話②(共同注意で悩みを防ぐマインドフルネス瞑想の話その一) | 粳間メンタルリハビリテーション研究所/一般社団法人iADLのブログ

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いつもお世話様です!

高次脳機能障害・認知症・発達障害のための集団メンタルリハビリテーション「オレンジクラブD」第122-123回の内容をまとめてお届けいたします(4/9,4/16)。
 
今回は「共同注意」の話の続編として、「共同注意で悩みを防ぐマインドフルネス瞑想の話」の解説をします。
 
その話をするに当たり、最初に、「共同注意と言語学習の関係」の話から入ります。
 
ちょっと本題と関係のない話に聞こえるかもしれませんが、本題理解しやすくするための説明ですのでお付き合いください。
 
なお、前回のお話の続編ですので、前回記事を未読の方は先にこちらをごらんください。

☆共同注意の解説
https://ameblo.jp/u-mri/entry-12364809427.html
 
 
☆共同注意と言語学習の関係
 
共同注意行動には、相手の注意対象を検出する事(他者の注意のモニター)によって、「相手の意図を読み取る能力(≒視点取得-perspective taking)」が含まれます。
 
この、他者の注意のモニター機能と視点取得は、言語学習にも大きな影響を持ちます。
 
まずは下のスライドを見てみましょう。
 

 
 
これは、言語学で、「ガヴァガーイ問題」と呼ばれるモノを表現したスライドです。
 
未開の地で、現地の人が、草むらからウサギが飛び出すのを見て「ガヴァガーイ」と叫んでいたらどういう意味だと思うか?という問いかけ。
 
「ウサギ」以外にも、「びっくりだぜ!」「捕まえろ!」など、ガヴァガーイという言葉が一体何を意味するのか?色々と解釈できます。
 
つまり、このスライドのような状況を見て、ガヴァガーイと聴いただけでは、どういう意味なのか特定できないということです。

ガヴァガーイ問題は、言葉の意味は、「言葉以外でも意味がわかる状況」で教えないと覚えられない。
 
それどころか混乱しますよ?という問題提起です。
 
さて、では、「言語以外でも、言葉の意味が分かる状況」とは、どんな状況でしょう?
 
その状況とは、「他者の注意のモニター→視点取得」によって、相手の意図が読めている状況を指します。
 
相手が何を言わんとしているのか、その意図を自分が読めている状況で聞いた場合のみ、人は、はじめてきく言葉の意味をすぐに理解できます。
 
しかしながら、「他者の注意のモニター→視点取得」の流れが正確に働くためには、相手のことをよく知っている必要があります。
 
未開の地の現地人が例に挙げられているのは、「その人たち自身をよく知らない」だけでなく、「彼らの文化等もわからない」ので、その考えを予測する事がとても難しいからです。
 
つまり、極めて共同注意が作りにくい相手の例であり、そうなると、相手の意図を全く読めないから、彼らの言葉を聴いても、何を指しているのか全然わからないでしょ?と。
 
さて、同じような問題は、わざわざ未開の地に行かなくても十分、経験できます。
 
"相手側の共同注意が働いてないとわかる状況で、「言葉を教える」、あるいは、「意図を伝えようとしてみる」"。
 
これでわかります。
 
今度は下のスライドを見てみましょう。
 

 
さて、スライド上の指導と、スライド下の指導の、大きなちがいは、指導するタイミング(2コマ目)での共同注意のありかたです。
 
どちらの先生も、1コマ目で、子供が「座ること」に注意を向けていることは検出できています。
 
一方で、スライド上の先生は、子供の注意が「座ること」からそれたタイミングで、「じっと座っていなさい」と指導しています。
 
これでは、「じっと座る」という言葉が、何を意味しているのか?わかりにくくなります。
 
これぞ、"相手の共同注意が働いていないとわかる状況で、「言葉を教える」、あるいは、「意図を伝えようとしてみる」"ということであり、ガヴァガーイ問題同様の混乱を与えます。
 
これに対して、スライド下の先生は、子供の注意が「座ること」に向いているタイミングで、「ちゃんと座っているね」と褒めています。
 
この状況ならば、「ちゃんと座る」という言葉が使われた意図が、わかりやすい。
 
先生が最後まで子供の注意にあわせることで、共同注意を形成しているからです。
 
さて、共同注意が言語学習にも重要であるということが伝わりましたでしょうか?
 
共同注意が形成できている状況では、「言葉を教えること(or 教わる事)」も、「意図を伝えること(or 意図を読むこと)」も、容易になります。
 
スライドの下の先生の例では、先生が最後まで子供の注意にあわせることで共同注意を形成していますが、実際は、相手からあわせてくれることのほうが稀でしょう。
 
他者との会話の中で、言葉の意味を覚えるためには、そもそも相手の言葉が何を指しているのか?(意図を)、「他者の注意のモニター→視点取得」によって読まなければならないことのほうが実際は多いでしょう。
 

ちなみに、自閉症スペクトラム障害(ASD)では、共同注意の問題が指摘されています
 
有名なのは、相手の目を見ない、顔を見ない、そもそも相手を見ない、等といった独特の行動傾向です。

同時に、「あいまいな言葉の意図が理解できない」ことも知られていますが、言語機能の問題ではなく、共同注意に関連した問題に起因すると想定されています。

他者の言うあいまいな言葉の意図を理解するには、その言葉を聞くだけでは不十分で、「他者の注意のモニター→視点取得」によって他者の意図をある程度絞り込む必要があります。
 
よって、共同注意に問題があるASDでは、あいまいな言葉の意図を理解することは困難になるだろうと考えられています。
 
 
☆共同注意で悩みを防ぐマインドフルネス瞑想の話
 
さて。ここからが本題です。
 
「共同注意を使って悩みを防ぐマインドフルネス瞑想」の話に入ります。

まずは復習。
 
悩まないための、注意を外向きにするエクササイズの復習の話からです。

記事を見ていない方はまずこちらを先に見ることをおススメします。
その1: https://ameblo.jp/u-mri/entry-12338590292.html
その2: https://ameblo.jp/u-mri/entry-12357988456.html
 
悩み事や考え事が多いとは、頭の中に向けた「内向きの注意(≒ワーキングメモリー)」に注意資源が割かれ過ぎて、外の世界に向けた「外向きの注意(≒一般的な注意)」がおろそかになっている状態と同義です。
 
逆もまた然りで、頭の外の世界に注意を注げば、悩めません。
 
内向きの注意と外向きの注意にはトレードオフの関係があり、注意を外に向ける事が、「悩めない状態」を作ります。
 
 
さて、「共同注意」の要素には、「他者に対する注意」「他者の注意対象に対する注意」が含まれ、これは、自分から見たら、外向きの注意に当たります(主に視覚・聴覚を介した注意)。
 
よって、共同注意を働かせようとするほど外向きの注意が強くなる事になり、これだけでもかなり「内向きの注意」を妨害してくれます。

共同注意の場合は、さらに、「この人は何をしようとしているのだろう?」と、他者の意図読みをする(視点取得をする)事で、内向きの注意を直接的にも妨害します。
 
自然と、考えが頭の中に割り込んできます。
 
 
皆さんも、この記事の最初のガヴァガーイ問題のスライドを見たときに、「ガヴァガーイって何?」と、自然と頭に思い浮かんだのでは?
 
 
その感覚が、共同注意によって内向きの注意が直接妨害される感覚です。
 
 
文章の説明ではわかりにくかった人は、以下のスライド紙芝居を見てみてください




 
 


 
 
他者の動きや行動に外向きの注意を向ける事によって、共同注意(特に視点取得)は自然と発動します。
 
それに伴い、外向き注意⇔内向き注意のトレードオフで、内向き注意に注がれる注意資源が減ります。
 
また、共同注意発動に付随して、他者の意図を読もうとする考えが、内向き注意に割り込んできます。
 
これによって、もともと「悩みごとや考え事」があった場合は、強力に妨害されます。

共同注意は、それに必要な機能に障害のない限り、基本的には他者を見るだけで自然と発動します。
 
ようするに、他の人を眺めているだけで、ある程度は、悩みごとは防がれるはずなのです。
 
 
前回の記事でも紹介したように、共同注意は、異種の動物間でも働くので、人を見なくても、犬を見るとかでも大丈夫です。
 
動物の動きを集中して見ていると、「遊びたいのかな?」とか、意図の予想は自然と頭の中に割り込んできます。
 
その読みが当たっていなくても、マインドフルネス訓練では全くもって結構。
 
それだけでもあなたの悩みは妨がれています。
 
 
☆悩みと共同注意にはトレードオフの関係がある

さて、自分だけの内向き注意(≒悩み)と共同注意はトレードオフの関係があることがわかりましたでしょうか?
 
共同注意に必要な機能そのものに問題がなくても、悩みが強すぎれば、共同注意は悪くなります。
 
「人の意図が読めない」「あいまいな言葉がわからない」「空気が読めない」などを理由に、発達障害専門外来を受診する人は多くいますが、実は、「共同注意そのものには問題がない人」が少なくありません(要するにASDではない)。
 
その場合は、自分だけの内向き注意(≒悩み)が強すぎて、外向き注意に気を回す余裕がない(→他者の注意や注意対象が検出できない)ために共同注意が使えない→他者の意図も読めないパターンや、他者の注意・注意対象に気付けても意図の予想が出来るだけの内向き注意の余裕がないパターンが多いです。
 
 
少しでも心当たりがあれば、まずは、他者の動きに目を向けて、耳を傾けてみましょう(動物でもかまいません)。
 
他者の意図の予想が、自然と頭の中に割り込んでくる感覚が分かるはずです。
 
でも、無理に解釈をしないようにしましょう(仮に考えても答えは永遠にわかりません)。
 
そのまま、他者の動きに目を向けて、耳を傾け続けて。
 
 
共同注意を用いて悩みを防ぐ訓練の基本は、本当にそれだけです。
 
 
「他者の動きに目を向け、耳を傾け、意図を解釈しない」
 
この一言につきます。
 
これだけで、ある程度の悩みは、自然と防がれます。
 
ぜひ試してみてください。
 
 
意図の解釈が重要になるのは、言葉を覚えようとするときや、正確な意図を読まなければいけないときだけです(前半の話参照)。
 
悩みを防ぐためには、考えないほうがよいです。
 

え?
 
これだけでは物足りない???
 
上手くできない???
 

そんな方のために、もう少し具体的で強力な、共同注意で悩みを防ぐやりかたを、次回解説しようと思います。
 
お楽しみに!
 
 
参考文献
1.粳間剛, 仙道ますみ.高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座. 三輪書店 2017
https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4895906027
2.共同注意:脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%85%B1%E5%90%8C%E6%B3%A8%E6%84%8F
3.フランス・ドゥ・ヴァール. 良識ある行動を取る動物たち. TED
https://www.ted.com/talks/frans_de_waal_do_animals_have_morals/transcript?language=ja
4.フランス・ドゥ・ヴァール (著), 松沢哲郎 (監修), 柴田裕之 (翻訳)
動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか. 紀伊国屋書店2017
5.フランス ドゥ・ヴァール (著), Frans de Waal (原著), 柴田 裕之 (翻訳)
道徳性の起源: ボノボが教えてくれること. 紀伊国屋書店2014
6.Yoshida K, et al. Single-neuron and genetic correlates of autistic behavior in macaque. Sci Adv. 2016;2:e1600558.
筆頭著者・責任著者による日本語解説→http://www.koseisouhatsu.jp/activity/release/20161007_research/images/ASD.pdf
7.Zimmermann J, et al. First-person Pronoun Use in Spoken Language as a Predictor of Future Depressive Symptoms:
Preliminary Evidence from a Clinical Sample of Depressed Patients. Clin Psychol Psychother. 2017;24:384-391.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26818665
8.Cohen EE, et al.Rowers' high: behavioural synchrony is correlated with elevated pain thresholds. Biol Lett 2010;6:106-108.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19755532/
 

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