少々更新に間が空いてしまいましたが、「ドメイン名の不正使用について ~J-PHONE事件~ 」の続きで、ドメイン名の不正使用についてより考察したいと思います。




「j-phone.co.jp」ドメインをジェイフォン株式会社以外の事業者が不正使用したことにつき、不正競争防止法が認められました。



今回は、不正使用かどうかが争点になった事件のうち、不正使用にならないと判断されたケースを取り上げたいと思います。



今回は、「MP3ドメイン事件」です。










【MP3ドメイン事件】





この事件は、「mp3.co.jp」ドメインの登録者である原告「有限会社システム・ジェイケイ」が、被告「エムピー3.ドット・コム・インコーポレイテッド」よりmp3.co.jpドメインの使用差し止め請求を受けたため、被告(エムピー3ドット・コム)が原告に対しドメイン使用差し止め請求権を有しないことを確認するために訴訟となったものです。




ちなみに、原告「有限会社システム・ジェイケイ」はパソコン周辺機器の開発、輸入及び販売並びに音響製品の販売等を目的とする会社となります。



被告(エムピー3.ドット・コム)は「mp3.com」という名称の音楽配信サービスを行っている会社となります。mp3.comというのは、みなさんも一度は聞いたことがあると思われるほど著名なものでもあります。




ちなみに、判決文には、日本から「mp3.com」サイトを閲覧した人数は、平成11年11月の1か月間で938万人にもなるとの記述があります。すごい数ですね。




なお、判決文によると原告は「mp3.co.jp」ドメインを使用したウェブサイトを開設したものの、このウェブサイトは裁判になった時点で「このサイトはmp3.comとは一切無関係です。MP3に関連する日本国内でのビジネスを展開するために準備中です。」という表示があるのみで、実質的に利用されていない状態であったようです。また、このウェブサイトを通じてこれまでに原告が何らかの商品の販売等を行った実績もないようです。




そして、平成13年2月頃に、原告が有するmp3.co.jpドメインを被告(エムピー3ドット・コム)が買い取る旨の申出があり両者は交渉をしたようですが、被告(エムピー3ドット・コム)が提示するドメイン買い取り金額がドメイン登録費用相当額であったため、原告はその額では応じられないとして交渉は決裂したという経緯があります。








【不正の利益】



これらをもとに、裁判所は、原告がドメインmp3.co.jpを有するに当たり不正の利益を得る目的があったのか又は他人に損害を加える目的があったのかどうかといった点を基準に以下のように判断していきます(東京地裁 平成13年(ワ)第12318号)。





(東京地裁)

被告(エムピー3ドット・コム)が設立されたのは平成10年3月であり、原告が将来設立される原告のために他者にmp3.co.jpドメインを取得させたのも同じく平成10年3月(後に原告にドメイン移転)であるため、原告が将来被告(エムピー3ドットコム)にドメイン名を不当に高額な値段で買い取らせたり、被告表示の顧客吸引力を不正に利用して原告の事業を行おうなどの不正の利益を得る目的を有していなかったことは明らかである。」




また、「mp3」の語は、原告が設立された平成10年には、一般的な語として普及しており、また様々な商品及びサービス等に使用されていて、「mp3」の語が含まれるドメインも数多く存在しているということを判示。そして、そのいずれも被告(エムピー3ドット・コム)が有していないということを前提に




(東京地裁)

「原告が有するドメインmp3.co.jpは、mp3に関連した事業を行う者又は将来同事業を行う可能性のある者にとっては、相当に高い財産的価値を有するものであることが認められる。~原告は、現在は原告サイトを実質的には利用していないが、将来、mp3に関連する事業を行い、同事業のために原告サイトを利用する可能性は十分認められることからすれば、原告にとって、mp3.co.jpは登録費用相当額を超える相当に高い財産価値を有するものであるということができる。~よって、原告が、被告から登録費用相当額でmp3.co.jpドメインを譲渡するよう要請されたのに対し、これを拒絶したとしても、mp3.co.jpドメインの財産価値からすれば、むしろ当然のことである。」





このように判示して、原告がドメインmp3.co.jpを有するに当たり不正の利益を得る目的はなかったと判断。続いて




(東京地裁)

「原告がmp3.co.jpドメインを登録して以来、原告サイトにおいて掲載した情報には、被告(エムピー3ドットコム)を中傷する内容の情報やいかがわしい情報を掲載したことはない。




等の理由により、原告がドメインmp3.co.jpを有するに当たり他人に損害を加える目的もなかったものと判断しました。最後に



(東京地裁)

「ウェブサイトにおいて、ドメイン名の全部又は一部を表示して、商品の販売や役務の提供についての情報を掲載しているなどの場合には~ドメイン名を商品等表示として使用していると解すべき場合もあり得る。原告は、原告サイトにおいて、「ボイスメモ&電話帳機能付の超小型携帯型MP3プレイヤー」に関する情報等を掲載したことがあるが、その際に、ドメインmp3.co.jpを示す文字列を原告サイト上に掲載したと認めることはできず、その後は、原告サイトにおいて、商品の販売や役務の提供についての情報は一切掲載されていない。」





と判断し、こられの理由により原告が不正競争を行っていたとは認められず、今後も不正競争を行うおそれがないとして、被告(エムピー3ドット・コム)が原告に対しドメインmp3.co.jpの使用差し止め請求を行う権利はないとされました。








【裁判のポイント】


今回の裁判のポイントは以下のようになります。



・不正な利益を得る目的があったのか

・他人に損害を加える目的があったのか

・ドメイン名をウェブサイトページ内に表示して商品を販売したり、サービスを提供したことがあるのか




これらに該当しない場合は、他者の著名なサービス名称を含むドメインを有していたとしても、不正競争に該当しないと考察できます。




よって、前回の「J-PHONE事件」においても、上記のポイントに該当しないような場合であったのなら、不正競争に該当しないと判断された可能性があります。




ドメインの不正競争を考えるうえで非常に重要な判決であったと思います。続いて次回は、ドメインの紛争裁定を行う日本知的財産仲裁センターについて取り上げたいと思います(続き「ドメインに関する紛争処理 ~Twitter事件~ 」)。




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