ここに来て1年と9ヶ月。

 


縁もゆかりもない所へ来たせいなのか、私の性格からなのか、
自然が綺麗すぎるせいなのか、良くも悪くも、ずっと孤独だった気がする。

 

 

でも私には、すごく寂しい時に思い出せる顔がある。
それは、色白で小っちゃくて、ちょっと犬っぽい、彼女の顔。


 

以前に、ネイチャーガイドの仕事をしていた時、
私より7歳も年下で、元気で、可愛らしい同僚がいた。

 


「実家で、白い日本犬のミックスを飼っているんです!」と嬉しそうに
写真を見せてくれたことがあって、彼女と似ていたから笑ってしまった。

 

 

その仕事を辞める時も、今と同じように、気持ちも行動も停滞していて、
なんだかずっとつらくて寂しかった。

 

 

そんな気持ちを彼女に話したのは、雪の中を歩いている時。
いつも元気な彼女なのに、何も言わなかった。

 


静かな時間が続いて、ただ、雪を歩く音しか聞こえなかった。

だから、いきなり彼女がしゃがみこんだ時にはびっくりしたのだ。

 


彼女ったら、雪に顔をぽふっと埋めている…!

私が「ちょっと…!?」と言いかけたら、
彼女は雪がついたまつげのまま、笑って私を見上げてきた。

 

 

「これ、見てください!」
彼女が指さした先には、雪で出来た彼女の顔。

 


雪質が良かったからか、細かい表情まで残っている。

それを見た私たちは、笑った。
さっきまで深刻で泣きそうなくらいだったのに、涙が出るくらい笑った。

 

 

「つらい時は、これを思い出してください。」
彼女は、雪の変顔をカメラで撮ってくれたのだけれど、
雪の白さが強すぎて、写真にはうまく残らなかった。

 

 

彼女って、自分を犠牲にしてまで仕事をしたり、誰かを助けたり、
不器用で優しくて、端から見ていて、損してるよなぁと思ってた。

 

 

でも、そんな彼女の優しさは、染みた。
仕事の虚しさも、将来への不安も、何も解決しないけれど。

 


うまく言葉が見つからなくて、でも一生懸命に私を笑わせようとしてくれる、
そんな同僚というか、友人がいるのだ。
私ったら、彼女と別れて車に乗った瞬間に、泣いた。

 


あれから5年。
今夜、ここにも積雪の予報が出ている。
彼女の、あの優しい雪の変顔は、今でも私を支えてる。