バイデン親子が「中国で儲ける説」の裏付けが続々


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バイデン親子が「中国で儲ける説」の裏付けが続々
息子と自身を巡るスキャンダルが沸騰しているバイデン候補(写真:ロイター/アフロ)

 筆者が「米国を論評する『バカの壁』」を上梓した同じ日に、「バイデン息子スキャンダルの裏に『中国の仕掛け説』」という論考がJBpressで配信された。その内容は、米国での報道とほぼ一致するどころか、結構なコストをかけて調べないとわからないことまで取り上げている。すごいことだ。

中国華信能源(CEFCチャイナエナジー)とハンター・バイデン氏の関係を白状したトニー・ボブリンスキ氏(写真)
 米国政治に関する論考を書く日本人は非常に多いが、そのほとんどが反トランプで、いわゆる「ヨコタテ(英字紙を日本語にしたもの)」も多いが、不思議なことにバイデン親子のスキャンダルに関する論考はほとんどど目にしなかった。これは米国のメディアが無視していることの影響だろう。

 ところが、その闇の大部分を日本人女性の中国ウォッチャー(福島香織氏)が突いたのである。筆者は彼女を全く知らないが、こうしたグローバルの視点が一段と強まることを希望して、著者の福島氏には申し訳ないとは思うものの、この分析がどれだけ正しく、また米国での事実を重ね合わせるとどうなるかについて書いてみたい。

■ 在米華人がハンター事件流布の源だと信じられる理由

 彼女の話の情報ソースの多くは、在米華人(ここでは華僑と呼ぶ)、中でもYoutuberの「路徳社」だと思われる。ここは米国ではLude Mediaという名前で中国語による情報発信を行っている。このYoutuberの情報を見ると、「仮説を立てた上で、事実を丹念に確認しつつ問題の重要性を指摘している」ことがわかる。そこからは、彼(Youtuberの「路徳社」)が米国政治についてかなり勉強した後がうかがわれる。

 この話の発端は、ハンター・バイデン氏(バイデン候補の次男)が、壊れたパソコンを修理業者に持ち込んだにもかかわらず、それを取りに来なかったことから始まる。ここでは、彼女の話には入っていない時間軸を付けて振り返ってみよう。

■ 「路徳社」と米国の華僑ネットワーク

 既にリークされている米連邦捜査局(FBI)の情報と、この修理業者からコピー(複製)を受け取ったジュリアーニ・元ニューヨーク市長(現トランプ大統領の私的弁護士)からの話を総合すると、このパソコンが修理業者に持ち込まれたのは2019年4月だから、今から1年半前だ。

 修理が終わっても取りに来ない、すなわち修理代を払わないハンター氏に不審を抱いた修理業者が電話しても連絡が取れない。それで困った修理業者がハードディスクの中身を見ると、高度な国際取引を示すメールと少女ポルノのようないかがわしい写真が保存されていた。

 ここで、4つのハードドライブにコピーしたのは修理業者が慎重だったということか。それとも、うまくいけば儲かると考えたか。いずれにせよ、修理業者がFBIに連絡をしたのが2019年12月。その際、この修理業者は、他言すると自分の身に危険が及ぶかも知れないという、助言とも命令とも受け取れる言葉をかけられたと言う。

 その後、FBIからの連絡も来ないし、表向き何も起こらない(メディアにも出ない)ので、身の危険を感じてロバート・コステロ弁護士(ジュリアーニ氏の顧問弁護士)に4つの内の1つを渡したのが2020年7月。そして、ニューヨーク州で最も歴史があり、最も発行部数の多いニューヨーク・ポスト(NYP)が一面で取り上げたのが10月14日。同じニューヨークなのでジュリアーニ氏のリークといったところだろうか。

 ところが、福島氏によれば、路徳社が発信したのは9月24日なので、NYPより20日ほど早い。本件ではこれがとても大切で、NYPというニューヨーク州のローカル紙が、副大統領の息子とはいえデラウェア州での事件を掲載する背景には、この20日間に口コミによる広がりがかなりあったということが想像できる。

 つまり、4つの内の1つを路徳社に渡したか、華僑の別の誰かに渡したものが路徳社に渡ったということになり。ほぼ間違いなく、修理業者と華僑の間に入る人間が存在したことがわかる。

 なお、筆者の知る限り、米国の多くの企業でコンピューター管理の仕事をしているのは華僑であり、パソコン修理業者は華僑の経営か、華僑が働いているのがほとんど。今やパソコンは中国製または中国製部品が多く、これを割安で得られるルートがあるからだと聞いたことがある。このデラウェア州の修理業者も似たような環境だったのだろう。

 もう一つの事実は、米国への移民のうち、華僑と印僑には互助会のような相互支援の仕組みがかなりしっかりできていて、例えば不法移民として来米した人々もこのシステムに守られて合法移民になっている点ではないだろうか。これは噂ではなく、筆者が事実として知ったものだ。

 華僑はWeChatを多用するほか、Youtubeは記事に制限を加えなかったので、FacebookとTwitterがジャーナリズムに挑戦するような転送制限などをかけても、話が拡散したのだろう。

■ 華僑の目的はトランプ支援かバイデン牽制か

 2020年7月から8月にかけて、トランプ政権のポンぺオ国務長官は、バー司法長官、エスパー国防長官、ウレイFBI長官と4回にわたって対中政策を発表した。この時、相手は中国ではなく中国共産党だということを明確に示唆した。もとはヘイリー元国連大使が「敵は中国共産党」として募金を集めたのがきっかけだが、今や全米でこれは常識となっている。

 一方、民主党を見ると、バイデン、ハリス両候補が中国との関係改善を唱えている。また、閣僚候補のフィンク・ブラックロックCEO(最高経営責任者)は中国投資の推進者であり、クオモ・ニューヨーク州知事も新型コロナで人工呼吸器を無償供与してくれた中国を友人と呼ぶなど超リベラル(=プログレッシブ)を中心に親中派が多い。デブラシオ市長に至っては、ニューヨーク市警が身に着けるカメラに中国製を採用している。中国によるハッキングにリスクを感じてはおらず、米国の脅威は中国ではなくロシアだと言い切っている。

 ウイグルや香港の人権問題を許さないとするペロシ下院議長などの民主党中道良識派の意見も、超リベラルには人権問題という観点からでのみ受け入れられているのが実情だ。

 この構図からも、再び福島氏の見立てが正しく思える。

 米国の華僑は人により支持政党が異なるかもしれないが、どちらを支持するにせよ、米国が中国の思いのままにならないことを目指していると考えられるからだ。筆者は中国内の政争は全く知らないものの、ハンター氏が米中間で活躍を始めた頃には江沢民派がまだ権限を持っていたことを考えれば、バイデン親子がここに食い込んだというのはほぼ事実だろう。

 なお、別の視点からも彼女の見立てが正しいと思えるのは、トランプ政権は米中貿易および米中水平・垂直分業による米企業の利益は守るとの判断に動いている。米中貿易が企業の利益になるということを考えれば、同政権にとって敵は中国共産党の対米敵対意識のみである。これを支援するのは反習近平政権の華僑となる。

 一方、バイデン陣営に対して国民の8割が新型コロナで反中になった中、将来のためにハンター事件という楔を打っておけば、米国が民主党政権になっても、在米の華僑の地位は安泰となる。バイデン候補以外にも、中国人とおぼしき名前の人物から巨額の寄付を受ける民主党の政治家は多い。その背後には、親習近平政権の華僑がいることが見て取れる。つまり、バイデン政権と民主党議会に対して、選挙後に手のひら返しさせないよう、脅しの材料を突きつけたことになる。

 ここで難しいのは、習近平政権がどちらを期待しているかだ。人権問題にこだわる民主党よりも、金の問題で解決できる共和党を支援している可能性が、実は意外とあると筆者は感じる。

■ 追加の証言者は何を白状したか? 

 さて、日本人中国ウォッチャーの話には追加情報が出ている。

 まず、10月17日にはハンター氏の対外ビジネスの仲間だったピーター・シュバイツァー氏がメールをFBIに提出したことだ。ここには、メールの相手として多くの中国人が含まれているらしい。

 また、その後、別の仲間のトニー・ボブリンスキ氏が、中国華信能源(CEFCチャイナエナジー)との関係を白状した。その際、バイデン候補がハンター氏などのメールに出てくる「Big Guy」と呼ばれた人だと明かした。

 しかも、バイデン候補が、ハンター氏とCEFCチャイナエナジーの葉会長とともに作った会社の株式を10%を持ったことも証言したほか、電話記録にある、中国からの電話に出ていることも判明している。

 なお、このボブリンスキ氏については、トランプ大統領が10月22日の第3回大統領テレビ討論会に招待した。これは、前回(2016年)の討論会で、モニカ・ルインスキー氏(夫のビル・クリントン大統領がホワイトハウスで不正性行為をした相手)を招待するとしていたのと同じ構図だ。

 ちなみに、このCEFCチャイナエナジーの役員であったパトリック・ホー氏は、2017年11月に海外腐敗取引法違反で、米国で逮捕されている。興味深いのは、この時に問題を大きく取り上げたのはニューヨーク・タイムズ(NYT)だったのに、今の同紙は沈黙している点だろう。

■ 日本人として知っておきたい二つの真実

 この華僑の反習近平政権意識の強さは、日本には計り知れないほど激しいものがある。それを示唆する二つの事象を挙げて、本稿を終えたい。とにかく、日本人中国ウォッチャーの米国事情の分析は鋭かった。

 一つは、2014年9月の訪米時に安倍首相がコロンビア大学を訪問したときのことだ。この時、安倍首相は同校の正門につけた車から講演会場に行く間、人だかりになったアジア系の学生に大歓迎を受けた。「あべエー」と声援も乱れ飛んだのだが、これはほとんどが中国系の学生だった。筆者も、筆者の知る日本人学生も、それを目の当たりにした。親米路線で反中にあった安倍首相への賛辞だったのだ。

 もう一つは、福島氏の書いた9月24日のハンター氏事件の最初の報道が今に続いている話だ。NYPが一面で掲載した日の前日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はバー司法長官が「ロシアゲートの問題について誰を起訴することなく終わる」と述べたことを載せていた。

 想像を働かせれば、司法省の判断に対して、「それは違うだろう」という華僑情報を持つ人々の意志がNYPの掲載につながったのだと言える。

 このWSJは10月19日にオピニオン欄にハンター問題について触れているほか、10月22日の米大手メディアの朝刊各紙は、トランプ案件として同じ流れにあるバレット最高裁判事指名・承認が米国の世論に支持されていることを書いている。

 ごく最近の民主党の態度があまりにおかしいからだろう。

 一方、バイデン候補は、この10月14日のNYP報道を受けて犬笛を吹いた。全米の同候補支持者たちに期限前投票を急がせよ、と指示したのである。これが、昨日あたりから、日本でも「急に期日前投票が増えましたね」という感想につながっている。

 米国では、問題が一段落してから事実が出てくるというパターンは少なくない。今回も、大統領選挙が終わってから捜査の公表などが進むのかもしれない。少なくとも、FBIは2016年のクリントン候補の勝利を妨げたと民主党から非常に厳しい批判を受けたので、今回は慎重なのだと思われる。

 さて、これからの展開が楽しみだ。

小川 博司