15:05-17:00 名古屋市港文化小劇場 3,000円
15:05-16:05 第1幕
16:15-17:00 第2幕

ネタバレあります!!!
ご注意下さい!!!

 


作:麻創けいこ 演出:久保田明
【ストーリー】
(第1幕)
磯野達夫が雑巾とバケツで雨漏修理をしようとしていると電話が何度も鳴る。
ケアハウス設置の役所の許可が難しそうだとか、共同作業所の中古ミシンの修理に時間がかかりバザーに間に合わないとか・・・
達夫が伝言メモを壁に貼り貼り、様々な相談が持ち込まれてくる。
妻の磯野里美が中心となり、障害者を育てる会を運営しているからなのだ。
里美が戻って来て伝言を確認していると、息子の磯野遼一が赤ん坊を抱えて帰って来て押入れに閉じこもる。
続いて見知らぬ女が飛び込んで来て居間を一瞥すると2階へ駆けあがっていく。
誰?達夫に不審人物の侵入を告げると、今度は警官がやって来た。
警官によると、遼一が赤ん坊を奪って逃げているというのだ。そんなバカな!
女は母親で2階から降りてきている。警官は押入れの良一を引きずり出そうと拳銃に手をかけるが、里美が仁王立ち。
そんな事をするハズが無いし、こんなやり方は怯えさせるだけと、遼一に話しかける。
穏やかなに諭し、遼一が出てくると赤ん坊を確かに抱いている。
おばあちゃんの磯野ふみが帰って来て、聞いてきた話をする事には・・・
母親が赤ん坊を抱いて踏切の前で立っていた。自殺をする様子だったので、遼一が赤ん坊を奪って駆けだしたのだと、踏切前の電気屋のおばさんが目撃していた。
母親は泣き崩れ、警官もようやく事情が分かり、早とちりな対応を遼一に謝るのだった。
色々な事情を慮り、里美は遼一を褒め、赤ん坊を抱えて蹲っている母親の肩に手をやり言った。
これから色々あるから。いろんなことが・・・と、そう言い聞かせるのだった。

遼一が小学校へ上がる時、校長室で里美は面談をしていた。遼一は発達遅れの障害があり、養護学校を勧められていたが、里美は普通の学校へ行かせてやりたいと頑張っていた、
そこへ、三隅志摩子がやって来る。同じような境遇で、娘の陽菜子の事で呼び出されたのだが、もっと優しく対応してくれればそんな事にはならないと抗議している。
それが、里美と志摩子の初めての出会いだった。
一緒に帰る雨の降る道すがらに、日曜学校的な交流の場や、障害者が働ける作業場、一緒に暮らせるケアハウスを作りたいと夢を話し合う。
すると、雨がいつの間にか止んでおり、虹が綺麗にかかっている。
2人は、あの虹に一緒に夢を実現させるように頑張ろう!と誓うのだった。
そして2人は「虹の彼方に(over the rainbow)」を口づさむのだった。

やがて娘も生まれた頃、遼一の山浦先生が突然家庭訪問に来ると電話があった。
一緒に親の二階堂敦子も同伴でやって来た先生は、遼一が女の子を突き飛ばして怪我をさせたと説明する。
親は凄い剣幕で文句を言っているが、遼一はいつもの押入れにいて、すべて聞こえている。
押入れに閉じこもっている事に驚く先生と親だが、里美が本当かどうか尋ねても返事がない。
達夫も里美も、まさか遼一がと思い始めた時、ふみが優しく質問し、襖を叩く回数ではいといいえを答えさせる。
ようやく、返事をする遼一に突き飛ばしたのは事実だが、その理由は・・・
ふみが遼一の背中を見るとみみずばれが出来ていた。
遼一は、怪我をさせた女の子たちにイジメられていたのだ。それに耐え切れず抵抗して突いてしまったのだと、ふみはその現場を見ていた寺の和尚から聞いていた。
親は雲行きが怪しくなったとそそくさと帰って行き、先生も居場所がなくなり逃げるように帰って行った。
遼一と里美は、遼一を信じ切れなかったことを後悔し、今後は絶対にお前を信じるから!と謝るのだった。

遼一は就職し、部品の不良品検品の仕事をして数年が経った頃、元気なく遼一が帰って来ると言った。
仕事、辞める。もう、行かない・・・里美は驚いて理由を尋ねる。
増産の為に忙しくなり、不良品の検品の正確性を求める遼一の作業が遅いと叱られると言うのだ。
早くすれば不良品が多くなるかもしれない事が、遼一には我慢がならないのだ。
里美は、遼一が正しい事は理解しつつも、辞めるならばその理由をちゃんと説明してきなさいと送り出すのだった。

ケアハウスの目途が立ち、バザーの準備やあれこれで忙しいある日、志摩子の元気がない。
ついには座り込んで項垂れている。里美が話を聞くと、病院で検査の結果・・・
ガンが見つかったのだ。それも、末期の。志摩子は、恐れていた。陽菜子の将来を。自分がいなくなれば娘は・・・
泣き崩れる志摩子に里子は、自分がしっかり見守るからと約束するのだった・・・
そして1年後・・・志摩子は亡くなった。

(第2幕)
遼一の再就職は厳しくなかなか雇ってもらえなかった。
今日も両親同伴で面接を受けていた。試用期間3ヵ月で給料は・・・随分と安い。
里美が猛然と立ち上がり抗議して、勝手に断ってしまう。
帰り道、遼一は母に抗議する。自分の仕事は自分で決めて働きたい!
そして、忙しい母ではなく、自分だけの母親が欲しいと願うのだった。
里美は押しつけを反省し、達夫もそう願うのだった。

娘の早苗も成人し、婚約者を初めて連れてくる日、達夫はネクタイ選びに困っていた。
普段通りでと言う里美に反して、ふみは着物姿で登場し、2人を唖然とさせる。
そこへ、志摩子の夫三隅孝士が志摩子の遺品を持って来た。コツコツと作っていた刺繍付のテーブルクロスだと言う。
顔色も悪く具合が悪そうな様子の孝士を心配するが、遺品を渡すと帰って行った。
すると、婚約者の母が突然やって来て、息子は来ませんと言った。
障害者の兄がいる家には息子をやれません。両親がいなくなった末には息子が兄の面倒を見ることになるのでしょう?
そう言うだけ言うと帰って行った。陰で早苗も話を聞いていて、泣き崩れるのだった。
それを聞いたふみが、昔の事を話し始める。
ふみにも小児麻痺の兄がいた。戦争が始まると、同じ頃の男たちは戦場へと駆り出されていく。
出征出来ない兄は、土蔵に閉じ込められて暮らす事になった。
兄は花の絵を描くのが好きで、ずっと土蔵の中で一人っきりで描いていた。
ふみは時折、庭の花を摘んで兄の所へ持って行くと、ありがと。と、喜んでくれた。
戦争が続くと、やがて戦争に行けない非国民がいる家と蔑まれ、名誉の戦死を遂げた友達の兄の葬儀の時の友達の憎しみの目にさらされたふみの心にも憎しみが沸いてしまった。
ふみは兄に向って叫んでしまった。お兄ちゃんなんか、いらない!
その言葉にショックを受けた兄は絵筆を落としてしまった。
ふみは・・・その絵筆を踏みにじってその場から逃げたのだった。
そうして兄は、終戦のまさにその日に亡くなった。
そんな思いをさせたくないと、ずっと思って来たのに・・・

そしてすぐに悲報が舞い込んでくる。孝士が車で海に落ち・・・自殺をしたと。
娘の陽菜子は、すぐ手前の公園で発見され無事だと聞き、最後まで悩んだ末の事なのだろうと、その心中を考えやるせない気持ちになるのだった。
里子は陽菜子を守るとの志摩子との約束を思い出して、後悔するのだった。

さらに磯野家に不幸が訪れる。ワンコイン検診で受けた検査で、里美にがんが見つかったのだ。
入院の準備をする里美が病室に飾る写真を選んでいると、遼一はお守りと、自分が昔描いて飾ってある絵を持って行って欲しいと言う。
里美は、だったら退院祝いのお楽しみに新しい絵を描いて欲しいと遼一に頼むと、嬉しそうに応えるのだった。
婚約者の母には断られた交際だったが、本人である彼は諦めていないと早苗に告げて海外勤務へと旅立って行った。
そんな時、ニュースから障害者施設での大量殺人事件の報が流れてくる。
遼一は耳を塞ぎ、家族も絶句するのだった・・・

ふみが陽菜子を連れてやって来る。
ヘッドホンを付けたまま自分の世界に閉じこもっている陽菜子だが、里美の為にと作業場で作った花の刺繍をプレゼントしてくれた。
里美は志摩子の遺品のテーブルクロスを出して見せる。そこには虹の上をアリが渡っている絵が描かれていた。
私が虹になって、子供たちを偏見のない安心して暮らせる世界へ連れていきたい!との志摩子の願いが編み込まれていた。
アリは10匹いる事にふみが気づく。そうか!あ・り・が・と、なんだ。
すると、陽菜子が「虹の彼方に(over the rainbow)」を口づさむ。
里美は、今の幸せを噛みしめてみんなに、ありがとうと感謝をした。
遼一は、自分の為にいい事全てをしてくれた母に感謝と、絶対に天国へ行けるからと言った。
今まで何もいい事が出来ていないから、これからは自分がいい事をしたいとも約束するのだった。
里美は、私はあなたに育てられてきたのよ。ありがとうと答えた。
ふと見ると、空には虹がかかっていた。そうして、みんなで虹を眺めるのだった・・・


舞台は、昔ながらの日本家屋の居間。
正面に入口。上手側が玄関へ。下手側に階段。
下手に台所への出入口。部屋の下手隅に電話台と椅子。
正面上手側に押入。出入口と押入れの間に台。上にはつぼと絵が掛けられている。
出入口前に台所机と椅子4脚。上手側に小さな座卓とほうき。


正直、偏見がないとは言えない自分がいる事は重々分かっている。
以前、劇団名古屋がこれまで長く関わっている港区の「障害児を育てる会」主催のクリスマス会に参加させてもらって、随分とその偏見は薄らいだ・・・と思う。
彼らは正直で、素直で、表現が直接的で、自分の世界を持っているのだと、とても楽しそうな彼らを見ていて思った。
客出しの時、ちょっと出ただけの着ぐるみ姿の自分を見つけて満面の笑みで握手を求められたことは忘れられない。
そんな彼らを取り巻く現実の厳しさ、生きる事の難しさを描いた作品。

ふみの回想では、上手の壁が透けた向こうで兄が絵を描いている姿が現れる。
ふみの話に合わせて、土蔵の情景を映し出す。

志摩子の立場からの心情は・・・宅間孝行の「くちづけ」(舞台版や映画版のDVDで観られます)で描かれていたのを観た。
知的傷害を持った娘の自分が死んだ後の生活を悲観して・・・想像するだに哀しくなり、胸が潰れる絶望が襲ってくる。
その結末は号泣する悲劇だった・・・しかし、その後の「仲間たち」の行動に観客は救われるのだ。
孝士が陽菜子と心中する道を選ばなかったのは、娘の未来を託せると思わせた里美への信頼や磯野家の存在が大きかったのかもしれない。
頼るべき拠り所が存在する事は、どんな場合にも必要不可欠なハズなのに、現在の社会は拠り所も逃げ場もない場合が多く、弱者に厳しい。

休憩があったのだが・・・志摩子が亡くなったとのナレーションの後というのは、えっ?ここ?
ちょっと観客の気持ちがブチッと切られたようで、どうなのだろうか?
この上演時間なら休憩は無くてもよかった気がする。観客層の年齢が高いという配慮はあるのだろうけれど。

遼一の濡れ衣が2度ともふみの伝聞の証言で晴らされたのは、ちょっとご都合主義な気もする(^-^;。
同じ展開としても、理不尽さは不条理に描き、真実は目撃者の口から偶発的に明らかになって欲しいなと思ったのだが。

今回の、お気に入りは、
磯野里美、磯野ふみ、磯野達夫、三隅陽菜子、かな。