こんにちは、ふじおです。
今日は、少し前になりますが、シネマ・クレールで上映された「へんしんっ!」をご紹介します。
この映画を監督したのは、若干24歳の石田智哉監督。
立教大学在学時に制作した卒業作品をベースとして制作されたのが、この作品です。
石田監督は四肢に不自由があり、電動車椅子で移動する生活です。
そんな石田監督が自分を取り巻く先生(砂連尾理など)や友人(藤原里歩や本田恵など)、大学の保健師(古賀みき)。そして障害を通じて知り合った聴覚障害者(佐沢静枝)や視覚障害者(美月めぐみ)とバリアフリー劇団を主宰する鈴木橙輔。
彼等との対話を通して、自分の可能性を模索するドキュメンタリーとなっています。
作品の前半は、石田監督がインタビューし、対話していく過程が映し出されています。
後半は、出演者が砂連尾(じゃれお)氏に誘われて、屋外で即興ダンス(フリー・パフォーマンス)をしていくシーンが続きます。
石田監督が「ディレクターズ・ノート」に書いているように、「あのダンスに参加すべきか、直前まで迷っていた。監督として、外から見つめているべきなのではと思い、しばらくじっとしていたが、あの場に流れる空気は監督である立場を忘れさせ、体に任せて動いていた」と告白しています。
私も観ていた時、「電動車椅子なので、ダンスの輪に入るのは難しいのかな、疎外感を感じているんじゃないかな」と思っていたら、石田監督が途中から加わってきたので、びっくりしました。
この作品の撮影過程を通して、身体障害者や監督という垣根を跳び越えて、本作のタイトルにあるように、「へんしんっ!」と叫んで殻を脱ぎ捨てた瞬間ではなかったのではないでしょうか?
石田監督は、このタイトルに込めた思いを次のように語っています。
タイトルには「自分の“こころ”と“からだ”が映画作りで変わっていった」との思いが込められています。出演者や制作スタッフに自分の思いや葛藤を話すこと、緊張しこわばった身体をケアではなくダンス作品を通して動かすこと、撮影された自分の姿や声を映像にで見続け、聞き続けると、あるときから恥ずかしさや躊躇いは消え、自分をどんどん作品の中に取り込んでいきました。制作後も作品を多くの人に届ける旅をしながら、今もなお、自分の“へんしんっ!”は続いています。
(映画鑑賞者に配布された「岡山・シネマ・クレール 『へんしんっ!』初日舞台挨拶に代えて」より)
障害者やその家族は、どうしても障害を「負」のもの(マイナスイメージ)に思ってしまいます。
しかし、この映画を見た映画作家の想田和弘氏は「普段の生活では『障害』というレッテルを貼られるような特徴も、『表現』という行為の前ではひとつの『個性』にすぎないことを、観る者は、そしておそらく石田本人も、実感していく。その過程で改めて示されるのは、そうした個性は、表現行為をする場合には『障害』というより、むしろ『武器』になるということだ。このいわゆる『健常者』のために規格化された社会の中で『負』とされているものが、『正』にくるりと反転するのである」と指摘しています(想田和弘「新しい感覚の、自由な映画『へんしんっ!』」[パンフレット所収]より)。
今まで“健常者の視点”でばかり形作られた社会を、“障害者の視点”で見直してみる。そうしたことができるのは、健常者とは違った「武器」を持つ障害者だけなのです。
また、本作にも登場する視覚障害者で、点字朗読者であり自ら役者としても舞台に立つ美月めぐみ氏は、「お互いしょうがいをもっている人同士が自分の大変さだけを主張するんじゃなくて、それを知ってほしいと思うんだったら、ほかのしょうがいの人のことも知ろうとすべきだと思うの」と語っています。
実際本作にも描かれていますが、聴覚障害者の佐沢静枝さんと視覚障害者の美月めぐみさんは、二人だけではコミュニケーションがとれません。しかし、そこに手話通訳士の木山直子さんが介在することで、コミュニケーションが成立します。
本作は、健常者と障害者、異なる身体の障害者同士がいろんな人の助けを借りながら、互いのことをもっと知ろうとするポジティブな行為を持つことを、我々に気付かせてくれている作品になっていると思います。
【追加情報】
本作は自主上映会もできるそうです。
詳しくは下記までお問合せ下さい。
問合せ先:東風
E-mail:info@tongpoo-films.jp
電話:03-5919-1542(平日11~18時)