小雨が降る朝だった。僕は結局、一睡もしないまま法廷に向かうことになった。

美人弁護士とは開廷30分前に打ち合わせを兼ねて裁判所のロビーで待ち合わせをすることに

なっていたが、初めて訪れる裁判所ということもあり、僕は1時間30前には裁判所近くのファミレス

で気持ちを落ち着けていた。


美人弁護士が事前に作成してくれた証人尋問ようの回答用紙(美人弁護士が僕に聞く質問に対する

回答集)に目を通しながらコーヒーを飲んだが、頭に全く入らなかった。睡眠不足と興奮状態で僕は

今、自分がいる世界が夢なのか現実なのかよくわからない感覚になっていた。


美人弁護士との約束の時間が近づいたので僕は裁判所に向かった。薄暗い天候や僕の気分もあるが

裁判所のロビーは薄暗かった。朝早い時間帯だが、結構大勢の人がソファーに座って待ち合わせを

していた。サラリーマン風の人、ホームレスっぽい男性、年配の女性、ヤクザっぽい人・・・

それぞれここにいる人は、自分達の法的主張を誰かにぶつけるために、ここに来ているんだろうな。

そう思いながら、美人弁士を探した。


「僕さ~ん」元気な声が後ろから聞こえた。美人弁護士だった。

「いよいよですね。何も心配ないですよ。これまで話してきたことを裁判官にぶつけちゃってください。

誰だって僕さんの正義感と誠実さを理解できますから!さあ、いきましょう!!」

一通りの打ち合わせを終えて、階段を上り、僕らは法廷に入った。開廷までは法廷後ろの傍聴席で

待つらしく、そこに腰をかけて全体を見回した。

こじんまりとした空間だったが、司法の現場にふさわしい厳格な空気が流れていた。映画やテレビで

みる世界とほぼ同じような光景だった。傍聴席をみると8人ほど座っている人がいた。

美人弁護士曰く、この手の不倫に絡む裁判は傍聴者が多いそうだ。それにしても今回は多いそうだ。。


「あのバカ男、今日の証人尋問も来ないって裁判所に前回電話したらしいから、来ないんでしょうね。

ほんっと、どこまでも頭悪くて非常識ですよね。ま、こちらの主張を伝えて、とっとと帰りましょう。」


バタン、法廷後ろの戸が大きい音で開けられた。ドカドカ足音が聞こえてきた。ドスンと僕の席から

3つ離れた席に、だらしない格好をした茶髪の男が座った。浮気男だった。


「あいつ、キモイくせに・・・」美人弁護士は浮気男に気付かないま喋り続けているので、僕は肩をたた

いて自分の親指を隣の方向立てて、浮気男がいることを伝えた。

「逃げないで今日は来たようだから安心しましたね僕は浮気男に聞こえるように大きい声で美人弁護士

に話しかけた。「来ても来なくても結果は一緒なんですけどねー」美人弁護士も同じくらいの声でこたえた。


久しぶりにみる浮気男は以前にも増して人相が悪くなっていた。イスに浅く座り、大きく足を広げて座って

いた。時折、クチャクチャ、ガムを噛む汚い音が聞こえた。


ガチャ。法廷正面横の扉から裁判官と書記官が出てきた。


「さあ、入りましょう」美人弁護士に誘導されながら、僕は法廷の中に入った。

ついに僕は法廷に立った。