薄氷の上に壊れかけの人形が置いてある。

 

それは私が大切にしていた宝物。

それは私が手放してしまった宝物。

 

それは私が取ろうとすると湖の底へ沈んでしまうほど儚いもの。

 

壊れかけの人形はまだ崩れない。

しぶとく輪郭を崩すまいとする人形は、時期に人々から忘れ去られた。

 

私の中からも薄れゆく人形の記憶。

 

忘れてはいけないと手を伸ばせど

人形に届く前に私の身体は薄氷を踏み抜いて湖底へ沈む。

 

静かに薄れゆく意識の中で人形の目から涙が落ちる音が聞こえた気がした。