「いってきます!」


うだるような暑さの中、
私はひとりで遺体安置所に向かった。

冷房が苦手な私は真夏でもカーディガンが必需品。
しかも昨日は安置所に30分いただけで凍えそうな寒さだったので、
少し厚めのカーディガンを持参してきた。


『今日は飲みながらダンナとゆっくり話そう…』


安置所の最寄駅に降りるとコンビニに立ち寄り缶チューハイを3本買った。

きっとダンナはそろそろお酒が飲みたくなってくる頃だと思い2本はお供え用で、
あとの1本はダンナと一緒に飲むためのわたし用。

コンビニを出てバッグを肩にかけ直すと、
右肘に引っ掛けていたはずのカーディガンがないことに気づいた。

急いでコンビニのレジまで戻り店員さんに確認したら『ない』と言われてしまい、
仕方なく駅まで戻って改札口で駅員さんに確認してもらっても届いてないと言われた。

電車の中では冷房が寒くてカーディガンを着ていたし脱いだのは駅を降りたあと。
それも改札口を出て脱いだところまでは覚えている。

しかもブルーのロングカーディガン。
色も目立つし落とせばすぐにわかるはず。
わざわざ人が着ていたカーディガンを持っていくような人もいないだろうから、
いつのまにか失くなったカーディガンが不思議で不思議でたまらなかった。

安置所に着くとあらかじめ電話をしてあったので小林さんが入口で出迎えてくれた。

中に入ると昨日と同じように外とは別世界。
部屋に入った瞬間は外の熱気から解放されて息苦しさがなくなる。

でも息苦しさから解放された瞬間、
お線香の香りが鼻の奥を突き抜けていった。

部屋の中央には昨日と変わらず白い柩がひとつ…

少しすると小林さんが熱いお茶を持ってきてくれた。


「寒くなるかもしれませんので熱いお茶にしました。
ご主人さまとごゆっくりお話しされてくださいね。」


あと20分もするとこの熱いお茶の有り難みがしみじみわかる。

缶チューハイを持ってダンナの柩の側まで歩み寄った。


「今日はお酒持ってきたから一緒に飲もうね!」


柩の中のダンナに話しかけてもやっぱり目を閉じたままだ。

当たり前か…と、
ため息をつきながらお線香に火をつける。


「いくら暑がりのパパでも、
こんなところにずっと居たらいい加減寒いでしょ?」


そう、ダンナに話しかけたときにピンときた!


「あ!パパ!もしかして寒くて私のカーディガン持っていったの?」


いくら疲労でフラフラしてたとはいえ、
カーディガンが突然失くなったのはどう考えても不思議…

でも…

ドライアイスで散々冷やされて寒くてたまらなくなったダンナが、
私のカーディガンを持っていったとしたら納得できる。


「それとも、もしかして私を長居させたくないために隠したとか?」


ブツブツひとりでダンナに話しかけたり…
ケラケラ笑い始めたり…

なんだか妙なテンションの私。


「寒くても頑張るから今日はいろいろふたりで話そうね。」


缶チューハイを二つ開ける…


「パパ…献杯…」



17年前のあの日へのタイムスリップは、
こうして不思議な出来事から始まった…






※最後まで読んで頂きありがとうございます!

余談ですが『ひつぎ』には『棺』という漢字と、
『柩』という漢字の二種類の漢字があります。
『棺』という漢字はまだ中にご遺体が入っていない容れ物の状態を表す漢字で、
『柩』という漢字は中にご遺体が納められている場合の漢字だそうです。
ダンナの場合は既に納められた状態だったので『柩』という漢字を使わせて頂いてます。

以上、豆知識でした。笑