「最悪」奥田英朗 | 辻斬り書評 
2005年08月11日

「最悪」奥田英朗

テーマ:ノワール・犯罪小説
最悪 奥田 英朗

「延長戦に入りました」 以来気になっていた奥田英朗の長編小説を、やっと読むことができた。
犯罪小説としては僕好みの無軌道ぶりや疾走感に欠けるものの、しっかりと読ませる筆力は評価したい。
なんでも「延長戦~」のエントリで引き合いにだした浅田次郎がこの作家をプッシュしているそうで、なるほど犯罪を犯す側の心理描写に長けるというか、犯罪者を頭から異端扱いしない姿勢に共通点が見受けられ、さもありなんと思わされた。
「空中ブランコ」で見せたユーモアも、浅田のそれに似たあっけらかんとした明るさがあるのだが、それよりも登場人物との距離感のとり方に近似値を見出すのは僕だけだろうか。

周辺住民との軋轢に悩む善良なる鉄工業者・川谷、勤め先の人間関係に疲弊したOL・みどり、刹那的に生きる穀つぶし・和也。別々の空の下で息苦しい生を送る彼らが三者三様の袋小路に追い込まれ、そのフラストレーションが沸点に達したとき、まるで奇妙な縁に手繰りよせられるようにしてそれぞれの人生がひとつの犯罪現場で交錯する。ある者はその引き金を引き、またある者はそれに触発されて、彼らの憤懣は当人の制御を離れて収束する。溜めに溜められたダムがついに決壊し、怒涛の勢いで氾濫するように、三人のベクトルは破滅に向かっていっきに押し流されていく―――。


人物造形に差があるのか、読み手の実像によって印象が変わるのかはわからないが、心身ともに切迫した川谷の土壇場での反転ぶりがまことに腑に落ちる。彼の状況がもっともやるせなく、またもっともこの世の不条理を体現しているからだ。彼のような窮地の只中にいる人間は、現実にも決して少なくはないだろう。

この川谷を含めて主要登場人物全員に一応の救済が用意されているところが、僕のように筋の悪い犯罪小説好きには不満が残るのだが、川谷の背負わされたような通俗性を書かずして犯罪小説は成り立たないという意味において、本書は合格点を与えうる。

現実がそうであるように、小説という虚構においても犯罪はゲームではない。犯罪を犯す者と犯罪の被害を受ける者の視点を対等に描いてこそ、焦点となった犯罪そのものが意味を帯び、解釈を許すのだ。


贅沢をいえば、和也にもっとアナーキーな味付けを施しても物語的には成功しえたはずなのにそれがなされていない点で、僕などはそこにかなりの物足りなさを感じるのだが、それはこの作家の力量を見込んでの要望でもある。

今後に期待したい。


オススメ度★★★★


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