紳士協定(1947) | つぶやキネマ

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140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

紳士協定(1947)

 

 雑誌「スミス」の編集長ジョン・ミニフィ(アルバート
・デッカー)からの執筆依頼を受けたフィル・グリーン(グ
レゴリー・ペック)は、息子トミー(ディーン・ストックウ
ェル)と母(アン・リヴィア)と3人でカリフォルニアからニ
ューヨークに移り住む。編集長から反ユダヤ主義に関する
記事を書くように言われ編集長の姪キャシー(ドロシー・マ
クガイア)を紹介され愛し合うようになる。フィルが記事の
切り口について悩んでいた時、病に倒れた母との会話の中
から自身がユダヤ人に成りすまして差別の実態を探ろうと
思いつくが、フィルがユダヤ人と名乗ったとたんに噂はあ
っという間に広まり、フィルの女性秘書エレイン・ウェー
ルズ(ジューン・ハーヴォック)もユダヤ人である事を隠し
て職を得たと語り「スミス」社内にも反ユダヤ主義者がい
る事が判明する。そして、母の医者やアパートの家主、ト
ミーの友人等周囲の人々の態度は豹変し、フィルはユダヤ
人差別がアメリカ社会の隅々まで蔓延している事を知って
愕然とする...というお話。ローラ・Z・ボブスンのベストセ
ラー小説の映画化で、アカデミー賞の8部門で候補になり、
作品・監督・助演女優の各賞を受賞した問題作であります。
反ユダヤ主義というのは人種差別とは少し違うのでは外国
人には解りにくいのだが、本作ではその辺りを丁寧に描い
ていて、フィルがユダヤ人に成りすました事で体験するア
メリカの暗黒面にだんだん怒りが込み上げてくる仕掛け。
何故ユダヤ人が差別されるようになったかという部分がま
ったく描かれないのがチョッピリ残念ですが、テーマがズ
レてしまうのであえてボカしたのだろう...「それはまた別
の話」というヤツですな(注1)。モス・ハートによる脚本は、
前半が丁寧に描かれているだけに後半の展開が駆け足気味
で、特に編集長の姪キャシーがフィルの旧友のユダヤ人デ
イヴ・ゴールドマン(ジョン・ガーフィールド)との会話か
ら自分の過ちに気がつくあたりは描写不足な感じなのが惜
しいし、同僚のアン(セレステ・ホルム)からのプロポーズ
に対するフィルの返事も省略してしまったのはちょっとね
ぇ...編集の問題かもしれないけど。エリア・カザン監督の
演出は正攻法でドラマ演出のお手本のようだが、ストーリ
ー自体が会話中心で部屋を出入りする場面ばかりなので、
もう少しカメラワークや構図に工夫があっても良かったと
思う。ホテルの宿泊予約を断られたフィルが、怒りを抑え
てロビーから立ち去る後ろ姿をワン・カットで捉えた映像
はホントに素晴らしいので、こういう感じのフルショット
がもう少しあれば映像的にもメリハリが出たのになぁ(注2)。

 

●スタッフ
監督:エリア・カザン
製作:ダリル・F・ザナック
原作:ローラ・Z・ホブソン
脚本:モス・ハート
撮影:アーサー・C・ミラー
音楽:アルフレッド・ニューマン

 

●キャスト
グレゴリー・ペック、ドロシー・マクガイア、
アン・リヴィア、ディーン・ストックウェル、
ジョン・ガーフィールド、セレステ・ホルム、
アルバート・デッカー、ジューン・ハーヴォック、
ジェーン・ワイアット

 

◎注1; アメリカ国内の黒人差別については南北戦争のきっ
かけになった奴隷制度、公民権運動、公民権法の制定等の
歴史や深刻な問題として扱われ報道される事も多いし、ア
ジア系、アラブ系、ヒスパニック系、アメリカ先住民等の
白人以外の他民族に対して行われている人種差別も理解し
やすいのだが、反ユダヤ主義というのはムチャクチャな宗
教観で暮らしている日本人にはサッパリなのが現実。アメ
リカの支配階級は「WASP(白人でアングロ・サクソン人で
プロテスタント)」と呼ばれてるぐらいなので、それ以外の
人種や宗教・宗派は、ほぼ何らかの差別を受けていると考
えて間違いない。フィルの旧友のユダヤ人のデイヴが言う
「差別や偏見を目前にして沈黙するのは、それを助長する
ことでしかない」という問題は、製作から60年以上経過し
た現在も解決されていない...差別や偏見は人間の根源的な
部分なのでDNAを書き換えないと解決しないかもしれんね。

◎注2; アカデミー監督賞を受賞したエリア・カザンがカメ
ラワークや構図に凝らなかったおかげで俳優たちの名演技
がたっぷり楽しめる。グレゴリー・ペックは、こういう純
粋で一直線な執念の男はホントに上手いが、全体的にちょ
っと冷た過ぎな感じであります...息子トミーとのやり取り
等はもう少し柔らかい感じがあっても良かったように思う。
キャシーを演じたドロシー・マクガイアは、知的でクール
な感じは良かったのだが"お嬢様"な感じが少し不足してい
るし、出番の少ない姉ジェーン(ジェーン・ワイアット)よ
り華がないというのも問題。フィルの母を演じたアン・リ
ヴィアは、演技自体は文句なく素晴らしいのだが、狭心症
で倒れる前と後で変化があればさらに良かったと思う...演
出の問題なんだけどね。息子が苦労の末に書き上げた原稿
を読みフィルをねぎらい勇気づけるシーンが素敵です。フ
ィルの旧友デイヴを演じたジョン・ガーフィールドは、ユ
ダヤ人差別に苦労して達観している雰囲気が最高だが、ユ
ダヤ人である事をからかった酔った客に飛びかかり胸ぐら
を掴む演技が素晴らしい...ハッピーエンドに導くキーマン
としての見せ場がもう少し丁寧に描かれていたらさらに良
かったんだが。編集長ジョン・ミニフィを演じたアルバー
ト・デッカーも良い雰囲気で、反ユダヤ主義に関する記事
にこだわるこの人物についてもう少し知りたくなるぐらい
魅力的なのだが、その辺の描写はまったくないし出番も少
なめなのが勿体ない感じ。同僚のアンを演じたセレステ・
ホルムは本作でアカデミー助演女優賞を受賞しているが、
早口でまくしたてる台詞やちょっとした仕草がホントに見
事で、ヒロイン役のドロシー・マクガイアを完全に喰って
しまった。彼女の登場場面は、画面がパッと明るくなった
ように錯覚するし、作品そのもののスケールもアップした
ような感じであります。息子トミーを演じたディーン・ス
トックウェルは、数十年後のデヴィッド・リンチ作品「砂
の惑星(1984)」「ブルーベルベット(1986)」や、デニス・
ホッパーの「ハートに火をつけて(1989)」等での"変人"ぶ
りが嘘のような典型的な"アメリカの子役"であります。

 

 

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