Time

テーマ:
カランカラン

いつもの地下を降りて扉を開ける
いつものマスターがいる

「いらっしゃいませ」

いつもの落ち着いた歓迎をもらう


今日はずいぶんにぎやかだ


【時】と名を新たに
同じ店なのに、同じではない雰囲気を纏う


「装いも新たに、再出発です」
「新しい事への挑戦は、自分も奮い立たせますよ」

マスターの力強い意志
新たな道を見つけ、探求するという気持ちが伝わってくる



「今日は記念すべき旅立ちの日です」
「第一号のこのお酒をお勧めします。」


日本という小さな国で作られ
世界に認められたその琥珀色の酒を
慣れた手つきでグラスに注ぐ


実は自分も新たな門出を迎えたんです。

会社でうまくいかない事に見切りをつけ
やきもきした気持ちをぶつけてみる


「人が失敗をする時は、諦めた時です」
「何かを求めれば、そこに道ができるはず」
「一緒に新たな道へ踏み出しましょう」


なるほど
悲観してばかりもいられない
今がそのタイミングなんだと自己解釈をし
2杯目のグラスの琥珀を飲み干す


最後にストレートを一杯
そんな気分になった

「不安を抱き停滞する時は、衝撃の強いものを・・・」

と、お勧めのウィスキーを差し出してくれる

一口飲むと、その激しさが体を突き抜ける。
心地よい刺激に、クリスマスソングが妙にマッチした。


「本日はあまり落ち着けず申し訳ありません」

そんなことはない。

「近いうちにまたいらしてください。」
「私にエールを送らせてくださいね」


人から後押しされる事にはあまり慣れていないのですが
悪い気はしないので、また来ますと伝える。



真冬の空気は乾燥して
少し酔った体をすり抜ける


あぁ この店に出会えて本当に良かった



少しは不安も取り除かれた
あとはゆっくり休むことにする。
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Esperance

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地下への階段を降りると
扉一枚の入り口が現れる。
ろうそくの炎が揺らめく薄暗い店内の
カウンターに座ると、マスターが迎えてくれる。

「いらっしゃいませ、何に致しましょう」
いつものやつをください。
「ありがとうございます」

大きく丸い氷をひとつ、グラスへ転がし
ウィスキーが注がれる。

「お待たせいたしました。」

命の水と呼ばれるそのウィスキーは
すっきりとほろ苦く、ピリッとした味わいがとても好きだった。

程なくしてマスターが話しかける
「仕事はいかがですか?」
「読書はしますか?」
「私の子どもが、姪御さんとまったく同じ誕生日なのは驚きました。」

他愛もない話がとても心地よい

押し付けじゃない、何気ない会話
タイミング・受け答え
全てが客を楽しませる最高の対応をしてくれる。


2杯目を頂いていた頃に
1人、また1人 と客が増えてくる
皆地元の人間だ。
顔も名前も知らない人なのに
同じ場所に住んでいる というだけで
不思議と話が盛り上がる。
年齢も性別もバラバラだ
カレーに凝っているとか、甘いものが好きとか
この地域の小学校は安心だとか。

気が付くと時間はあっという間に過ぎている。
最後に、抽象的な注文でカクテルを頼む。
「甘くさっぱりとしていて重くない、パッションフルーツのカクテルです。」

酸味と甘みとほのかなアルコールがベストマッチして
ついもう一杯と言ってしまいそうだった。

誘惑を殺し、会計を済ませて帰宅する。
冷たい風が心地よい
一期一会
そんな言葉を思い出しながら
5分も掛からず家につく。



なんだか凄く気分がいい
そのままベットに突っ伏して
気が付いたら朝になっていた。
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【短編】僕らの焼肉戦争

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僕が到着した時には
すでに戦いは始まっていた

煙が立ち昇り、油と血のにおいが充満している


「遅かったのか・・・」

素早く自分の持ち場へと滑り込み
装備を整える

「いや・・・まだ始まったばかりだ」

隣で戦友が呟く
彼は嘘が下手だ

粒のような汗が滴っている
幾度か交戦しているのは明らかだった


戦場で大切なことは
何よりも陣取りだ

絶好のポジションを獲得できれば
それだけ戦いが有利になる


僕もそのセオリーに従い
最適なポジションについた

自分の立ち居地を
狙撃手(スナイパー)と定めて日は浅くない
自分がどこで獲物を狙うのが効率的か
瞬時に見抜く能力は研ぎ澄まされていると自負していた


程なくして、戦場の状況は変化する
一瞬も目を話せないのが戦場だ


新たな壕を掘るように華麗な手さばきで
鉄の金網が敷かれていく


ここでさらに戦況を分析する

 華瑠美軍:負傷兵一人 → 豊油分過剰攻撃によるダメージ
 歩琉門印衆:昏睡兵一人 → 高アルコール兵器によるダメージ
 
この二人はもう眼中にはない
問題は隣で戦地を睨む彼だ

前述の二人とは違い
戦術が極めて優れている
兵器のバランスもいい

これまでの戦況の分析は一瞬である

僕は既に狙撃体制に入っている
戦場へ到着する前に
秘密裏に手配した兵器が今届いたのだ

【特上】

掲げられた最高勲章
兵器としてこれ以上の攻撃力は中々お目にかかれない

兵器を向けられた瞬間
負傷兵も目を見開いた

「もう遅いぜ」

煙を巻き上げ
火が踊る

特上兵器の圧倒的火力に
一瞬で片が付いた


「まだまだ!」

追い討ちをかけるが如く
新たな特上兵器を投入する

そう、コレこそが僕の作戦だったのだ

格安の量産兵器で負傷するようじゃまだまだだ
新米と呼ばれても仕方がないな


割り勘という厳しい条件のなか戦うため
戦術を練る
火力を整える

そして最後に笑うのは
特上を手に入れた一部の戦士だけだ


焼肉は戦争なのだ

今日も特上肉を食べるための戦いが
何処かで繰り広げられている。





───fin────




用語解説

・華瑠美軍
カルビやロースといった肉をメインに食す部隊
存在する兵士の数は焼肉戦争一の多さだと言う。
油分が無駄に多く、米を同時に使用する者もいるため
胃袋へのダメージが大きく、早々に戦場から退散する事が多い。


・歩琉門印衆
内臓系が主力武器なゲリラ兵
サブウェポンとしてビール・焼酎といったアルコールを多用するため
昏睡状態に陥る可能性が高い。
しかし、訓練された兵は、水分無限摂取が可能となり
ビールだけで割り勘負担が上乗せされるという特殊火力を持つ事も少なくない。
また、昏睡状態一歩手前で保つ者は、他兵に絡み共に昏睡させる自爆テロ的な行動を起こす者もいる。
要注意部隊であることは確かだ。


・狙撃兵(スナイパー)
自分の肉から目を離さず、着実に一番いい焼き加減を追求する兵
餓えと孤独に耐え、絶好のタイミングで最高の成果を挙げる。
スタンドプレーを制する者は、戦いの最終局面でも精神的余裕を残し
最終兵器【特上】を手にする事もある。


・【特上】
焼肉戦争における最終兵器にして最高火力
値段・肉質・味・食感
全てにおいて申し分ない戦闘能力を有する。
入手が困難で、これを手配する事は中々難しい。
戦況を見誤ると、自分が食べる分を持っていかれるといった惨事にも発展する
使うタイミングがもっとも難しいが、【特上】を制するものは割り勘を
すなわち焼肉戦争を制するといっても過言ではない。



*注意
この物語はフィクションです。
焼肉を食べるときは、みんなで仲良く楽しく食べましょう。
無理に網に肉を乗せると、油に引火し大変危険です。
火傷に気をつけておいしい食事を心がけましょう。
また、肉ばかりではなく、野菜や海鮮もしっかり食べて
バランスの良い食事を心がけましょう。






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