財布ルサンチマン。 | 劔樹人の「男のうさちゃんピース」

財布ルサンチマン。

$劔樹人の渋谷陶芸教室

高校2年の時。


当時僕は、とにかく学校が好きな高校生でした。好きというか、休日を家でおとなしく過ごす事ができず、誰かいないかな…と、学生服を着ては学校に出かけて行くような高校生でした。


携帯電話もそう普及していない時代で、自分ももちろん持っていなかったし、休日友人を探そうと思ったら、学校に行くしかなかった。

しかし当然のように、だいたい都合の良い友達がいるはずもなく、ひとりで部室でボーッと缶コーヒーを飲んで帰ることが多かったような気がします。



でも友人がいないならそれはそれで、別によかったというか。


グラウンドから聞こえる部活の声。

人気のない廊下。

電気も付けない、1人だけの部室。

昼下がりの自然光だけで、置いてある誰かのヤンマガをぱらぱら眺める。

休日のそんな時間がただ、好きだったんですね。





そんなある休日、僕がいつものようになんとなく学校へ行って、自分の教室を覗くと、部活終わりなのか、女子バスケ部の皆さんが10人近くいたんですよ。


うわっ!と思いました。



もちろん、彼女たちが特別苦手だったというわけではなく、個々とは普段会話もするのですが、やっぱり人数が揃うと…圧があるんですよ。


しかも、彼女たちはいわゆる校内ヒエラルキーの高いところにいたので、嫌われるわけにもいかない。

一定の距離があるのが一番ちょうどいいのですが、多勢に1人で接触すると、間合いを一気に詰められてボロを出してしまう可能性もあるので、これは恐怖でした。

ちなみに当時は僕、そういう自分の距離感をアティテュードで示すため、クラスの女子に敬語を使っていました。




その日は、そこから早く立ち去ろうと思ったものの、休日に教室に来ていることを不審に思われても困るので、とりあえず自分の席で忘れ物を取りに来たふりをしようと思いました。



しかも、もうその短時間ですぐわかったのですが…彼女たちの会話の議題が、完全に「男のダサい財布」についてだったんですよ。



しかも、ちょうど自分の友人の財布がやり玉にあがっているところで!


その財布は、英字新聞みたいなプリントの…確かに僕が中高生の頃はそういうデザインがあったんですよ。



いや、僕自身も、中学くらいの時はそれがカッコいいなと思っていた時期もあった気が。


でもその会話の中で、女バスの皆さんは「ないな~い!!!」って全否定。

全会一致でワーストワンですよ。



いや、これはいよいよまずいところに来てしまったぞ、と思ったその時、



「ねーつるちゃんさー、どんな財布使ってんの?」



うわー!

一番恐れていた事が!!!!



完全にこれ、大人数にドカッと踏み込まれて、守っていたこころの奥の秘密の部屋までごっそりガサ入れされるパターンじゃないですか!!!



しかし、もう捜査令状は突きつけられてしまった。

観念して、本当のことを言いました。





「実は、ずっと財布を使ってません。お金はポケットに入れてます」





そう言って、ポケットから小銭を出して彼女たちに見せました。






中学の時は、一瞬財布を使った事もあったんです。

でも、毎日同じズボンだし、そんなにお金持ってる事もないし…と思ったらめんどくさくなって、僕は高校入学当時からずっとお金はポケットに直に入れていました。

これに関しては、何かの影響とかそういうわけでなく、自然にそうなっていたというか。



すると、



女バスの皆さん、




「それカッコいいね!」

「一番男らしいんじゃない?」





なんと、まさかの、


「男子の財布イケてるランキング」


一位に躍り出てしまったのです。





僕は上がった体温で、なんとなくボヤッとしながら教室を去りました。





「これは女子が見てカッコ良かったんだ…」





それから僕は、20代半ばまで、ほとんど財布を使うことなく過ごしてきました。

「カッコいい」

と言われた、あの日の女子たちの言葉を忘れられず。




今はさすがに、財布を使っています。
管理能力の低い自分には、財布がないと困る事も多いと思っています。




財布を使っていなかったあの頃を思うと、大人になったのかな?とも思ったり。
落とすお金もなかったし。


でも、今も、財布を使っていない大人の男はカッコいいと思ったり。



財布を持たないことがカッコいいのは、
もっと大人になったときかもしれません。