時間通りに来ないバスを待っていた。
雨は数分前にちょうど止んだ。
折り畳んだ傘からポタポタと雫が落ちる音がする。
震えない携帯を強く握りしめる。
空はまだ、曇っている。

時間通りにバスが来ない事は知っていた。
運転手のおじさんは気まぐれだ。
いつもいつも遅れてくる。
噂だと前のバス停で停まったまま、誰かと話してるとか。
どこまで本当かはわからない。

携帯のロックを解除する。

「バス停まってて」

数分前に来たメッセージは、未だ更新されない。
どうやらバスはまだ来ないらしい。

ふとカバンを触ろうとして、持っていない事を思い出した。
いつもと違う、感覚。
靴だって、今日はいつものじゃない。
気に入りすぎて履けなかった靴だ。
服はいつものだけど。

いつもと、いつもと違うのと。
何が違うのか、段々わからなくなってくる。
だから、ゆっくり目を瞑って深呼吸をした。
そうして目を開けたタイミングで、携帯が揺れた。

「まだバス停いる?」
停まってるからね
「バス停まってて!」
わかってるよ
「本当に!?」
停まってるんでしょ
「なんのこと?」
なんのこと?
「だからー!」

「こっちは、バス停で待っててっていう意味!」

顔を上げると、息を切らした君がいた。
疲れた様子で隣に並ぶと、こちらを見る。

バスが向かってくる音が遠くから聞こえて。

君には敵わないな、と少し笑った。