北川町に隠遁していたメトロン星人ジェントル。その彼が突如暴れだしたという知らせがもたらされた。

 

 夕日とタバコを好み、自らの謀略に疲れ果てたという彼が、何故!?

 訝しがりながらも駆けつけたエースキラー。その眼前で、夕日の中、狂ったように手足を振り回し、街を破壊しているメトロン星人が今、街に立つ象徴的なタワーに光線を浴びせ、へし折ってしまった。

 

「おいジェントルの旦那、一体どうしちまったってんだよ?…」

 

 エースキラーは思わずそう漏らしていた。その声に、メトロン星人が破壊活動を止め、まるで獣のように低く唸りながら振り向いた。その目は真っ赤に燃え、普段のぼんやり白く光る目とは明らかに違う、凶暴そうなものへと変わっていた。

 

「おい自分で宇宙ケシの実でもキメちまったのかぁ!?」

 

 思わずそう皮肉るエースキラー。メトロン星人の眉間にしわが寄り、その拳が大きく振り上げられる。その焦点の泡ない目が見下ろす先には、逃げ遅れた母親が少女を庇おうと覆いかぶさっていた。

 

「っ!!おい!!」

 

 迷っている暇はなかった。エースキラーは擬態していた人間体から、一瞬でエースキラーの姿に戻ると巨大化し、その拳を背後から押さえつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「争いは嫌いっつってなかったかよ!いきなり何やってんだ!!」

 

彼は暴れもがくメトロン星人にそう問いかけたが、メトロン星人は唸り続け、暴れるばかり。

 

「っとにおかしくなっちまったみたいだな…なら仕方がねぇ!」

 

 エースキラーはメトロン星人を突き飛ばして遠ざけ、「あんたを止める!」と叫び、ファイティングポーズをとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、メトロン星人に異変が起きた。真っ赤だった目が一瞬白く戻り、彼は頭を抱えて苦しみ始めた。思わず、エースキラーは「へ!?」とすんきょうな声を漏らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉあぁあぁっ!!やめろっ!!…俺の頭を、狂わせるなぁあ!!!」

 

 メトロン星人がそう呻きながら膝を突き、そのまま地面に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいおい…何だってんだよ!?」

 

エースキラーは訳が分からず焦った。自分でケシの実をキメてしまったにしては、言い方が妙だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!アンタ操られてるのか!?しっかりしろ!」

 

 迷いながらも駆け寄り、介抱しようとその背中へ手をかけ、摩る。だが、メトロン星人の頭の中では悪意と良心が激闘を繰り広げているらしく、彼は歯を食いしばって頭を抱えたまま、苦しむばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(参ったな…俺に治療光線でも撃つ能力があれば、ダンナを楽にできるんだが…たぶん……)

 

 エースキラーは己が初代マン・セブン・ジャック・エースそしてゾフィーまでの5兄弟の力、それも全てではなくヤプールが奪い取って模倣したものしか使えないことを知っていた。それ故に、この状況が歯がゆくて仕方がなかった。

 

 タロウはリライブ光線で傷を癒したり、物を直したり、挙句死んだ命を蘇らせることさえ出来る。彼の親たちはさらに命の扱いはおろか、生まれ変わらせる・命を想像する等、神に匹敵する超能力を身に着けていた。

 また、噂に聞くウルトラマンコスモスやギンガ、エックスは敵を落ち着かせる光線を放てるという。

 

 せめてそのどれかが身についていれば…

 

 彼は自身の不甲斐無さに唇を噛みしめた。

 

「おやおや、まだ演劇は終わってないぞ?」

 

 不意に響いた厭らしい声に、エースキラーははっと我に返る。

 

「ククク…ウハッハッハッハッハッハッハッハ!……」

 

 高笑いとともに、海岸に架かる橋の上が怪しい光を放つ。その光はみるみる撃ちに巨大な人型を成し、ウルトラマントレギアが橋の上に立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレギアっ!!」

 

 怪光に目を覆いつつもエースキラーは仇敵を見据える。そんな彼の怒りを他所に、トレギアは拍手を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかあれだけの傷を負ってもう息を吹き返すとはね。それとも新しく作り直されたのかな?どちらにせよ、素晴らしい復活劇だ。視聴者も釘付けだろうよ…」

 

 ねっとりとそう気持ちは0で称賛し、嫌らしい拍手を送ってトレギアは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、まだショーは途中だ。それなのにサボるのは困るねジェントル君?」

 

 トレギアがそう言うと、ジェントルの目が再び赤く光り始める。とっさに距離を取ろうとしたが、メトロン星人は気合いで身を起こし、そのままエースキラー目掛けて突進してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい旦那!人を操るアンタが操られてどーすんだ!目を覚ませっ!!」

 

  エースキラーは呼びかけたが、メトロン星人は尚もしがみつき、狂ったように唸りながら彼を押していく。

 

「策士策に溺れる…いやこの場合は幻覚に、か…これほど滑稽なことがあるか?」

 

 争う2にんを眺めるトレギアは楽しそうだ。その様子がエースキラーの怒りに火をつける。

 

「てめえ……絶対にとっちめてやるぞ!!」

 

「出来るのかね?まずは目の前の病人を『介抱』してやった方がいいと思うが?」

 

 トレギアは、メトロン星人を指出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 メトロン星人には、エースキラーが敵に見えてしまっているようだった。恐らく、彼が普段北川町で用いていた宇宙ケシの実の成分を過剰に与えらえれてしまっているのだろう。

 極度の興奮と幻覚症状に陥ったメトロン星人のパワーは以前手合わせした際の比ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁあっ!!」

 

 唸りとともに繰り出された土渕が、エースキラーのガードをすり抜けて命中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに繰り出されたドロップキックを受け、エースキラーは背中から地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや…彼を止める前に君が機能停止させられてしまいそうだ。大丈夫かい?」

 

 メトロン星人はエースキラーに馬乗りになり、そのビラビラした触腕を何度も振り下ろす。一撃一撃は大したことがないが、興奮により加減が出来ておらず、休みのない猛追を受けては、さすがのエースキラーもガードに徹する以外に手はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろ旦那!!」

 

 叫ぶ声も、もはや届かない。彼の目は正気を失って虚ろになり、狂った信号のように口元に光が明滅し、駄々っ子のように両手を彼に連続で叩きつけてくるだけの存在と化していた。

 

「何を言っても……無駄だってのか……」

 

 そう呟くと、エースキラーは両手の力を抜いた。それに気づき、メトロン星人がとどめとばかりに両手を振り上げる。

 

 

 

 だが、振り下ろされた手はエースキラーによって受け止められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「荒療治に移らせてもらうぜ旦那!!」

 

 そう声をかけると、気合いとともにメトロン星人の腹へ蹴りを見まい、その体を己の上から蹴り上げた。

 

「おっと!遂に力に訴えるか♪…」

 

 トレギアはそう愉快そうに言い、吹っ飛んできたメトロン星人をかわす。メトロン星人は轟音とともに大地に墜落し、派手に土砂を跳ね上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが。

 

「ウガァアァアァアァ~ッ!!」

 

  怒りがさらに激しくなったのか、その全身から禍々しいオーラを放ち、身を起こす。どうやら宇宙ケシの実の幻覚作用以外に、トレギアが何か仕込んでいるらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が彼を傷つけるたび、彼は怒り、さらに力を増す。どうする?…止めるには殺すしかないぞ。だが、感情などを覚えた気になっている君に、友を殺せるかな?」

 

メトロン星人を盾に、トレギアが挑発する。

 

 

 

 

 

 

 

「いいや?俺は旦那を殺さないぜ。」

 

 エースキラーは口元を拭って立ち上がる。トレギアは「ほう」と身を乗り出し、

 

「ではどうする?宇宙の果てまで運び去って見るか?」

 

とさらに挑発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふっ、とエースキラーは不敵な笑みを浮かべた。その笑みにトレギアは彼が自信に溢れている、と見抜いた。

 だが、一体どうするというのだ?…

 

「こうするのさ。」

 

 彼の心を見透かしたように、エースキラーは己の左腕に右手を翳す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルトラスパァク!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ッ!?」

 

 トレギアは驚いた。エースキラーは…いや異次元人ヤプールはブレスレットの変形機能を模倣出来なかったのではなかったか。

 だが現にエースキラーが抛ったウルトラブレスレットは高速で飛び、熱を帯びて白く輝いている。それは紛れもなく、ウルトラマンジャックの持つウルトラブレスレットの基本形態、ブレスレットスパークであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、バカな!?…」

 

 その動揺が勝敗を決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぐわっ!!」

 

 メトロン星人を股から頭のてっぺんまで一刀両断し、さらに高速化したウルトラスパークがトレギアの胸部アーマーを削りとる。その衝撃は流石のトレギアをもってしても耐えられず、彼はがくりと膝を突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(こんなことが!?…私に、傷を負わせるとは!?……)

 

 傷口を抑えて必死に鼓動を鎮める。そして、撤退せねばと気づき、逃れようとした。

 その頭部を、むんずとエースキラーが掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

てめえを一発、殴りたかった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、空気を切り裂いて走った拳が、トレギアの横っ面に叩きこまれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っがはっ!!…」

 

 短い呻き声とともに、トレギアの身体は高層ビルに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待ちたまえよ…私は君を、侮っていたようだ。その非礼は詫びる…だからどうだ、手を組まないか?」

 

 よろよろと身を起こしながら、トレギアが言う。その言葉を鼻で笑い、エースキラーは胸の前に手を重ねた。その構えに、トレギアは戦慄する。

 

「くだらない言い訳は、地獄の閻魔様にでもしてみるんだな。五体満足で会えれば、だが!」

 

 そう言うと彼は、M87光線の構えをとり、そのパワータイマーを眩いばかりに発光させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「M87光線!!!」

 

 エースキラーの叫びとともに、彼がつきだした右手から凄まじい破壊エネルギーがほとばしる。それは飛び去ろうとしていたトレギアの身体に命中し、その身を一気に大気圏外まで吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な!!…こんな形で、終わるわけがっ……このショーはまだ、終わらない…」

 

 光線を受け、ボディのあちこちから火花を散らしながらもトレギアは言葉を絞り出す。だがエースキラーは呆れたようにため息をつくと、

 

「地獄の底で寝ぼけてろ。」

 

と言い、光線の威力を最大値にした。

 

 

 破壊力が増した光線は一気にトレギアへと炸裂する。それは彼のみに付けていたアーマーを弾き飛ばし、その身をスペシウムエネルギーでみるみる包み込んでいく。

 

 その状態でもなお、トレギアは不敵に笑っていた。その震える指で地表の彼を指さし、にやにやと笑い続ける。

 

「私はっ!…必ず帰ってくるぞ……そして、君たちに絶望を!!」

 

 

 直後、その目から光が漏れ、君の悪い笑みを浮かべたまま、木端微塵に吹き飛んだ。

 爆音が夕焼け空に輝き、絶叫が地球だけでなく太陽系にこだまする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 エースキラーは光線を止めた。爆破の光は徐々に見えなくなり、やがて元のように夕焼け空が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!…」

 

 力を使いすぎたのか、腕を下げると同時に崩れ落ちそうになる。彼は必死に手を地面に着き踏みとどまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(やれやれ、やっパ正義の味方なんてするもんじゃないな…)

 

 心の中でそうぼやき、エースキラーはため息をついた。

 その時、手の近くから、「ありがとぉお!」を何者かが叫んだ。

 

 驚いてそちらを見ると、瓦礫と化した家から出てきたボロボロの少年たちが、彼の方へ笑顔を向けていた。

 

「助けてくれてありがとう!」

「おじさんは良い怪獣なんだね!!」

 

 子供たちはエースキラーに触ろうとしているのか、遠慮なしに彼の周りに集まってくる。流石に触らせるのは親も嫌がるだろうとエースキラーは思い、

 

「何だおい、お触りは禁止だっつうの!」

 

と言いながら子供たちを遠ざけようとするが、彼らは踏み潰されないように近づくと、足元でにっと笑顔を作って見せた。

 

 さらに、街のあちこちから被災した人々が顔を出し、彼の方へ礼や賞賛の言葉を投げかけ、手を振って笑顔を見せた。

 

「んだよオイ……みんな怖いもの知らずか。」

 

 そうぼやきつつも、何だかムズがゆくなってエースキラーは頭を掻く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、恥ずかしがってる!かわいぃ~!」

「マジ受ける!!」

 

 少し頭の悪そうなギャルたちがはやし立てる。エースキラーは少し苛立ちそうになったが、彼女たちも含め、集まってきた人々の笑顔が己に向けられていることが段々と嬉しくなってきた。

 

 しかし、遠くから戦闘機の飛行音が近づいてきて、それが聞き慣れた防衛隊のものだと気付いた彼は舌打ちをし、人々へ別れを告げることにした。

 

「無茶なことして悪かったな。けど、あんたらの言葉、嬉しかったぜ。」

 

 そう少し気恥ずかしそうに言うと、人々に22本の指で敬礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな。また何かあったら来てやるぜ。」

 

 そう言い残し、エースキラーは変身を解いて人間に擬態する。そして、上空を飛ぶTACファルコンを呆れたように見つめると、頭を掻きながら夕日に向かって歩き出した。

 

 その彼に、メトロン星人ジェントル…今はある俳優を模した擬態の姿「怪獣倉庫のおじさん」が「やぁ」と気さくに声をかける。

 

「真っ二つは2度目か?悪かったな、ジェントルの旦那。」

 

 エースキラーは一応そう詫びたが、顔に赤い縦線の浮かんだおじさんは「はっはっは」と愉快そうに笑って

 

「おかげで自分をかっさばかずにすんだし…この通り、洗脳装置も除去できた。助かったよ。」

 

と言い、チャック付ビニールに入れた血まみれのメカを示す。そのグロさにエースキラーは口をへの字に曲げた。

 

「ま、傷はそのうち癒えるさ。私も、この町も……」

 

 そう言うと、おじさんは夕日を見上げ、目を細める。エースキラーもつられて見上げ、へへ、と笑って鼻を擦った。

 

 何かを守った。その事実は侵略兵器のエースキラーにとっては可笑しな出来事だが、不思議と彼は満足していた。彼はおじさんに別れを告げると、何処かへ歩き去っていく。

 その背中を、いつまでも街の夕日が優しく照らし出していた。