【2020/9/19段階】鳥取県条例の「有害図書」のネット販売等規制を明記する改正案について | 「月松橋」活動報告

「月松橋」活動報告

同人団体「月松橋」です。

●はじめに

 

 

令和2年(2020年)9月現在、鳥取県議会において、「鳥取県の『有害図書』等を、県内外の事業者が、鳥取県の青少年にインターネットを通じて販売することを、罰則付で禁じる」という内容を含む、鳥取県青少年健全育成条例の改正案が提出され、議論されています。

 

 

この内容は、鳥取県内のみならず、鳥取県外も含めたインターネットを用いた通販等のサービスを提供する事業者、およびそれらサービスの恩恵を被る消費者に、過大な影響を及ぼし得るものであることから、当団体「月松橋」も注視を行っています。

 

当記事では、現在までに明らかになっている事柄の整理を行い、ひとりでも多くの方にこの問題を知って頂くために書くものです。

 

1.「県条例でインターネット販売を規制する」ことの無茶振り

 

鳥取県の平井伸治知事は、今年8月5日の記者会見で「鳥取県の青少年健全育成条例の改正案」についての方針を説明しました。この時、この改正案の中に、「鳥取県の青少年が、鳥取県指定の有害図書・有害がん具刃物類を入手することを防ぐため、インターネットを通じた有害図書の販売等が禁止対象(罰則付)であることを明記する」内容が含まれていることが明らかになりました。

 

 

これは、これまでの各都道府県の青少年健全育成条例のあり方からすると、極めて異質なものです。各都道府県の青少年健全育成条例にて決められている「青少年に売ってはいけない本」の名称や定義は、各都道府県ごとに異なっており、「都道府県条例により決められた『青少年に売ってはいけない本』の販売規制を、県境を越えて行う」ことは基本的に無理のある行為と考えられてきたのです。

 

これだけでも、インターネットを通じた『有害図書』の販売等が禁止対象(罰則付)であることを明確化する」ことが、かなり困難な行為であることを、一定程度イメージ頂けるかと存じます。

しかし、今回の鳥取県青少年健全育成条例の改正案の内容に無理がある理由は、これだけではありません。

 

2.鳥取県の「有害図書」かどうかは、読んでみないと分からない!?

 

先述の通り、各都道府県の青少年健全育成条例にて決められている「青少年に売ってはいけない本」の名称や定義は、各都道府県ごとに異なっています。鳥取県の(現行の)青少年健全育成条例の場合、その第13条にてまず「有害図書」の定義を述べ、第16条で「鳥取県の『有害図書』は、鳥取県の青少年(18歳未満の者、ただし婚姻した者を除く)に販売してはいけない」と規定し、第26条の中で「第16条の規定に違反した場合は罰則の対象となる」旨を定めています。

 

第13条の定義を根拠とする鳥取県の「有害図書」には、3つの種類があります。

 

①個別指定による「有害図書」

包括指定による「有害図書」

③団体指定による「有害図書」

 

このうち、①と③はまだ辛うじて分かりやすい方です。①は鳥取県青少年問題協議会の意見に基づき鳥取県知事が指定するもので、この方法で指定を受けた「有害図書」についてはその題名等が告知されることになっています。また、③は鳥取県知事が指定した業界団体等の判断によって指定されるもので、この方法で指定を受けた「有害図書」にはその旨を示す表示が付けられています。

ところが、②の包括指定とは、ざっくりいうと、「性的な描写、変態的な描写等を一定の割合ないし一定の量含む出版物」を、県協議会の審議や業界団体の判断を経ることなく「有害図書」として扱う仕組みです。これについては、具体的にどの出版物が鳥取県の包括指定に基づく「有害図書」なのかを直ちに判断できるリストも作られておらず、出版物の題名や表示を確認するだけでは「この出版物が鳥取県の包括指定に基づく『有害図書』に該当するか」を判断することはできません。

ある出版物が鳥取県の「有害図書」に該当するか否かを確認しようとした時、本であればそのページ全てをめくって、あるいは映像作品であればその全てを再生して、その内容を確認することが避けられないのです。

 

つまり、鳥取県青少年健全育成条例の規定は、事実上、「出版物を販売する時は、購入者が鳥取県の青少年か否かを確認しろ」「購入者が鳥取県の青少年だった場合は、販売しようとしている出版物の題名・表示・内容全てを確認しろ」「これを怠り鳥取県の青少年に鳥取県の『有害図書』を販売してしまった者には罰則を課す場合がある」という内容となっているのです。この内容を遵守するのは、県内で地元の消費者を相手に対面販売を行っている書店等にとっても、現実的にはかなり難しいのではないでしょうか?

ましてや、この規定の対象に、全国あるいは全世界の消費者を相手にインターネットで販売を行っている事業者も含まれるとなれば、ますます遵守は難しいです。今回の鳥取県青少年健全育成条例改正案には、第16条に第2項を新設し「鳥取県の『有害図書』等を鳥取県の青少年に販売することを禁じる規定は、インターネット等を用いた県外事業者にも適用する」ことを明記する内容が含まれますが、これは相当な無理がある内容だと思います。

ただでさえ非現実的な県条例の規定を、現実に即したものに変えることもなく、安易にその対象を広げようとする方針には危機感を覚えます。

 

 

 

3.恣意的な運用の余地を示唆?大問題の県発言!

 

「鳥取県青少年健全育成条例の『有害図書』販売に関する規定は、現行条例の規定であっても遵守しにくい内容である」「対面販売の書店等でもそうなのだから、この上インターネット販売が含まれるともなればなおさらである」ということを前項で説明しました。この規定で事業者が困ったことになるのはもちろんですが、しかし、実はこの県条例の運用を行う鳥取県側(鳥取県庁、鳥取県行政)も本来、困るはずなのです。

「出版物の題名・表示・内容全てを確認しないと、鳥取県の『有害図書』に該当するか分からない」というのは、鳥取県側にとっても同じことです。「どの出版物を鳥取県の青少年に売ったら県条例違反か」ということを即座に判断する方法が存在しない以上、この県条例の違反者を探すのも楽なことではないはずなのです。

インターネットで販売を行っている、県内外の事業者も含まれるとなればもっと大変です。インターネット上の注文履歴を調べたり、県境でトラックの積み荷を改めたりして、注文された/輸送されてきた出版物の題名・表示・内容全てを確認することがもし可能ならば、厳格な運用もできるかも知れませんが、あまりに非現実的です。

 

 

 

 

はたして、鳥取県議会の 9月14日福祉生活病院常任委員会で、川部洋県議が「インターネットでの販売について、(県条例で)他県や国外のお店の検挙というのはできるのか?」という質疑を行います。これに対して鳥取県側の担当者は、「現実問題として、重大案件がなければ他県・国外まで捜査に行くことはないと考える」「ただ、規定上は摘発可能な形としたい」と回答しました。

 

 

 

「県条例でインターネット上の販売行為を取り締まることは現実的に困難」という問題を鳥取県も認めていることが明らかになった訳ですが、しかし「それでも『インターネットの取り締まりが、県条例の内容上は可能』ということにしたい」という方針で鳥取県が動いているのだとすればあまりに問題です。

鳥取県側は「重大案件がなければ運用は難しい(しない)」という言い方をしてはいますが、であれば「これこれの事態が起きた場合にのみ取り締まりを行い罰則を課す」等の、「重大案件」の具体的な定義を明確に県条例(案)の本文に書きこむべきです。それがない限り、「この案件は重大案件か否か」という判断を鳥取県側が恣意的に行う余地が残ることとなり、「『これは重大案件だ』と言う口実を得た場合は、鳥取県は捜査・摘発を無理矢理にでも行い、その上罰則を課してくるかも知れない」という可能性を排除しきれません。

 

●おわりに

 

以上、鳥取県の青少年健全育成条例改正案にどのような問題があるか、説明して参りました。

もし、この改正案が鳥取県議会でこのまま成立した場合、どこまで影響が拡大するか正確には予測しづらい部分もあります。しかし、「もし違反したとみなされたら罰則を課される可能性がある規定が、全国・全世界の事業者に適用され得る」という部分が重いこともあり、中々楽観はできません。細かい制度設計を嫌った事業者が、鳥取県におけるサービスから撤退する、あるいは出版物の通販サービス等そのものから撤退することも考えられ、その結果大勢の消費者がそのサービスを享受できなくなることもあり得ます。

 

 

 

ただ、そのような未来が来ることがまだ確定した訳ではありません。青少年健全育成条例改正案が提出された鳥取県議会(令和2年9月定例会)は今も開会中であり、この青少年健全育成条例改正案について今後も質疑を行う県議の方がいらっしゃることも分かっています。

閉会が予定されている10月8日までの間に、まだできることは残っているはずです。

 

 

 

今後も逐次状況が更新されるであろうこの鳥取県青少年健全育成条例改正案をめぐる問題を、ぜひ、多くの方に注視頂きたいと考えています。

最終目標としては「この議案について、このままだと困るので、こう対応して欲しい!」等の意見を共に上げて頂ければこれ以上のことはございませんが、まずはとにかく現状を理解しないことには何もはじまらないと思います。

 

以上、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

(卵)