「転々」  | 月灯りの舞

月灯りの舞

自虐なユカリーヌのきまぐれ読書日記

先日、ラスト数分 睡魔に襲われ、
結末を観ないままで終わった映画「転々」。
どうしても結末が気になって、原作本を購入。


★映画「転々」の感想
http://ameblo.jp/tsukikagenomai/entry-10076680062.html



ややネタバレありなので、
これから読む人で、真っ白な心で読みたい人は
ここから先は読まないでね。


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「転々」 
藤田 宜永:著
2005.10/620円/新潮社


転々
それは短いけれど、運命を遡る旅だった。
ただ僕だけが、行き先を知らなかった。
せつなさあふれるロード・ミステリー。
        <帯より>


深いドラマがたっぷり。


映画のぬるさとは違って、一気読みしてしまうほど
惹きつけられた。



映画は、原作の借金取りに追われている文哉が
「100万円やるから東京散歩につきあえ」
福原という男から言われ、吉祥寺から霞ヶ関まで
二人で歩くというシチュエーションだけとって、
それに「時効警察」の笑いの部分を味付けして
ゆる~くした感じ。


でも、原作の方は、散歩の途中に二人の思い出の
場所に寄りつつ、それぞれの過去
と関わるような深いドラマが隠されていて、
それを探りながら、歩き、新たな展開へと
発展させていくという盛りだくさんな内容。


しかも、謎解きの要素がふんだんに
盛り込まれていて、最後にはあっと驚く
真実が明かされる。


ミステリの要素だけでなく、
中盤、大立ち回りもあって、ハラハラするサスペンス的
要素もあるんだよね。

原作に忠実に映画化した方がおもしろかった
だろうけど、安っぽくなるから、かえって、
別物とした、映画にしたのかなあ。


主人公 文哉は本当の親に捨てられるわ、
養父にも見限られるわという不幸続きの
おいたちで、人に対して冷めているのだけど、
ストリッパーの女に惚れちゃう。

でも、その女にはコワイ男がいるけど、
奪っちゃうとか、設定もちょっと
ドラマティックすぎるんだけど、感情描写が
うまく書かれているため、違和感なく読め、
引き込まれてた。


この著者の本は初めて読んだけど、
おもしろいなあと思ったし、人間のもろさや
弱さ、矛盾することとかすごく巧みに描けて
深みがある。


で、100万円出すといった福原の方も
文哉に負けず波乱な生き方をしている。

そして、歩く理由は「妻と散歩した道をたどりたい」。

でもね、妻を嫉妬心から殺してきてるんだよね、
この男。


妻が若い男をあさりに夜の街に出かけるように
なり、その話を聞いた時、一人の男にだけ
強い嫉妬を覚え、かっとなって
妻を殺してしまったのだという。


そして、桜田門で自首するために、歩いて
吉祥寺から東京を散歩するというのだ。


で、その嫉妬の内容なんだけど。
妻は若い男とたくさん関係をもってしまってたのだけど、
一人だけ、ホテルにいって何もしない男が
いた。

その何もしなかった男の話をきいたとき、
その男に対してだけ
強い嫉妬をしたという。


身体のつながりより心のつながりに殺すほどの
強い嫉妬をおぼえる男。
抱き合わなかったからって、
心がつながってたかどうかは別物だけどね。



それと対照的に、身体のつながりを求める女。
セックスで感じたことのない
そのストリッパーの女は、最後に文哉と賭けにでる。

文哉と最後に交わって、
エクスタシーを感じたら、このまま文哉と
別れないで二人で逃げる。
でも、感じられなかったら、尼寺に入るという賭け。



男と女は愛するほどに、相手にいろんなことを
求めるようになるね。
互いに求めるものが同じならうまくいくのにね。


男と女、心と身体についていろいろと考え
させられ、最後に せつなさの漂う物語だった。


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