点滅する信号
かけ足の横断歩道
思い通りにならない日々
つまらない仕事
めんどくさっ
うつむき加減の視線の先

ひとつに気付くと
街の地面のそこここに
浮かび上がるマンホールカバー
意外と地表は穴だらけ

そこにあることさえも気づかずに
通りすがりに踏みつけていく
革靴 ヒールの踵 車のタイヤ
毎日毎日すり減りながら過ごしてる
みんな悪気のかけらもないけど
すり減っていく身体
すり減っていく体力
すり減っていく生命

踏まれれば踏まれるほどに
角が取れ丸みを帯びていく
すり減っていくたびに
新しい地金が出てきて
本来の色のまま輝きを増していく
たとえどんな負荷を背負ったとしても
柔らかい雰囲気を纏い
優しさを内包する強さを手にしたい
誰の色にも染まらずに
自分色のまま輝き続けていけばいい
踏まれてるんじゃない
磨かれてるんだ

どれだけ踏みつけられても
与えられた役割を果たしてる
どれだけすり減っても
自分の仕事を淡々とこなし
都市のインフラを人知れず守ってる
たとえ誰からも見向きされなくても
やるべき本質を理解して
自慢する事もひけらかす事もなく
結果に真摯に向き合い
過信も卑下もなく等身大でいればいい
繕わず命果てるまで
生命を使いきれ


階層格差社会
圧倒的多数の下層民
どんぐりのマウント争奪戦
難しい人間関係
めんどくさっ
ため息を吐いた視線の先

一度見つけてしまうと
いろんな表情を見せてくれる
十人十色のマンホールカバー
そこは地上の美術館

そこにも心があることに気づかれず
通りすがりに踏みつけていく
噂話 心ないひと言 冷たい視線
毎日毎日すり減る思いで過ごしてる
みんな悪気はないかもだけど
すり減ってくメンタル
すり減ってく自我
すり減ってくぼく

みんな気づいてないかもだけど
いろんな効能が刻み込まれてる
いざという時だけじゃなく
緻密に計算された危機管理
みんなの日々の安寧を祈ってる
たとえ神経をすり減らしても
常に広い視野を持ち
どんな状況でも対応できるようにと
いつも平静な思考を心がけ
周囲への配慮と気遣いを続けていきたい
さりげなさの中に溢れる
細心の気配り

ついつい目を奪われてしまう
土地土地の風情豊かなデザイン
中には色彩豊かなものも
それ目当てで訪れたくなる程
すでに立派な観光大使
とはいえ笑顔の下は全くの別の顔
誰にも見せない心のうち
曲がりくねった長い長い暗渠が続く
光が刺すことのない闇
清濁併せ持った自制できない本性を
誰にも悟られぬよう
ひた隠す墓場まで


人と触れないように距離をとるアイツ
離れたところで粋ている
個性という名のエッジを効かせて
井戸の中のお山の大将
いつの間にか錆びだらけ朽ちていく
孤高のまま生きた化石と化していく

足早に過ぎゆく世紀
幾多の災禍や戦禍をくぐり抜け
積み上げた星霜の重み
すり減ったその姿の中に
遠き時代の面影を宿し続ける
たとえ時代が移ろいゆくとも
心はいつも威風堂々
経てきた年月の誇りを胸に
幾許かの残された余白
身体の傷跡も癒えることのない心の傷も
ぼくがぼくである証
共に歩んだぼくの戦友


赤ちゃんぴえん坪の石 文〈マンホーラー見習い〉