『オカンの心、ボク知らず』

1996年秋。
中川家のベランダには、『自給自足』『オカン農園』と
書かれた札と、ニンジン、ダイコン、チンゲン菜、
沢山の野菜が育てられている。

冷蔵庫には特売のメモにスーパーのちらし。
中条きよしのポスターと、クーポン券。
ハワイアンセンターで撮った雅也(速水もこみち)と
栄子(倍賞美津子)の2ショット写真。
ヒゲメガネ。ハンディカラオケ。
栄子の薬の袋。『渋谷区甲状腺医療センター』
広告で折った小物入れの中には回数券、バス共通カード。
ビーズアクセサリー製作の内職引取書。
渋谷区老年向けサークル白樺会の予定表。


「親子の同居生活にも、暫くの月日が流れ、
 オカンは、東京で、着実に進化を遂げていった。」


『マー君へ
 ちょっと
 お出かけしてきます
 オカン』

部屋で仕事をする雅也。
カレンダーには、仕事やデートの予定、そして2月4日には、
『Myバースデー!!』と書き込まれている。

一息つく雅也。
"参考資料"と書かれた封筒をチラっと見つめ・・・。
そしてそのビデオにニヤリ。
早速それを見ていると、オカンが帰ってきた。
慌ててビデオを隠す雅也。
「ノックぐらいせんね!」
「お買物に行ってきたんよ。
 お土産たい。
 名前入りやき。すごかろ!?巣鴨で買うたんよ。」
そう言い、"中川雅也"と名前の入った箸を渡す。
「・・・はいはい。」
「まだあるき。
 ご飯粒の付かんしゃもじたい。
 巣鴨で買うたんよ。
 お仕事でお世話になった人たちに配り。」
「そしたら仕事があるけ。」部屋を出ようとする雅也。
「待ち!」
「なんね!」
「まだあるけ。」
そう言うと、栄子が真っ赤なトレーナーをカバンから出し
雅也に当ててみる。中央にはトラのイラスト!
「ピッタリなサイズやね!よく似合う!
 巣鴨で買うたんよ。」
「巣鴨はもうええっち!
 集中できんけ!」

インターホンが鳴る。
「遊びに来たど。」バカボンこと山田耕平(柄本佑)だ。
「悪かね。仕事中なんよ。」と雅也。
「あ、いいよ。おばちゃんは!?」
「・・・」

「コンビニバイトも、もう、限界やき。
 俺のレジだけ、なんか、バーコード読み取らんとばい。
 なんか、いいバイトなかかねー。」
栄子とぷよぷよゲームを対戦しながらバカボンが言う。
「バイトねー。
 ほれ、ほれやったー!」
栄子の勝ち。
二人の楽しそうな姿をこっそり見つめる雅也は不満そう。

ピンポーン。
インターホンの音に雅也が出てみると、今度は
レオ・リー(チェン・ボーリン)がやって来た。
「毎度!」
「悪かね。今、仕事中、」
「栄子ママいる!?」
レオが上がりこむ。

家庭菜園から野菜を収穫し、栄子が食事の支度をする。
レオが栄子を手伝っている。
「いつもありがとさんね!」と栄子。
「毎日ママの笑顔みたいし。」
「可愛いこと言ってくれるね、レオ君は。」

仲良く台所に並ぶ二人の姿に、雅也、イジイジ。
そこへ、又誰かがやってきた。
雅也の笑顔が輝く!
今度こそ自分の客か!?
・・・と思ったら、訪ねてきた徳本寛人(高岡蒼甫)の
第一声は、
「おふくろさんは!?」
「・・・」

その日の夕食。
ご飯4杯目をお代わりする徳本。
「男の子はそうでなくちゃ」と栄子も嬉しそう。
「うちのエンゲル係数は・・どげんなっとるんやろ・・。」
「マー君、食欲なかと?」
「別に。」ふてくされる雅也。
その隣で徳本がまたご飯をお代わりする。
「今日も完売や。
 徳本君がいっつも綺麗に平らげてくれるから、
 気持ちよかー。」
「最高に美味いですから!」
「そげん食べっぷりが良かったら、
 実家のお母さん作り甲斐あるやろね。」
「・・・」複雑な表情を浮かべる徳本。
レオが心配そうに見つめる。
「あ、徳本さんね、地元で悪さしたから
 実家追い出されとるんよ。」とバカボン。
「おい!!」
「自分で言うとったやん。」
「そうなん!?」
「いや、10年も前の話ですよ。
 俺も昔は相当ヤンチャしてたからね。」徳本が無理に笑う。
「若気の至りってやつだよね。」とバカボン。
「じゃ、実家帰っとらんと?」栄子が聞く。
「帰っとらんっつーか、帰れないっつーか・・。」
「そうね・・。」
「はい、みなさん、今日もご一緒に、
 ご馳走様!!」
「おばちゃん、今日は俺が皿洗ってやるけん。」
「あら!ありがとね、バカボン。」
「それは僕の仕事だ!」とレオ。
楽しそうな4人の姿に、口を尖らす雅也だった。


栄子が雅也の部屋で暮らすようになり、
家の中の様子がだいぶ変わりました。
置いてある小物で、二人が工夫をして節約しながら
楽しく生活している様子が見えてきました。
エッチなビデオをチラっと見る雅也の表情が笑えます。^^

ご飯粒の付かないしゃもじが登場したのはこの年!?
我が家でも愛用しています。
ぷよぷよゲームもこの頃流行ったんでしたっけ。

バカボンだけでなく、レオや徳本までも、
栄子に会いに雅也の家に集まるように。(笑)
みんなオカンが大好きなんですね~!
雅也は自分の友達が自分でなく栄子に会いに来ている。
あの複雑な表情。
どうやら雅也は栄子に嫉妬を感じているようです。


出版社。
キリキリした様子で締め切りを守るよう電話で告げる
鳴沢一(平岡祐太)。
そこへ上司がやって来た。
「鳴沢、今度の特集、お前の企画でいくから。」
「ほんとですか!?」
「でもあれか・・・いっぱいか。
 ここんところずっと会社の泊まりっぱなしだろ?」
「いえ!大丈夫です!
 仕事の仕方、変えましたから。」
「そうか。頼んだ!」
仕事を任され嬉しそうに微笑むと、鳴沢はまた机に向う。
ふと、自分の上着の取れかけたボタンを見つめ・・・。


「5月にある人は言った。
 それを眺めながら、寂しそうだと言った。」


東京タワーの写真を見つめるまなみ(香椎由宇)。
手に持つ雑誌には、まなみが撮影した紅葉の美しい写真が
掲載されている。
その雑誌を封筒に入れると、まなみは送り状に
実家の住所と、そして少しためらったあと、
母の名前、恵子と書いた。

「この空っぽの都で、
 ぐるぐる回され続ける僕らは、
 その孤独である美しさに、
 憧れるのだと。」


夕食の後片付けを手伝うバカボン、レオ、徳本。
徳本は食器をしまいながら、茶碗を複雑な表情を
浮かべて見つめる。

「ちょっと・・タバコでも買うてこようかなー。」と雅也。
「あ、おばちゃん!そろそろドラマの時間や。」とバカボン。
「そうやね。この間刺されたところで終わってるけん、
 気になるけんねー。」と栄子。
「ママ、何か甘いのない?」とレオ。
「大学イモがあるけ、お茶にしよ。」
まるでみんなに自分は見えていないのか・・・。
寂しそうに台所を抜けていく雅也。
「マー君!」オカンの声に嬉しそうに振り向く。
「牛乳買ってきてくれんね。」
母の笑顔に苦笑い。


雅也のモノローグ。
ある人=まなみ それ=東京タワーでしょうか。

みんなの気持ちがオカンに向いていて、雅也は寂しそうですね。


その日、雅也が目を覚ますと、もう既に昼の一時近く。
「もうこげな時間ね・・。」
お腹がぐーっと鳴る。

「オカン飯・・・」
静かな台所。
テーブルの上にはラックで包まれた料理とメモ。
『マー君へ
 白樺会に
 行ってきます 
 オカン』
「あの不良ババーめ・・・!」

栄子は白樺会の編み物講座で、主婦たちとおしゃべりを
楽しみながら、楽しそうに編み物をしていた。

職場でふと電話を見つめるまなみ。
まなみは母からの連絡を待っていた。
迷いながらも自分から実家に電話をしてみる。
「お母さん?
 あのー、・・・届いた?」
「何のこと?」
「雑誌。」
「え?
 ・・・ああ・・・。」
「どうだった?」
「ちょっとねー、今それどころじゃないのよ。
 従業員の方からも、不満出てるし・・。
 回すだけで精一杯。」
「・・・見てもいないんだ。」
「・・・」
「相変わらずだね。」
「まなみ、」
「じゃあね。」
寂しそうに電話を切るまなみ。

修理工場で働く徳本は、仕事のあと社長に声を掛けられる。
「ここ来て10年だろ、丁度。
 はい!
 少ないけど。」
『勤続10年』と書かれた封筒。
「ありがとうございます!」
「親御さんに、美味いもんでも食わしてやれ。」
黙って頷く徳本。

アパートに戻った徳本は、封筒を手に、公衆電話を見つめ・・。
「二度と母さんの前に姿を見せるな!」
父の言葉が頭をよぎり・・・。

鼻歌を歌いながらお洒落する雅也。
インターホンの音にニンマリ。

「いらっしゃい!」嬉しそうに客を出迎える。まなみだ。
「うん。」
「雑誌でよかーレストラン見つけたけ、行こう!」
「レストラン!?」
「ちょっと奮発するけん!」
「お母さんは?」
「・・・」

まなみは栄子に雑誌に掲載された自分の写真を見せる。
「あらー、綺麗綺麗!
 素敵な写真やないの。
 さすが、写真の名人たい!」
笑顔で写真を見つめる栄子の横顔に、
「お母さん・・・」とつぶやくまなみ。
「なんね?」
「なんでもないです・・」

「さーーてとーー、
 俺はお邪魔そうやしーー、」
仲良く寄り添う二人の背中に大きな独り言を言ってみる
雅也だが、二人は無反応。
雅也は大きなため息をつくと、一人アパートを出ていった。

それを確認すると、栄子とまなみは笑顔である準備に取り掛かる。

その頃・・・
オカマバーのママたちと歩くオトン・兆治(泉谷しげる)。
息子も妻も東京に行って寂しいのでは、とからかわれ、
「バカタレ!」と兆治。
「もう!素直じゃないんだから、男って!!」
頭をかきながら歩く兆治の後姿。

同じ様に頭をかきながら歩く雅也の後姿。
雅也は偶然徳本と出会う。
「なんだそれ。」徳本が驚く。
雅也はうさぎを入れたケージを手に持っていた。

雅也の住むビルの屋上。
『ゴジラの家』を作る徳本。
「何で俺が・・・」
徳本は文句を言いながら器用に小屋を作っていく。
「さすがやね。」
「学ないやつは、手に職持ってねーと。
 東京じゃバカが搾り取られるように出来てるからなー。
 ・・なんでウサギなんだよー。」
「気持ちがわかるけねー。
 ウサギは寂しいと、死んでしまうっち言うやろー。」
「何寂しがってんだよ。
 もう行っていい?」
「・・・なんでみんなあげなおばちゃんの周りがいいんかね。」
うさぎを抱き上げ呟く雅也。
「いいじゃん。
 ただいまが言えて。
 あったかい飯が食える家。
 俺には10年ぶりだ。
 ・・・よし!今日も飲もぞ!」

雅也の家で酒を飲む徳本とレオ。
バカボンは既に酔いつぶれている。
そしてレオもダウンした。
「徳本君も強いよねー。」と栄子。
「任せてください。」
「じゃ、おばちゃんもちょっと頂こうかね。」

そこへ鳴沢がやって来た。
鳴沢にイスに座るよう勧める栄子。
「中川は奥ですか?」
鳴沢は雅也の部屋に向う。

「電話もなかったけん、もうええんかっちゅ思うてん。」
「ごめん。
 小さい仕事だったから、すっかり忘れてて・・」
「・・・」
「このあと、原稿書かなきゃいけないんだ。
 もう少し急げない?」
「はいはい。」

部屋の外でウロウロと待つ鳴沢。
「鳴沢君、ご飯用意したけ。食べていきんしゃい。」
「あ、僕すぐ社に戻らないといけないんで。」
時刻は夜10時過ぎ。
「こげん遅くにまだ仕事があると?」
「はい。」
「そしたらお腹すくけん。」栄子がご飯を盛る。
「いえ、結構ですから!」
その様子を酒を飲みながらじっと見つめる徳本。
「遠慮せんと、食べんしゃい。」
「・・・まだかな・・・。」
いらいらした様子で雅也の仕事を待つ鳴沢。

「ナル、出来たばい!
 こんなん朝飯前たい。」雅也が部屋から出て来た。
「ありがとう。
 それじゃ、」
「そしたら、食べてきんしゃい。」と栄子。
「ナル!」
二人を無視し玄関に急ぐ鳴沢。

「おい!」徳本が鳴沢の胸元を掴む。
「食ってけよ!」
雅也と栄子が徳本を止めようとするが、徳本の怒りは収まらない。
「お前の為にせっかく作ってんだろ!
 さっさと食えよ!飯が冷めんだろ!」
「・・・」
「なんとか言えよ!おい!」
徳本を止めようとした栄子を、勢いで突き飛ばしてしまう徳本。
ご飯茶碗が落ちて割れる。
「痛ー。」

その時、徳本の脳裏に辛い過去が蘇る。
母を突き飛ばす自分。
割れる茶碗。
母の手から流れる血。

不安そうに栄子を見つめる徳本。
「大丈夫大丈夫。」と栄子。
「オカンがおせっかいやくけんたい!」と雅也。
「ごめん。
 お仕事忙しいんよね、鳴沢君。」
「・・・
 帰ります。」
「鳴沢君、お仕事、がんばり。」
栄子が鳴沢を見送る。

徳本は割れた茶碗を見つめたまま動けずにいた。
そんな徳本を心配そうに見つめる雅也・・・。

ベランダ。
割れた茶碗を見つめる徳本と、うさぎをあやす雅也。
徳本がやっと口を開く。
「悪い。」
「気にせんで良かよ。」
「ダメなんだよ、昔から・・カッとなると・・・。
 殴っちまったんだ・・・。」

息子の生活態度をとがめる母。
徳本はそんな母を振り切ろうとし、その弾みで母親は
転んでしまう。その時、割れた茶碗で母は手を切ってしまった。しまった、という表情の徳本。
「寛人!!」父親が息子を叱りながら母親に駆け寄る。
徳本が母親に歩み寄ろうとすると、
「寄るな!
 出ていけ!
 二度と母さんの前に、姿を見せるな!!」
父はそう言ったのだった。

その話を窓のそばで栄子も聞いていた。

「おばちゃん、またね!」「またね、愛してるー。」
バカボンとレオが帰っていく。

「すみませんでした。」
徳本が栄子の謝り、帰ろうとする。
「帰らんと?
 実家に帰らんでよかと?」
「帰れるわけないっすよ。」
「ばってん、私やったらそげなことちーっとも痛くないけんね。
 10年も、息子に会えん方が、よっぽど痛か。」
「・・・」

部屋でうさぎを抱える雅也。
「みんないろいろあったんやねー。」と呟く。

病院の薬を飲んだあと、栄子は紙袋から毛糸を取り出し
編み物の続きを始める。

雅也の原稿を手に、疲れた表情で社へ戻る鳴沢。

「ただいまー!」
自分の部屋に帰ったバカボンは、誰もいないのについそう
挨拶をし、寂しさをかみ締める。

公衆電話で母と話すレオ。

「ママ?
 元気?
 僕?
 元気元気。
 大丈夫大丈夫。
 日本語で元気って意味だよ。
 ママ
 会いたいね」

まなみは、また雑誌に自分の写真が採用され、
それを実家に送る準備をしていた。
送り状に北海道と書き、少し迷ったあとそれを塗りつぶし、
考え込むまなみ。

徳本は勤続10年の封筒を握り締め・・・。

鳴沢が上司に謝罪している。
「お前の原稿全部チェックしなおせ!
 それから、あれ、映画コラムの、イラストどうした!?」
「え!?」
「お前の担当だろうがよ!
 発注してないのか!?」
「・・すみません!3時までにはなんとかします!!」

雅也の家のインターフォンに手を伸ばす鳴沢。
だが、少し迷い、引き返そうとする。
玄関を出てきた雅也が鳴沢を見つける。
「ナル?」
「・・・」
「どげんしたと?」
「・・・」
「これから打ち合わせなんやけど、なんか頼まれとったっけ?」
「いや・・・
 あの・・・
 急なんだけど・・
 イ、イラスト・・・
 いや・・やっぱり・・」
そう言い歩き出す鳴沢は、貧血を起こし倒れてしまう。
「ナル!大丈夫か!?」

思い足取りで歩く徳本。
向っている場所は・・・10年ぶりの実家だ。
ドアノブをどうしても回すことが出来ず、
徳本は開いていた窓から中を覗いてみる。
なつかしい母の姿があった。
「おふくろ・・・。」
徳本は暫く母を見つめたあと、勤続10年の封筒を置き、
そっと実家を後にした。

鳴沢が目を覚ます。
4時15分。しまった、という表情の鳴沢。
カーテンレールに彼のジャケットとネクタイがかけてある。
取れかけていたボタンがちゃんと縫い付けられていた。
「鳴沢君。食べんしゃい。」
栄子がおかゆを持ってきた。
「なーんも食べとらんのでしょう。
 どげん忙しくても、食べるものはきちんと食べんと
 いけんよ。」
栄子に言われ、器を受け取る鳴沢。
雅也もその様子を伺っている。
鳴沢がおかゆを口にそっと運ぶ。
「とりあえずご飯食べれば、元気が出るけ!
 元気があって、楽しいのが一番!」
栄子の優しさに、鳴沢は涙をこらえておかゆを口に運んだ。

「すみません、ちょっと、電話をお借りしてもいいですか?」
「うん。」

フラフラと電話まで歩き、会社へ電話をする鳴沢。
「ああ、デスク。
 ・・ええ。コラムのイラストなんですが・・
 間に合いそうにありません。
 申し訳ありません!」
雅也が受話器を奪う。
「あ、もしもし、お世話になっております。
 イラストレーターの中川です。
 いーっつも申し訳ありません。
 あの・・まだ、間に合いますか?
 はい。そこをなんとか、お願いします!
 いいイラスト、書きますけ。」

雅也がイラストを描くのを見つめる鳴沢。
「何ボケっと見とる。
 ナルも美大出てるんやろ。
 こげな時に手伝ってくれてもよかろうも。
 よし、ほれ、背景。」
鳴沢は雅也の前に座ると、久し振りのイラストを
楽しむように書き始める。

ドアの前には、たくさんのゆで卵と塩、そして
『頑張りよ』のメモがあった。

徳本が出社すると、社長が彼宛の手紙を渡す。
母からだった。

『10年間、ずっと待っていました。
 これからは、いつでも好きな時に帰ってきてください。
 あなたがどこで、何をしていようと、
 あなたは私の、息子なんですから。』

徳本は、号泣しながら車の整備をするのだった。

まなみの母・恵子は、登記済権利証を見つめ・・・。

中川家。
台所で料理するまなみと栄子。
レオもバカボンも手伝っている。
「あのー。今日、」と雅也。
「お母さん、ダイコンどうします?」とまなみ。
「ダイコンは、短冊切りやね。」
「じゃがいも、洗ったよ。」とレオ。
「あの!」
「もう先輩、邪魔やき、どいとってくれんね。」
バカボンは雅也をベランダに追い出してしまう。
「・・・今日は特別な日やのに・・・。」
仕方なくうさぎを抱き上げる雅也。

テーブルにご馳走が並ぶ。
大急ぎでパーティーの支度を始める三人。
そこへ徳本がやって来た。
「どうも。」
徳本の穏やかな笑みに、栄子もほっとする。
「お帰り。」
「ただいま!」
「ほれ、はよ手伝わんね。
 あ!これ。
 いーっつもいっぱい食べてくれるけ、
 徳本君のは特別たい。
 巣鴨で買うたんよ。」
大きなご飯茶碗と名前入りの箸を渡す栄子。
「・・・よっしゃ。ガンガン食べます!」
「ママー、ずるいー。」とレオ。
「あるよ、レオ君のも。ほれ。」
『李』『利欧』と書かれた箸を渡す。
「ありがとう!」
「はい、まなみちゃん。」
まなみには、美しい桃色の箸。『佐々木』『まなみ』と
名前が入っている。
「ありがとうございます!」
「おばちゃん俺んとは?」とバカボン。
「あったりまえたい!
 ほれ!」
緑色の箸。ナスとニンジンのイラストと、『バカ』『ボン』と
名前が入っている。
「本名でええんやけど・・」
みんなが笑う。

うさぎをあやす雅也。
「ごはん出来たよ。」まなみが呼びに来た。
「うん。」
「行こ!お母さん待ってるよ。」
「・・・」
「みんなも待ってるよ。」
「みんなもよく、オカンのとこ通いようねー。」
雅也からうさぎを受け取り、まなみが隣に座る。
「気付いちゃうからね。
 お母さんに触れると温かすぎて、
 本当はずっと寂しかったんだーって。」
「・・・」
「もうすっかりみんなのオカンだね。」
まなみが微笑む。
「はい、みんな待ってるよ。」

雅也が部屋に戻ると、クラッカーの音。
「マー君!お誕生日おめでとう!!」

サプライズ・パーティーに、雅也は大感激。
「はい!」まなみがプレゼントを渡す。
写真たてと手書きのメッセージ。
「ありがとう!」
レオ、徳本、バカボンたち三人からは、高級もやし!
そして栄子からは、手編みのカバーをつけたクッション。
「お仕事の時に使い。」
ひっくり返すと、真ん中に動物が編みこんである。
「ブタ!?」
「うさぎや。
 可愛いやろ?」

「あれ?先輩目が潤んどる?」
「まなみちゃん、ティッシュ、ティッシュ!」
「いらん。
 あんまり下手くそ過ぎて言葉が出んかっただけや。」
「まあ記念に、一枚。
 並んで並んで。」
「ええってええって。」雅也が拒否する。
「並んで、いいから。」
栄子と雅也が最高の笑顔でカメラに向って微笑んだ。

ヒゲメガネをつけて『うそ』を熱唱する栄子。
編み物教室の仲間もいつの間にかパーティーに参加していた。


「オカンは田舎にいるよりも、
 東京の方が向いているのではないかとさえ思えた。
 病気も悪化しない。
 有名な病院にも通っている。
 田舎にはない、娯楽もある。
 大体のことは、上手く運んでいるような気がした。」


まなみからもらった写真たてには、二人の2ショット写真。
雅也が目を覚ます。
部屋のイスにはオカンから貰ったクッションが置いてある。
時刻はもうすぐ11時。


「町の喧騒、車や、電車の音、ボーリングの音、
 何も聞こえない、静かで、いつもと変わらない空間。
 のんびりとした、穏やかな時間。」


「どうせオカンが世話することになるんやねー。
 わかっとるやけ。」
ベランダで嬉しそうにうさぎの世話をする栄子。

「平和であることしか、
 特徴のない風景。」


仕事を始める雅也。

うさぎと遊ぶ栄子。


「この時までは・・・」

「うっ・・・。」
栄子が突然、のどを抑えて苦しみ出す。