『病の宣告』

「ばあちゃが死んだ。
 何もしてあげることが出来ずに、
 ばあちゃんは死んでしまった。
 悲しさよりも、悔しさに泣けた。
 さよならも、ありがとうも、違う。
 何か感じたことのないような気持ちが、
 言葉にならなかった。」


=1994年3月=
中川雅也(速水もこみち)は、祖母の藤本ハル(赤木春恵)の死を契機に
生活態度を改める。
徳本(高岡蒼甫)の勤める自動車修理工場、
そして、レオ(チェン・ボーリン)の勤めるクラブ、
掛け持ちでアルバイトを始める。
「思ったより続いてるな。」
「意外と続いてるね。」
徳本とレオもそれぞれの職場で雅也にそう声をかける。

アルバイトで借金を返し始め、もとのアパートに住めるようになると、
山田耕平(柄本佑)も再び雅也を頼って東京に出てくる。
「先輩ごめんなさい!
 俺はバカちんたい!
 離れてみて先輩の存在がどんだけ大きかったかわかったと!」
「放せ、この裏切りもんが!」
「もう二度と離れたりせん!
 生まれ変わってもずっと一緒におろうね!」
「お前が来ると縁起が悪か!
 何しに来たと!?
 変な頭しよって!」
「とうとう見つけてしまったとよ。
 ほんとの夢ば。」
そう言い、K1の雑誌を掲げる耕平。
「俺格闘家になるけ!」
「・・・」

「おぅー!水が出よう!
 火がつきよう!
 これが人の暮らしばい。
 ・・・何しようと?」
画用紙にイラストを描く雅也。
「まぁとりあえず、何か始めてみよう思ってねー。」
「熱でもあると!?」
「違うって!
 ただ・・・」
祖母が残したギザ10の箱を見つめる雅也。
「今度こそ、こっちでちゃーんとやろうち、
 思うちょると。」
「先輩!俺も手伝うけん。
 掃除するたい!」
散らかった紙を拾い集める耕平。
「あれ?かっぱ?
 かっぱ・・・」
どの紙にも、『かっぱ』という文字が書いてある。

『マー君へ
 オカンは筑豊で小料理屋を始めることになりました。
 知り合いの人が経営していた店を、
 そのまま、譲り受けることになったんよ。
 オカン、初めての自分のお店です。』

「これ、マー君が書いてくれたんよ。」
背中に『かっぱ』と文字の入ったハッピを香苗(浅田美代子)に
嬉しそうに見せる栄子(倍賞美津子)。
「まー、美大出てるだけあるねー!
 それに比べて、小倉の兄さんが書いたのは、
 芸術爆発し過ぎたい!」
壁に貼られたお品書きは、兆治(泉谷しげる)が書いたらしい。
「うちの店と両方やると?」香苗が聞く。
「あったりまえたい!
 昼はそっち、夜はこっち!」
「もうよか年なんだから、無理せんようにね。」
「みんなの思いが詰まってる店やけんね。」
そう言い、息子と元夫の字を感慨深げに見つめる栄子。
「マー君も、東京で一から頑張ってるし、
 私も頑張らんと!」嬉しそうに微笑む栄子。

鳴沢(平岡祐太)の勤める会社を訪ねていく雅也。
「あの、遅うなったけど。」
雅也はそう言い、5万円を返す。
「いいのに!」
「いやいや、そういう訳にはいかんて。
 はい。
 そしたら、バイト、あるけん。じゃ。」
雅也はお金を返し、帰っていく。

「あの頃に、僕らが見ていたものは、
 どんな風景だったのだろう。
 自分のこと、目先の課題をこなすことで精一杯。
 何一つ確かなもののない生活。
 けれど、
 きっとこの先は、今よりも少しはマシになっている
 はずだと、
 信じていた。」


オープン当日。
栄子は風に揺れる暖簾の『かっぱ』の文字に微笑む。

カウンターには栄子の得意料理が並べられている。
酒のケースを運ぶ時、首に違和感を感じそっと触れてみる栄子・・・。

「マー君、いよいよばい!」
「ちゃんと客は入るんかね。
 すぐ潰れるんじゃないと?」
「お客さん溢れて入れんようになるき。
 見とき!
 オカンの得意料理ばっかりやけね。
 漬物やろ、がめ煮やろ、水炊やろ、」
「はいはいはいはい。」
「柏飯に、からし蓮根に、おきゅうともあると!
 それからー、」
「切るよ。」
電話がガチャリと切られる。
「なんねー!」
そう言いながらも微笑む栄子。
電話を切ったあと、栄子はまた首のしこりに触れてみる。

「そんな生活の後ろで、
 確実に日めくりはめくられていた。」


雅也は大学で一緒だった友人たちと卒業以来一年ぶりに集まる。
「中川は今、何してんの?」友人が聞く。
「バイトと、家でイラストば書きおる。」
「イラスト!?」
「まあ、物になるかわからんけど。」
「そうなんだ!いいじゃん!」と鳴沢。

「いいじゃんって、いいのはナルじゃん!」
「そうだよ、雑誌の編集ってさ、やっぱ芸能人とかに会える!?」
友人たちが鳴沢に言う。
「まあ、インタビューとかでね。」と鳴沢。
「すげ!いいなー!」
「でも、仕事だから・・さ。」
「へー。」と雅也。

「あ、そうだ、中川。
 今度、イラスト売り込みしてみたら?」と鳴沢。
「売り込み!?」
「紹介するよ。女性誌やってる先輩が、丁度イラストレーター
 探してたから。」
「イラストレーター!?」雅也の瞳が輝く。

「ひさしぶりー!」
そこへまなみ(香椎由宇)が遅れてやって来た。

鳴沢とまなみの親しげな様子に、ビールをグっと空ける雅也。

鳴沢が職場に呼ばれて帰っていく。
店を出る前に、みんなの方を振り返り、
まなみと雅也を見つめる鳴沢。

飲み会の帰り道。雅也とまなみが並んで歩く。
「みんな頑張ってるんだね。」とまなみ。
「そうやね。」
「鳴沢君も忙しそうだし。」
「ナルとは、良く会うと?」
「たまーに。
 大学の後輩の企画展に顔を出したり。」
「ふーーん。そうね。」
「中川君は?最近どうしてたの?」
「バイトと、イラストレーターとか。」
「すごいね!絵続けてたんだ!」
「うん。
 まなみちゃん、写真続けておるんやろ?」
「うん・・・。
 でも、最近忙しくて目の前のことで精一杯。
 ・・・今度見せてね。」
「え!?」
「中川君のイラスト。」
「・・・うん。」

店で客に歌を披露する栄子。
メニューの字が味がありすぎて全然読めないと言う客たち。
「うちの子供でも、もちっとマシに書けるぞ! 
 誰が書いたと!?」
「わしや。
 なーんや、この字は。真面目くさってからに。
 堅苦しい字やの。」
兆治がやって来て、雅也の文字にけちをつける。

「私は好きやけど。」
「たわけ!」

兆治登場に、客らは逃げるように帰っていく。

「チビは・・何しよるんか?」
「一生懸命バイトしておるみたいよ。」
「おう。
 まあ、自由に遊びほうけてみて、わかったんやろ。
 どん底まで沈んでみんと、見えんこともあるけ。」
「なら、あとは上がるだけたい。」
二人が笑いあう。

エレベーターを上がっていく雅也。
鳴沢が雑誌編集者・河村由香(深浦加奈子)を雅也に紹介して
くれたのだ。
年季の入ったスケッチブックをパラパラとめくる編集者。
「あのー、どうですかね。」
「うんー?」
「ダメ・・・ですよね。」
「あー・・・」
「・・・帰ります。」
「いいじゃない。面白い!」
雅也のイラストを気に入った編集者は仕事を依頼してくれた。
雅也は『Woman Style』という月刊誌のコラムのイラストを
担当することになった。
「今月中に何パターンか、よろしくね!」
「はい!!」

=株式会社アップリングフォト=
夜遅くまで一人残って仕事を続けるまなみ。
ふと、机の中からフォトアルバムを取り出し、
東京タワーの写真を見つめる。

資料をそろえて、真剣にイラストに取り組む雅也。
雅也の真剣さに触発されて、耕平は徳本相手に部屋で格闘技の
練習を始める。
集中させてもらえず、おまけに邪魔までされて、
「せからしかーっ!!邪魔ったい!!」

オセロゲームを始める二人。

「あー!もう、描けん!!
 そげん上手いこと描けんばい!
 ・・・いや、描ける!
 俺なら描ける!!」

「だいぶ壊れてきたからね。」
「間違いない!」
耕平と徳本がヒソヒソ話。

「ん!?」雅也が睨みつける。

ヘッドホンをつけて集中しようとする雅也。
すると今度は、レオが女性二人に追われて逃げ込んできた。
「私とこの女のどっちを取るの!?」と迫られ、
「日本語・・わかんない。」とレオ。

「修羅場!?」耕平と徳本が笑う。

女性に突き飛ばされたレオが雅也にぶつかり、
描きかけのイラストにインクのボトルが倒れ・・・。

「うぅぅぅぅぅ!!
 お前らーーーっ 出ていけーーーっ
 みんな出ていけーーーっ!!」

雅也の部屋を追い出された公平が、栄子から電話を取る。
「バカボンかね?マー君おると?」
「あ、おばちゃん?
 今はいけん。
 今息子さん大変デリケートな時期ですけ。」
「どげんしたと!?」
「初めてのイラストの仕事ば頑張っておるんよ。」
「マー君、絵の仕事ばしおると!? 
 そう!!そうね!! 
 じゃ、オカンの店も順調やって伝えてね。」
嬉しそうに電話を切った栄子だったが、立ちくらみに倒れ・・・。

=宮西中央病院=
「貧血でしょう。
 あまり無理して働きすぎないように。」
医師の言葉にほっとする栄子。
「あ、先生!
 この辺りが、なんか、クリクリしよるんですけど。
 なんかばい菌でも入ったんですかね。」
栄子の首を触診する医師の顔色が変わる。

栄子が病室に呼ばれる。
「ここですね。
 甲状腺に腫瘍があります。」
「腫瘍?」
「先日行った、吸引細胞診の結果ですが、
 残念ながら、クラスⅤが出ました。」
「あの・・・」
「いわゆる、ガンです。」
「・・・・・ガン・・・」

イラストの作成に行き詰る雅也。

病院の帰り、栄子はショーウィンドウに映った自分の姿を
見つめ・・・無理に微笑む。

不安でいっぱいの栄子だが、店に客が来るといつものように
笑顔で応対。
客にせがまれ歌を歌う栄子。
医者の言葉が頭をよぎる。

「ガンです。
 幸い今なら、手術は可能です。
 ですが、声帯の方までガンが広がっています。
 声帯も含めた、摘出手術をお勧めします。」
「声帯・・・摘出?」
「ただ、その場合、声を出すことが困難になります。」
「それは・・・話せんっちゅう・・ことですか?」
「完治のためには他に方法はありません。
 決断は、お早めにお願いします。」

客を送り出したあと、暖簾の『かっぱ』の文字を見つめる栄子。

雅也が絵を書き上げる。

不安から雅也に電話をする栄子。
「マー君ね。」
「オカン?」
「どう?元気にしとう?」
「うん。」
「そうね。」
「どげんしたと?」
「あ・・・ああ、バカボンに聞いたばい。
 絵の仕事は順調なん?」
「うん。やっと書き終わったとこたい!
 これで俺も、イラストレーターばい。」
「イラストレーター!
 何に書きよると?」
「『ウーマンスタイル』っちゅう雑誌のイラストなんよ。」
「あ!その雑誌なら、オカン知っとう!
 すごかねー!
 本が出たらすぐに送るんよ。
 みんなに見せんといけんけ!
 おばちゃんにも、おじちゃんにも、オトンにも!」
「わかったけ!
 気が早か。」
「そうねー!雑誌の仕事ねー!
 そうねー!」
「オカン。用事は何ね?」
「・・・うん?」
「何か用事あったとやろ?」
「あれ・・忘れてしもた。」
「なんねー!
 あーあー、オカンももう年やね。」
「そうたい。年たい。」
「眠いけ、切るよ。」
「マー君、」
「うん?」
「・・・頑張りーよ。」
「うん。」
「・・・頑張るんよ。」
「わかったわかった。
 そしたらね。」
雅也が電話を切る。
結局、病気のことは話せなかった。

出版社。
自信あり気にイラストを担当者に見せる雅也。
「なんか思ってたのと違うな。」
「え!?」
「こういう誰かの真似事じゃなくて、
 もっとあなたらしいの期待してたんだけど、
 今回はちょっと考えさせてもらっていい?」

エレベーターを降りていく雅也。

「中川!」ロビーで鳴沢が声をかける。

「どう?紹介した仕事上手くいきそう?」
「全然ダメたい。」
「ま、誰でも最初からそんなに上手くいかないよ。
 地道に、コツコツ頑張ってみたら?」
「そげんこつ、わかっとうよ。
 ばってん、お前みたいに、最初から何でも持ってるやつに
 言われたくなか。」
「・・・・・」
「行くけん。」
「何でも持ってなんかいないよ。
 ・・・これ俺の仕事。
 うちの雑誌、一番後ろに載ってる風俗情報。
 毎日デスクに張り付いて、地味に紙面のチェックばっかりしてる。
 芸能人のインタビューなんて大嘘。
 やりたいことなんて何一つやれてない。
 絵で食っていきたいって思っていた頃もあるけど、
 そこまでの勇気も情熱もなかったし。
 結局全部中途半端。
 普通なんだよ、俺って。
 自分でも嫌になるくらい。
 俺だって、中川のこと、羨ましくなることだって
 あるんだよ。
 まなみちゃんにしたってさ。
 会えばお前の話ばっか。
 学生の頃からずっと。」
「・・・」
「じゃ、行くわ。
 仕事戻んないと。」
雅也は鳴沢の背中を見つめ・・・。

家に戻った雅也は、集めた資料を全部捨て、
オリジナルの絵を描き始める。
その顔には笑顔が浮かんでいた。

病院。
「お気持ちは固まりましたか?」医者が栄子に聞く。
「ええ。
 手術は、甲状腺だけでお願いします。
 声帯は取らんで下さい。」
「中川さん!」
「どうか、お願いいたします。」
そう言い微笑む栄子。

=香苗の店=
「なんばいいよっと!?」と香苗。
「声帯は取らんことにしたんよ。」
「ガンが出来とんのに、取らんって!」
「あんたとおしゃべり出来んようなるしね。」
「姉ちゃん!」
「十八番の歌も、歌えんようになるけ。」
「姉ちゃん!命に関わることなんやろ!?」
「ええんよ。」
「何でな・・・」
「声帯は取らん。
 もう決めたけ。」
「マー君には?まだ話しとらんと?」
「・・・マー君今、東京で始めて、
 好きな仕事頑張りおる。
 こげなことで水ば差したくなか。」
「こげなことって!」
「ええんよ。」

雅也のオリジナルのイラストを、編集長は気に入ってくれた。

店を暫く休む準備をする栄子。
暖簾とハッピ、それに壁に貼ったメニューを全て剥がし、
店を見渡す。
そして栄子は電話を見つめ・・・。

「あーーーっ!
 遅刻や!!」
アパートの部屋から飛び出す雅也。
その時、公衆電話が鳴る。
「はい!」
「マー君?」香苗だ。
「おばちゃん!?」
「あんたに、話したいことがあるんよ。」
「今じゃないといけんと?急いでるんよ。」
「大事な話なんよ。」
「こっちも大事ったい!
 ごめん!
 あとで絶対かけるけん!」
雅也は電話を切ってしまう。

入院の案内書をバッグを手に、一人病院に向う栄子。

雅也が喫茶店に駆け込む。
店の奥にはまなみの姿があった。
「ごめん!!」
まなみが微笑む。
「せっかくの、休みに悪かね。」
「ううん。用って?」
「約束、してたけん。」
「約束?」
「イラスト、見せるって。」
雅也はそう言い、雑誌を渡す。

雅也のイラストに微笑むまさみ。
「可愛い!
 ・・・中川君らしい。
 頑張ってんだね。」
「め・・・飯!
 飯でも、どう?」
まさみが笑う。
「ご馳走してくれるの?」
「うん!もちろん!」

まさみが雅也を連れて行った場所は、ラーメン屋。
「本当に、ここでいいと?」
「ここのラーメンすっごい美味しいんだよ!」

カウンターに並んで、美味しそうにラーメンを食べる二人。

病院の廊下を歩く栄子。

食事を終えた二人。
「楽しかったね。」
「俺も、楽しかったけ。」
「今日はありがとう。」
突然カバンからカメラを取り出すまさみ。
前方に見える東京タワーをカメラに納める。
「登ったことある?」
「なか。」
「私も。
 登ってみようか?」
「・・・うん!」

東京タワーに向う途中、公衆電話を見つけた雅也。
「ごめん、ちょっとだけ待っとって。」
そう言い香苗に電話をかける。
「マー君!何しとった!」
「どうした!?」
「姉ちゃんね、今、病院行っておるんよ。」
「病院!?」

病院の売店で雅也のイラストが掲載された雑誌を見かけた栄子。

「マー君、姉ちゃんね、」
「うん・・・」
「・・・ガンに、なったんよ。」
「・・・・・
「オカンは、大丈夫なん?」
「声帯のガンば、取らんっち言いよる。」

雑誌のページをめくり、雅也のイラストを見つけると
栄子は嬉しそうに微笑み・・・
そして、近くにいた人達に語りかける。
「あの、あの、これ・・・
 息子が描いた絵なんです。
 これね、筑豊でも東京でも、日本中で売ってる雑誌なんです!
 これ、こげん立派な雑誌に、うちの息子の絵が載ってるんです。
 マー君の名前が載ってるんです!」
「立派な息子さんやね。」周りの人が一緒に喜んでくれた。
「自慢の息子たい!」

雅也がアパートに戻ると、丁度又電話が鳴る。
「・・・はい。」
「マー君!?
 おめでとう!見たよ、マー君のイラスト!
 すごかねー!!
 マー君、本当に、イラストレーサーさんになったね!」
何冊もの雑誌を抱えながら受話器を握り締める栄子。
電話の横にもいっぱい雑誌が積んである。
「オカン・・・。」
「この雑誌、宝物にするけんね。」
「オカン!」
「お店にあったの、全部買うてしもうた。
 おばちゃんにも見せんといけんけ、
 だから、何冊から送ってくれんね?」
「オカン!!」
「うん?」
「今どこにおる。」
「・・・今ね・・」
「おばちゃんに聞いたと。
 何で黙っておった!
 俺、そげん頼りなかと!?
 借金も返し終わった。
 水道も、電気もガスもつながっとう。
 家賃も滞納しとらん!
 いつまでも子供じゃないんよ!」
「そうね。
 もう大きくなったのね。」そう言い笑う栄子。
「笑い事じゃなか!
 手術のこと、聞いたけ・・。
 難しいこと、わからんばってん・・・」
「もう、決めたことたい。」
「ちゃんっと考えな。」
「ちゃんっと考えたと。」
「だったら!」
「・・・話せんようになるけん。
 マー君とこれから、電話で話せんようになったら困るけんね。」
「・・・」
「心配せんでよか。
 オカン、ガンぐらいで死にゃーせんよ。
 あんたはそっちで、仕事ば、しっかり頑張り。」
栄子はそう言い電話を切った。
「オカン!!」

部屋に入ると急いで荷物をまとめ、雅也は部屋を飛び出していく。
「先輩!?」

「やっと三度の飯が食えるようになったときには、
 もう次の課題が待っていた。」


看護師に、雅也の自慢をする栄子。

「今度の課題は大きく難しい。
 いや・・・何よりも・・・苦しい。」

東京タワーに背を向けて走る雅也・・・。