白夜行 第五話

『決別する二人』

「11歳の時、俺たちは出会った。
 俺は雪穂を守るため、父親を殺した。
 その俺を庇うため、雪穂は母親を殺した。
 俺たちは、その罪を隠すため、他人でいることを約束し、
 別れた。
 だけど、7年後、俺たちは再会し、
 いつの日かもう一度、二人で太陽の下を歩くことを約束した。
 それは、罪に罪を重ねて、生きていく方法しかなかったんだ。
 崩れ始める、二人の絆・・・。」


1999年冬
亮司(山田孝之)は雪穂(綾瀬はるか)とベッドを共にしながら、
窓の外の雨を見つめていた。父親が雪穂にしたことを思い出していたのだ。
「昔のこと、思い出したんだ。」雪穂がそれに気付く。
「うん・・・。」
「そっか。」
雪穂はそう言うと浴室にこもり、彼女もまた昔の辛い出来事を思い起こす。

ベッドに一人になった亮司は、テーブルに積み上げられた大金を見つめながら
考える。
「雪穂がもう二度と、手を汚さなくてもすむように」と約束したこと。
そして雪穂と篠塚(柏原崇)の2ショット。
嫉妬する自分。

「何やってんだろ・・・俺・・・。」

「あいつといる方が幸せになれるのは、誰の目にも明らかだ。」


篠塚と相合傘で歩く江利子(大塚ちひろ)。
「雪穂ならカレシはいませんよ。」
「ん?」
「へっ?これって、雪穂に取り次げって話ですよね。」
「唐沢好きな人がいるって言ってたよ。」穏やかに微笑む篠塚。
「そうなんですか?」
「あれ?友達じゃなかったっけー。」
「私はそのつもりです!」
江利子は雨に濡れた妊婦に気付く。

亮司は金をカバンに詰めたあと、雪穂が持っていた篠塚の本
『GONE WITH THE WIND』を見つめる。
シャワーを浴びた雪穂は部屋に戻り、亮司の見ているものに気付く。
「捨てちゃって、それ。 
 会わなきゃ忘れられると思うし、私、どうかしてた。」と雪穂。
「いいよ忘れなくて。」
「え・・・」
「ごめんな、こんなことさせて。」
「ちょっと待って。」
「雪穂が幸せじゃないと、俺が死んだ意味ないんだよ。
 まあ・・・がんばって。」
そう言い亮司は雪穂を部屋に残し、ホテルの部屋を出ていった。

名古屋の警察に連絡した笹垣潤三(武田鉄矢)は、キャッシュカードを使い
金を引き出したのは、カードについていた指紋、着ていた服装などから
西口奈美江(奥貫薫)本人で間違いないと告げられる。

「雪穂の為というのなら、身を引く以外に道はなかった。」

「榎本さんから、お話伺いまして。」
亮司は自分の部屋の前に立つ男にそう声をかけられる。

「俺はもう、完全に日の当たらない世界にいたんだから・・・。」

笹垣はお経の本に挟まれた一枚の古い写真を取り出し、優しい目で見つめる。
小学生ぐらいの少女の写真。裏には1984年12月15日と書かれている。
「命日か・・・。」

雪穂が図書館で『GONE WITH THE WIND』を読んでいると、
「よく読めるねー。そんなの!」
谷口真文(余 貴美子)が感心しながら覗き込んできた。
雪穂は谷口の左手薬指に指輪があることに気付き聞いてみる。
「あの、結婚してから、他に好きな人が出来たことってあります?
 友達がどうも、彼の他に好きな人が出来たようで・・・。」
「友達・・・。」
「だけど、彼のことを嫌いになったわけじゃないし。」
「私もさ、隣んちの息子にドキドキ!」
「え!?」
「当たり前じゃない?10年も20年も同じ気持ちでいられるほうが珍しいよ。
 ただね・・・。」
谷口はスタッフに呼ばれ戻っていく。
「ただ、なに?」雪穂が呟いた。

ただ、何!?私も気になる。(笑)
でも谷口さん、隣の家の息子って、年の差いくつだ!?(笑)
雪穂は亮司と篠塚の間で真剣に悩んでいるんですね。
彼女の本心に少し安心しました。


亮司は開発者が突然亡くなってしまったゲームの設計図の続きを作らないかと
榎本(的場浩司)から依頼を受ける。
あの榎本とつながっていたことに驚く園村友彦(小出恵介)。
「お前なんで榎本とつるんでんだよ!?」
「詳しく説明しようか。」
「・・・いや、想像しておく。」
「ふーん。賢くなったな、お前。」
彼らの過ごす部屋には、奈美江が持ってきた観葉植物が光を浴びていた。

「なあ、雪穂・・・
 知ってる?
 地球からは月の裏側は見えないんだ。
 輝くその川の裏側がどうなっているのか、
 俺たちは見ることは出来ない。
 ちょっと違うか。
 写真でなら見れるんだから。
 俺は、素人しなかっただけなのかもしれないな。
 月の裏側、隠されていたあなたの姿を。」


雪穂は篠塚に会えることを期待して、彼が本を読んでいた喫茶店で
待っていた。
彼の会社の電話番号を調べようとしたところへ、篠塚がやってくる。
「この間、悪かったな。
 ついつい、勝負しているような気になっちゃってさ。」
「私もです。
 篠塚さんは、今日はお仕事の途中ですか?」
「まぁ・・・そうなんだけど。」
そこへ江利子がやって来た。篠塚と待ち合わせしていたのだ。
「え・・・もしかして。」
「唐沢に、言ってなかったの?」篠塚が江利子に聞く。
「言おうと思ったんだって。でも、部長のことがあるし、
 雪穂もやり辛いだろうな・・・って。」
「ありがと!気遣ってもらっちゃって。」笑顔を見せる雪穂。
「でも、雪穂だって言わなかったくせに。
 好きな人いるんでしょ?」
「嘘だって。あんまり篠塚さんが失礼なこと言うから。」
「え。嘘なの?」
「私に負けたってことですよ。」雪穂が微笑む。

二人仲良く並んで帰る姿を、雪穂は嫉妬の眼差しで見つめていた・・・。

友彦は松浦 勇(渡部篤郎)に、亮司が無理やり仕事に没頭しているようだと
心配そうに相談する。
「仕事って?相変わらずカードやってんの?」
「いや。ゲーム作ってんですよ。榎本からの仕事みたいで。」
「なんだよそれ!俺通してないってどういうことだよ!」
松浦が友彦に掴みかかる。

家で花を生けていても、押さえられない嫉妬心・・・。
そこへ、 礼子(八千草 薫)が帰ってきた。
施設で花を教えてきた礼子は、そこの子供に手を怪我をさせられていた。
「他に、当たるところなかったんやろ。
 あんたもたまには、私に当たったってかまへんのよ。」
不満などない、と言う雪穂に、
「ほんまかいな。私なんて不満だらけや。
 白髪が増えたな、とか、
 今日は何でこんなに寒いんやろ、とか。
 チョーむかつく。」と礼子。
「どこでそんな言葉覚えてきたのよ。」
「うっせーんだよ、ババァ。ちょームカツク!」
「ご飯温めてくるね。」
礼子はだいどころに立つ雪穂の背中を見つめ・・・。

松浦が亮司の部屋の怒鳴り込んできた。
自分を通さずに仕事をすることに怒りまくる松浦。
「あとで言うつもりだったんだ。」仕事を続けながら亮司が返事する。
「電話一本で済む話だろうが!」
「松浦さんより俺のこと信用しているみたいだよ、榎本。」
「・・・脅しか、それ。
 俺とお前が、イーブンとでも言いたいわけ?
 ふーーーん。あ、そう。
 あとで後悔すんなよ、お前。」
『風と共に去りぬ』を見つめながらそう言い捨て、松浦は出ていった。

「応援するしかないよな・・・。」
親友との2ショット写真を見つめ、雪穂はそう呟いた。

笹垣が礼子を訪ねていく。
「今日は、ちーと、別の話で・・・。」
笹垣はそう言い
「娘さんですか?」
「私昔、ある男を、殺人犯で逮捕したことがありまして。
 その男の子供ですわ。
 昨日が、命日だったものですから。」
「亡くならはったんですか?」
「・・・自殺です。
 親の罪、苦にして。
 それで、雪穂さんのことを思い出したんですわ。」
「なんで又・・・あの子のことを。」
「あの子、よう似とったんですわ。雪穂さんに。
 強い子で、いじめなんかには負けへん。
 せやけどある日突然、自殺してしもうた。
 抱え込んどったん、耐え切れんようになってしまったんですなぁ・・・。
 まあ、私が、殺したようなもんですわ。」
そう言いハンカチで顔を覆う笹垣。
「せやから、雪穂さんには、幸せに、なってほしいんですわ。
 おせっかいは、承知の上なんですが、
 心の傷の為にも・・・」
そう言い笹垣は『メンタルケアカウンセリング』のパンフレットを差し出す。

俯いた時の笹垣の表情・・・あれは嘘泣き?

「それで、催眠療法を薦めたんですか?」
笹垣の部下・古賀(田中幸太朗)が尋ねる。
「まあ、受けへんやろうけどな。
 親切面でどうですかって又話聞きにもいけるし、
 何か出てきたらめっけもんや。」と笹垣。
「ほんとに傷ついてるのかと思いましたよ、その子の事。」
「あいつら、取り逃がしてしもうたら、それこそこの子、犬死にやんけ。」

この少女、本当は誰?
1984年12月15日に小学生ぐらい。
雪穂たちは1980年生まれ。雪穂たちより少し年上?


笹垣は同僚たちのキャッシュカードの偽造の話に
「カードが二枚だったら」と興味を示す。

ソシアルダンス部の練習を終え帰ろうとする雪穂は、部長に部費の管理を
押し付けられる江利子に気付く。
「言っとくけど!遊ばれて捨てられるのが関の山だよ。」
そう言い立ち去る部長。
雪穂はため息をつく江利子から書類を受け取り、
「約束あるんでしょ。私やっておくから、行きなよ。」と微笑んだ。

大都銀行の偽装カード被害を伝えるニュースが新聞に掲載される。
友彦は慌てるが亮司は
「ここまではたどり着かねーよ。」と動じない。
「見つかったらどうすんだよ!」
「逃げるしかねーだろ。お前アホか。」
友彦の不安はいっそう募る。
「お前のさ、信じてるものって何?
 奈美江さんが言ってたんだよ。
 お前には、信じられる希望みたいなものがあって、
 だから強いんじゃないかって。」

「もう一回、太陽の下で、亮君と歩くんだよ。」
窓の外の光を見つめながら、雪穂の言葉を思い起こす亮司。
「なればいいな。すごく・・・。」
友彦は亮司の顔を心配そうに見つめていた。

「いいな・・・江利子・・・。」
ノートを付け終わったあと、雪穂は篠塚が書いた壁の落書きを見つめて
そう呟いた。
その時、雪穂の携帯が鳴る。

篠塚、江利子に呼び出された雪穂。
「悪いな、唐沢。倉橋部長のフォローまで。」
「いえ。篠塚さんの為じゃないですから。江利子の為ですから。」
「ホント仲いいんだな。全然似てないのにさ。」
「二人は似てる!
 すぐ人のことをからかうところとか、人の揚げ足とるところとか。」
江利子がそう言う。
「それ誉めてんの?」雪穂が笑う。
「誉めてるよ、すっごい!
 私なんて全然そういうことできないもん。
 思ったまんましか言えないし。
 全部顔に出ちゃうし。」
「それが江利子のいいとこじゃない。」と雪穂。
「贅沢だよな、江利子は。
 それがどれだけ幸せなことか、わかてないんだよ。
 俺はね、窮屈な子供だったの。 
 回りに気遣って、人の顔色伺って。
 子供っぽいことするなーって、子供なのにさ。
 あ、もしかして、唐沢もそうだった?」
雪穂を見つめる江利子。かつて苛められていた雪穂を思い浮かべ・・・。
「別に私はそんな、」否定する雪穂。
「篠塚さん、空いた!」雪穂の言葉を遮り、グラスを差し出す江利子。
江利子に微笑まれ、雪穂は微笑みを返したものの、スカートをぎゅっと
握り締めた。

多分江利子は、話の流れを変えようとしてくれたのでしょう。
でも雪穂はそれも疎ましかったようで・・・。


帰り道。酔ってベンチで眠る江利子。
「遊びじゃないんですよね、江利子のこと。
 部長がそんなこと言ってたから。」
「雨の日にね、江利子に半分、かさ貸したんだよ。
 そしたらいきなりさ、雨宿りしている妊婦さんに代わられて、
 なんか、ターっと走っていっちゃって。
 それがもう、本当に自然でさ。
 そういう真っ直ぐさって、お金では買えないだろ?
 答えになってない?」
「いいえ。いろいろご馳走様でした。」
雪穂は笑顔でそう言い篠塚に背を向けた。

タクシーに乗った二人に手を振り見送る雪穂。
その表情はだんだんとこわばり・・・。

雪穂は亮司を訪ねていく。
「何?大事な話って。」
「上手くいかなかったんだ。篠塚さん。
 私の友達の、川島江利子っていう子と付き合い始めた。」
「そう・・・。で、どうすればいいの?
 俺はここで愚痴聞けばいいの?
 あんまり冷静でもいられないんだけど。」
「・・・やっちゃってくれないかな。」
「え?」
「その子、藤村美和子と同じ目に遭わせてくれないかな。」
「え・・・その子が襲われてどうなる?
 篠塚が雪穂に転ぶってことじゃないよな。」
「もう篠塚なんてどうでもいい。
 ただ・・・その子を不幸にしてほしいの。」
「冗談だろ。」
「だって、篠塚さんがその子を選んだ理由って、
 ただ幸せに育って、だから性格がいいってだけなんだよ。
 そんな環境で育ってたら、私だってそうなってるよ!
 あんな親の子に生まれたの、私のせいじゃないじゃない!
 ほんと、幸せなんだよ、その子。
 思ったこと思うように言えて、
 しかも、それがすごく幸せなことだと、思ってもいないんだよ!
 気付かないほど幸せなんだよ!
 こんなの、どう考えたって不公平じゃない!
 ねえ、亮だってそう思うことあるでしょう?」
「ねーよ!
 思ったとしても、わざわざ人の幸せ壊してやろうなんて
 思わねーよ。
 本気で思ってるんだったら、病院に行った方がいいよ。」
そう言い亮司はパソコンに向う。

「ねえ、本当にそう思うことない?」
「ねーよ!」
「本当に?」
「しつこな、ねーよ!」
亮司は雪穂の方を怒ったように振り返ると、今にも泣き出しそうなほど
悲しい表情で自分を見つめる雪穂と目が合う。
「そっか。」
小さく微笑みながらそう言うと、雪穂は部屋を出ていった。

礼子は家に戻ってきた雪穂が、ユリの花を掌で握りつぶすところを
見てしまう。

古賀刑事は亮司の母・弥生子(麻生祐未)を訪ねていく。
「笹垣のノートのコピーです。
 あなたから聞いた、亮司君のことが書いてあります。
 あなたの知らない、亮司君の犯罪行為が。」
「え!?」
「全てが事実というわけではないと思います。」
「そんなもの、どうして私に?」
「考えていただきたいんです、親として。
 こんな生き方が、亮司君にとって本当に幸せなことなのか。」
「大体あの子もう、死んでいるんですよ。」
「とにかく、読んで下さい。」

雪穂の叫びを思い起こす亮司。向かいに座る友彦に聞いてみる。
「お前さ、世の中って圧倒的に不公平だって思ったことある?」
「メチャメチャあるよ。
 だってさ、俺、すっげー腹緩いもん。」
「なんだそれ。」思わず亮司が笑う。
「もうさ、あ!!っと思ったら、突然・・・
 間に合わなくて、何度泣きを見たことか!
 中学の頃なんかさ、相当暗かったよ。家でも荒れててさ。
 こんな、ウンコ出やすい身体に生みやがってー!」
「ごめん、笑っちゃいけねーか。」
「いいよ。俺的にも今やネタだし。
 暗く悩んでても仕方ないしな。
 合コンでさ、意外とつかめるんだよ、これ。」友彦が笑う。
「お前俺なんかよりよっぽど強いよ。」
亮司が静かにそう言った。

友彦がトイレによく駆け込むシーンはこのせいだったんですね。(笑)

礼子は笹垣が置いていったパンフレットを雪穂に渡す。
「これ、私がどこか変ってこと?」
「心配ないとは、言えへんかもな。」
礼子はそう言い、雪穂が握りつぶした百合の茎を見つめる。
「あれは、虫がいたから。」雪穂が笑顔で言う。
「しんどいことないの?
 そないに嘘ばっかりつくのは。」
「嘘なんかついてないって。」
「ほな、あんた、ほんまのお母さんのことどないに思ってるの?」
「・・・辛い目にもあったけど、生んでくれて感謝してるよ。」
「用意されたみたいな答えやと思うのは、私の思い込みか?」
「そうだよ。」
「それがあんたの心の傷やわ!
 ほんまは誰のことも信じてへん。
 誰にも、心の内を見せる勇気がないんや!
 それも私の思い込みやろうけどな!」
礼子はそう言い部屋を立ち去る。

「そんなもん見せたって・・・」
そう呟きながら、亮司の言った
『わざわざ人の幸せ壊してやろうなんて思わねーよ。
 本気で思ってるんだったら、病院行ったほうがいいよ。』
という言葉を思い出す雪穂。

その時、電話がかかってきた。公衆電話からだ。
「松浦と申しますが・・・」

亮司が雪穂の留守電にメッセージを残す。
「あの・・・俺です。
 雪穂が言ってたように、子供が親を選べないのは、
 不公平な話だと思う。
 俺だってあの家に生まれたかったわけじゃないし、
 雪穂の気持ち、他のヤツラより理解出来る。
 でも、でも、理解は出来ても、やっぱり賛成はできない。
 今日ね、自分のどうでも出来ない悩みを笑いのネタにしているヤツの
 話を聞いたよ。
 俺、強いなって思った。
 笑い飛ばせとは言わないけど、不幸を振りかざしても仕方ないし、
 やったとしても、結局、雪穂は後悔するだけじゃない?
 落ち着いたら、電話下さい。」

雪穂は爪を噛みながらそのメッセージを聞いていた。

松浦は雪穂を呼び出し、封筒を手渡す。
「あれ、見ないの?」
「見ないでもわかりますから。
 昔の写真ですよね。」
「話が早くて嬉しいわ。
 あんたさ、今いくら持ってるの? 
 どうせ亮、あんたに金振り込んでたんだろ?」
「ちょっと、携帯貸してもらえます?」

亮司の携帯が鳴る。表示は松浦だ。
「留守電聞いた。」雪穂の声に驚く亮司。
「なんで松浦の携帯に、」
「あなたじゃなかったんだなーって思った。
 組むべき相手は、あなたじゃなかったってこと。」
雪穂はそう言いながら松浦を見つめる。
「さよなら。今までありがとね。」
雪穂はそう言い携帯を切った。亮司が部屋を飛び出す。

「何あんた、俺と組もうっちゅーの?」
「私とあなたで、亮をカモる方法って、ないのかな。」
雪穂はそう言い、松浦の足に触れる。
「あんた最悪のガキだね。」松浦が笑いながらそう言った。

亮司が松浦行きつけのヤキトリ屋に駆けつけるが、二人はもうそこには
いなかった。
店の者に、いつもの感じで女と出て行った、と聞き、亮司は又走り出す。

あるホテルの部屋に入ろうとする二人。
「おい!何やってるんだよ!」亮司が二人に声をかける。
「悪いけどね、誘ったの、俺じゃないよ。」
松浦はそう言い部屋の中に消えていく。
「マジかよ・・・何で?
 俺がやんないって言ったからかよ!?」
雪穂が微笑む。
「亮は正しい。」
「だったらさ、」
「でも正しいことなんて言われなくてもわかってんだよっ。
 それでもやってほしいの、私は。どうしても。」
「・・・」
「亮には理解出来ないでしょ。」
そう言い雪穂は松浦の待つ部屋へ入っていった。

ホテルの部屋の前に座り込み待つ亮司。
405号室のドアが開き、松浦が出てきた。
「亮!何やってんだ、お前。
 なんか、途中から泣き出しやがってよ。
 なんかメンドクセーな。」
そう言い松浦は帰っていった。

部屋にいくと、浴衣に着替えた雪穂がベッドに座り封筒を見つめていた。
「帰ろう・・・雪穂。」
「これ見て!」雪穂が封筒を差し出す。
封筒から写真を取り出した亮司は、あの時の雪穂の写真に驚き床に落とす。
父親に裸にされカメラを見つめる雪穂の写真が、自分を見つめている。
「見てよ!ちゃんと見なさいよ!私がされてきたことを!
 亮が知ってるのなんてね、序の口なんだからね!
 私、間違ってるんだよね!
 不公平だって思っているのは間違っているんだよね!
 人の幸せを、壊してやろうって思っているのは、間違っているんだよね!
 これ笑えるようにならなきゃいけなんだよね!
 みんなそうやって頑張ってるから、私もそうやって頑張んなきゃ
 いけないんだよね!
 亮は私にそう言ってるんだよね!」
そう言い、泣きながら写真を亮司にぶつけていく雪穂。
写真と言葉を投げつけられ、亮司も泣いていた。
「・・・言われたくなかった。
 亮だけには言われたくなかった!!」
亮司は雪穂から写真を奪い取る。
「やってやるよ!
 雪穂の人生、ボロボロにしたの、
 俺と・・・俺の親父だから・・・。」
亮司はそう言い写真を握りつぶした。

「お母さん、私出ていくよ。」
「雪穂!」
「私、お母さんが自慢出来る子になろうって、
 頑張ってきたんだよ。
 でも、それがお母さんを悩ませるなら、
 もうどうしたらいいかわかんないよ。」
礼子は雪穂を抱きしめる。
「違うんや。もっと楽になったらええ思うて。
 堪忍な。」
雪穂の瞳から涙がこぼれる。

でもその表情からは、その言葉を待っていたかのようにも見え・・・。

一人で夜道を歩く江利子は突然拉致される。
抵抗するものの、薬で眠らせ・・・。
夜道に落ちた携帯が、篠塚からの着信を知らせていた。

亮司は雪穂が破壊した教会の前にいた。
今までしてきたことを思い起こし・・・
「いつもこうなっちゃうんだよな・・・。」と呟いた。
教会の上には、満月が輝いていた。

篠塚の車の中。
「警察には?」篠塚が雪穂に聞く。
「いえ。」
「家にも俺んとこにも、この写真が送られてきたっていうことは、
 犯人は通りすがりじゃないよ。」
「きっと、そうなんでしょうね。」
「俺は、警察に届ける。この写真だけで充分、」
「やめて下さい!
 届けないのは江利子やご両親の希望なんです!」
「だからって・・・放っておけるわけないだろう!!」
篠塚の剣幕に驚く雪穂。
「・・・江利子は・・・篠塚さんの家に行くところだったんですよっ!
 江利子や、江利子のご両親にしたら、
 篠塚さんだけには何も言われたくないと思います。
 今は・・・」そう言い涙をこぼす雪穂。
「楽しかったです。今までありがとうございました。
 江利子からの伝言です。」
雪穂はそう言い篠塚の車から降りた。

川に篠塚の本を投げ入れる雪穂。
ゆっくりと底へ沈んでいく本を見つめ・・・
『結局、雪穂は後悔するだけじゃない?』
亮司の言った言葉を思い起こす。

携帯が鳴る。公衆電話からの着信だった。

古賀のアパートで鍋を突く笹垣。
キャッシュカードから亮司たちにたどり着くことは出来なかった。
礼子にも、もう来るなとやんわり断られた。
「笹垣さんのノート、桐原弥生子に見せました。」
「なにをすんねん!」
「桐原弥生子の親心に賭けてみようと思ったんです。」
「あんな女に親心なんか、良心なんかあるかいや!」
「親心は良心なんかじゃないですよ。
 自分の子供だけはかわいいって思う、本能みたいなもんですよ。」
古賀の妻が笹垣にビールを注ぎながら言う。
古賀は隣の部屋でぐっすりと眠る息子を見つめ微笑んだ。
「念仏申せば八十億劫の罪滅す。」
古賀の微笑みに笹垣が呟く。

雪穂が亮司に呼び出される。
「話って、何?」
「わざわざ松浦の携帯から電話してきたのは
 会っている相手が松浦だって俺に知らせるためだよね?
 そうすれば俺が来るって思ったんでしょ?
 松浦と寝ようとしたのも途中で泣き出したのも
 そのあと写真見せたのも、
 全部そうすれば俺が言うこと聞くと思ったから?」
「言うこと聞いてくれること、全然期待していないって言ったら
 嘘になる。
 だけど、完全に計算ずくの芝居かって言われたら、違う。
 他の人にするものとは全然違う。」
「どう違うの?」
「亮にはわかってほしいと思ってる。
 他の人にはわかってくれとは思わない。
 私の都合のいいように転がってくれてれば、それでいい。」
「・・・それおんなじだよ。」
「違うよ!」
「相手の気持ちはどうでもいいってことは結局同じなんだよ!」
「・・・でも、私には亮しかいないんだよ。」
「そりゃこんだけ言うこと聞くヤツは他にいないしな。」
「亮に見捨てられたら、私、ホント一人ぼっちなんだよ。」
「もう何言われても、俺騙されてるようにしか、 
 思えなくなっちゃったんだよ。
 ・・・信じられないんだよ、雪穂のこと。」
「・・・なら、私も言わせてもらうけど、
 全部計算だったからって何なの?
 自首しないって決めたのも、死んだのも、強姦だって、
 最終的に決めたのはアンタでしょう!?
 あのオヤジだって、私が殺してって頼んだわけじゃない。悪いけど。」
雪穂はそう言いドアへと向う。
雪穂の言葉に呆然と立ち尽くす亮。
「亮。
 騙される方がバカなのよ。」
微笑みを浮かべて雪穂がそう言う。
亮司は奈美江が持ってきた観葉植物を手に取り、雪穂目がけて投げつけた。
そして、怒りに満ちた目で雪穂を見つめる。
「じゃあ。」
そう言い雪穂は部屋を出ていった。

「なぁ・・・雪穂。
 月の裏側には、一筋の光もなかったよ。
 ひとかけらの優しさも、ぬくもりも、美しさもなかった。
 だけど、なぁ、雪穂。
 俺を傷つけて去ることが、あなたのやり方だったこと、
 いつの日も変わらない、あなたの優しさだったこと、
 あのむちゃくちゃなわがままだって、 
 一度でいいから幸せな子供のように甘やかされたかっただけなんだって、
 今なら・・・ちゃんとわかるんだけどな・・・。」


亮司の家からの帰り道、泣きながら歩く雪穂が呟く。
「ごめんね・・・亮・・・。」
その場に座り込み、雪穂が泣き続ける。


「ごめんな・・・。」
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