先ごろ行われた選抜高校野球選手権大会、いわゆる低反発バットといわれる、打球の反発力が木のバットに近いくらい弱まったとされる金属バットを使用することになったが、これが災いしてか、ホームランは3本、そのうちの1本はランニングホームランであるので、オーバーフェンスのものは実質2本のみにとどまった。ところが残念ながら不適格な従来型といえる飛ぶバット・約3300本が流通していたことが分かった。

 

高校野球も、実は元々は木のバットを使用していたが、1974年、金属バットが採用された際の経緯は、木製よりも耐久性がすぐれ、かつ石油ショックによる木材の枯渇と資源保護という狙いがあったとされる。当時の日本の野球は、国際基準の両翼97mよりも短い90m台前半の狭い球場が多かった。「野球はホームランが花」というイメージが強かったからのと、日本の野球場文化が高揚したものの、十分な国際基準に充足した土地が取れないため、あえて、ホームランを出しやすくしようとする意図があったのかもしれない。甲子園もグラウンドが両翼推定108m(後にせり出しているため、現在は95m)、左中間・右中間は110mほどあったことから、ホームランが出にくいという理由で、ホームランを出しやすくという狙いで仮設のラッキーゾーンを設置していた時代でもあったので、いわゆるスタンド入りはもっと少なかったものと思われる。

 

しかし、野球の国際化、特に1992年バルセロナ以後、五輪の公式種目化や、世界規模の選手権(現在のWBCやプレミア12など)が行われるようになったことから、日本独自のホームランの出しやすい球場から、国際的に広い球場に対応する改修が進むとともに、ホームランよりも2・3塁打といった攻撃的な得点シーンが増えたことが事実として伺える。現存12球団の本拠地で最も狭い横浜スタジアムでも94m、甲子園が95mだが、ハマスタ完成時(1978年)は、当時としては最も広い部類、しかも4mもの高いフェンスがホームランバッターを遮る敵になっている。甲子園もラッキーゾーンが撤去後、左中間・右中間が本来のふくらみに戻ったため、ホームランよりも2・3塁打が増えていることは事実だといえる。

 

ただ、東京ドームが相変わらずホームランが出やすいという問題がある。元々両翼100mあるが、他のスポーツにも対応できるようにした多目的球場の作りであるが故、左中間・右中間はフラットで、推定105-106mくらいしかないと思われることや、エアドームであるので、空気の抵抗でホームランが出やすいという問題もある。それが故、特に巨人軍の選手が極端にホームランが出やすいという現状があるのかもしれない。

 

ボール自体も、低反発ボールが採用されたものの、2011-12年に実際はもう少し反発係数の高いボールが使用されていたということが問題になっていた。日本の場合はNPB仕様の公式球が複数メーカーの製造になっていることもあるが、アメリカのMLBや国際大会仕様であれば、野球用品の老舗・ローリングスのものしか許可されていない。それが故、公平性は保たれている。

 

ホームランが減るのは仕方がない。現にフジテレビONEの深夜の国民的行事「プロ野球ニュース」では、エンディングにその日の全ホームランを再生し、野球愛好家や指導者にも打撃フォームの確認などに役立てられていると推薦を受けているほどの人気だが、ここ数年はホームランが1日1ケタ台となるケースも少なくはないので、ホームランを楽しみにするファンは物足りなさが残るのかもしれないが、世界と野球で互角に戦うという点を考えたとき、ホームラン狙いではなくより攻撃的な試合へのアップデートを図ることが必要だと思う。

 

それゆえ、高校野球においても金属バットの使用を見直す時期に来ているのではないか。練習用の使用という点で金属バットを使うのは問題はないとしても、森林保護、とりわけ間伐をしないと、山林の樹木育成に支障をきたすばかりか、土砂災害の拡大にもつながりかねず、現に日本ではあまりないが、欧米では山火事が発生したりする。そのため、森林保護と間伐材の活用という点を考えると、(アオダモなど一般的なバットに適した木材に限らないが)木のバットを極力使えるように、高野連も働きかけるべきだと思うし、より攻撃的なプレーを推進し、世界基準を高校生の段階から、あるいはもっといえばリトルリーグなどの世代からでもよいから取り組むべきではないかと思う。

 

(追記)

日本高野連はこの夏の全国高校野球選手権大会で、試験的にではあるが、1日3試合日(通常は1・5・9日目だが、今年に限っては序盤3日間連続)に2部制を導入することが決まった。具体的には、初日の開会式を8時半に行い、その後1試合だけ(10時)午前中に行った後、第2試合は薄暮(16時)、第3試合はナイター(原則18時半)、2・3日目は第1・2試合をそれぞれ8時・原則10時35分に行った後、第3試合を17時からの薄暮開催とするという。4日目以後は4試合日が続くことになるのが課題だが、まずは完全2部制へ向けた一歩として評価したい。

 

僕としては、1日3試合開催日を増やし(1・2回戦は4試合日が計6日間あるが、それを3試合にすれば、2日間は延長でき、選手の健康管理の改善につながる。ただ、タイガースとの前倒し、または後ろ倒しの日程調整は必要だが)、今回に近い形の2部制導入や、準々決勝までは地方大会で導入されている得点差コールド制(5・6回10点、7・8回7点)、もしくは試合時間短縮目的であらかじめ基準7回、タイブレークは8回以後・最大12回まで。12回終了時同点の場合は抽選とするルールを設けるべきと考える。長時間の延長による選手の疲労困憊や、継続試合のリスクを減らすことも含めて検討いただきたい。