坂村氏の提唱する「どこでもコンピュータ」とは「未来のコンピュータはどんどん小さくなり、あらゆる『モノ』のなかに入り込んでくる。そして相互にネットワーク化され、協調的に動作し、私たち人間の生活をサポートするようになる。」という未来像です。


そして「どこでもコンピュータ」を実現するために、基礎と応用の両面から研究を行い、さらにオープン・アーキテクチャ※による標準プラットフォームを確立しなくてはならないと坂村氏は訴えてきたのです。


※オープン・アーキテクチャ(open architecture):その普及と標準化を達成するため、あらゆる技術的仕様を公開すること。


坂村氏のこの発想によって、これまでTRONプロジェクトでは大別すると機器に組み込んで使用される組み込みコンピュータの技術開発を行う「基礎プロジェクト」と、組み込みコンピュータのための未来のアプリケーションを探るための「応用プロジェクト」の2つに分割して進められてきました。


この両者の関係は、基礎プロジェクトが提供する技術基盤を現実世界において適用するための研究が応用プラットフォームに引き継がれ、また応用プロジェクトで得られた成果は基礎プロジェクトにフィードバックされるという相互関係を維持することによって、仮に開発から時間が経過した技術であったとしてもずっと長く使われ続けていくためのゆるぎない基盤的技術の開発を目指して今日まで積み重ねられてきました。


応用プロジェクトにおいては、TRON電脳住宅やビル、都市、自動車、HMI、マルチメディア通信などの様々な展開が行われ「どこでもコンピュータ」が実現する社会におけるコンピュータの利用イメージを、現在の視点からできる限り具体的なものとして提示するという実証的研究でした。