「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー427週!、81カ国語に翻訳!、全世界8500万部の大ベストセラー! と言われている本である。読んでみた。読み始めたところ、児童文学のようだと思ったが、後半は哲学書のようであった。

 この本は若い人たち、学生たちがぜひ読むべきである。最近のZ世代は内向きのようだ、砂漠を渡るような勇気や情熱を以て、夢を追えば、きっとすばらしい人生が見つかることと思う。

 

 Ⅰ. 

 主人公はアンダルシアの羊飼いの少年サンティアゴ(訳本ではサンチャゴとなっている) である。少年は本が読めた。十六歳まで神学校にいたからである。彼はしかし、より広い世界を知りたいと思い、羊飼いになった。

 タリファ[ジブラルタル海峡に面した町]で、夢解きをしてくれるという女を訪ね、夢の中で子供が少年をエジプトのピラミッドに連れて行き、そこで隠された宝物を発見できると告げるという夢を二回見たと語った。その女は、エジプトのピラミッドに行かねばならない、と告げ、お代は宝物の十分の一だと言った。

 本を読んでいた時、ある老人に話しかけられた。セイラム[イスラエルのこと?]の王様メルキゼデック[旧約聖書に出てくる神の祭司でセイラムの王]だと言った。彼は、少年が自分の運命を発見したと告げる。年をとると、不思議な力が、自分の運命を実現することは不可能だと、思い込ませる、と言った。人生のすべてには代価が必要だ、とも。そして、翌日、代価を渡すと、ウリムとトムミムという白い石と黒い石を渡し、前兆[segno]が読めなくなった時に使えと言った。黒は「はい」、白は「いいえ」だと。さらに、「幸福の秘密とは、世界のすべてのすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだ」と告げた。つまり、旅が好きになってもよいが、羊のことを忘れてはならないという意味のようだ。

 少年は海峡を渡り、アフリカへ入った。異教徒の町タンジェで少年は孤独であった。スペイン語で話しかけてきた少年に心を許し、ピラミッドへのガイドになってもらおうと考えたが、騙されてお金を奪われた。少年は自分が見たいように世の中を見ていたことを反省した。白い石と黒い石に問おうかとしたが、自分の運命から逃げぬため、自分の意思で決めることにする。

 少年は、坂の上にあるクリスタル商人の店のあるじに、ガラスを磨くので食べ物が欲しいと申し出た。彼はその店に雇われることになった。

 

 Ⅱ. 

 少年はクリスタル商人の店で懸命に働き、商才を以て店を繁盛させた。その商人から「マクトゥーブ(Maktub)」という言葉を教えられた。「それは書かれている」という意味のアラビア語である。アフリカ入りしてから一年ちかくが過ぎ、少年はアラビア語を覚え、お金を貯めたところで、出発することにする。商人は「マクトゥーブ」と言って彼を祝福した。[起こるべきことは起きている。その前兆さえ逃さなければ、本質が顕れる。]商人はメッカに行きたかったが、果たせずにいた。

 荷造りをしていた時、白い石と黒い石が転がり落ちて、少年は王様のことを思い出す。夢見ることをやめてはいけない、前兆に従ってゆきなさい、と言われたことも。

 ここでイギリス人が登場する。錬金術を学んでいたが、まだ「賢者の石」を発見していなかった。それを発見したという錬金術師は二百歳を越えていて、アルファヨウムのオアシス El Fayoum Oasis に住んでいると聞いて、そのイギリス人はここに来たのであった。少年とイギリス人は、アルファヨウムへ向かうキャラバンに加わるために入った倉庫の中で出会う。二人とも白い石と黒い石を持っていた。

 キャラバンは出発し、二人もらくだに乗って行く。少年はらくだ使いと親しくなった。砂漠で部族間の戦争が起きたようだ。イギリス人は少年にエメラルド・タブレット(錬金術についての最も重要な文献)と「賢者の石」のことを語る。らくだ使いは、過去にも未来にも生きていないのだから、今だけにしか興味がない、人生は生きているこの瞬間なのだ、と言った。

 キャラバンは大きなオアシスに着いた。そこは避難場所で、非戦地帯であり、軍隊は駐屯していなかった。少年はイギリス人と錬金術師を探す。少年は井戸のそばで一人の女性ファティマと出会い、前兆を感じ、求愛した。少年は毎日井戸に行って少女と会った。少女は待つと言った。少年はある日空飛ぶ二羽の鷹を見、一羽はもう一羽を襲うのを目にして軍隊の襲来を予感する。少年はらくだ使いに勧められ、部族長に会ってそれを知らせる。部族帳は彼を信じ、和平協定を中断して防衛策を講じる。

 少年の目の前に突然、轟音とともに馬に乗った黒ずくめの男が現われた。少年の勇気を試すために来た、勇気こそは大いなる言葉を理解するために最も重要な資質なのだ、砂漠はすべての男をためし、取り乱した者を殺す、と言った。少年が会ったのは錬金術師(アルケミスト)であった。生きていたら探しに来いと言われた。

 翌日、二千人の軍がアルファヨウムを襲撃したが、逆に殺された。殺されなかった一人は隊長で、不名誉な吊るし首に処された。少年は金五十個を与えられた。

 少年は錬金術師を訪ねた。彼は、少年を宝物の方向へ向けようとしていると言った。二人はらくだを売って馬を買った。らくだは疲れを見せずに突然死ぬ動物だから、と。少年は砂漠の中に生命(コブラ)を見つけた。錬金術師はそれを前兆だとみなし、砂漠を渡る案内をすると言った。少年がファティマの方が宝物よりも大切だと言うと、「人が自分の運命を追求するのを、愛は決して引き止めはしない」と言われ、出発を決意する。錬金術師は、砂漠がおまえに世界を教えてくれるだろう、おまえの心に耳を傾けろ、心はすべてを知っている、おまえは自分の心から逃げることはできない、と告げた。また、自分の内にすばらしい宝物を持っていて、それを他の人に話しても、めったに信じてもらえないものだ、ということを少年は学んだ。彼の心は、少年の一番強力な資質は、勇気と熱心さだと話してくれた。人の心は、夢を実現しようとしている人を助けるが、心はできることを行うだけだ、と錬金術師は語った。

 目はその人の魂の強さを示す、他の者の運命をじゃまする者は自分の運命を決して発見しはしない、と錬金術師は言う[このへんは実に哲学的である]。

 少年の心が危険を知らせ、二人は軍隊の野営地に連行された。錬金術師は少年の金貨を差し出した。そして錬金術師は、少年がその気になれば、風の力でこの野営地を破壊することができると告げ、三日の猶予を求めた。錬金術師は、死んでしまったらお金は何の役にも立たない、恐怖に負けるな、死の脅威は自分の人生について、人に多くのことを気づかせてくれるものだ、錬金術とは魂の完全性を物質界にもたらすことなのだ、と言った[まさしく!! ]。

 いよいよ三日目、兵士たちは、自分を風に変えるという少年を見守る。砂漠は少年に、風が吹くのを助けるために砂をあげよう、と言った。風はたくさんの名前をもっており、そこではシロッコと呼ばれていた。兵士たちはシマム[ポルトガル語ではSimum、イタリア語ではSimun]という風には慣れていた。少年が太陽に、自分を風に変える方法を尋ねると、すべてを書いた御手と話してみるよう言われた。砂漠も風も太陽も自分たちがなぜ創られたかを知らなかったが、その手はすべてに対して理由を知っていた[話が天地創造にまで及ぶ!!]天地創造の作業に至るまで宇宙を動かしてきたのはより大きな意志であることを理解しているのはその御手だけであり、御手だけが奇蹟を起こして人を風に変えることができた。少年は大いなる魂に到達し、神の魂はまた自分の魂であると悟った。

 こうしてシマムは吹き荒れ、軍隊の野営地を破壊した。シマムが止んだ時、少年はもうそこにはおらず、野営地の反対側におり、錬金術師は完璧な弟子を発見して微笑み、首領は錬金術師の弟子が神の栄光を理解したと知り、微笑むと、翌日、二人に護衛をつけて送り出してくれた。

 二人は一日後、コプト人の修道院に至った。ピラミッドまであと三時間であった。錬金術師は鍋で鉛から金をつくり、それを修道士と少年に与えた。「一度起きたことは二度と起こらない。二度起きたことは必ず三度起きる」と錬金術師は言った。また、夢に関する物語を話した。二人の息子を持つ父親がいて、天使が息子のうち一人の言葉は永遠に世界中で学ばれ、繰り返されると告げた。一人は詩人で、ティベリウス帝の時代に彼の詩はローマで人気を博したが、やがて忘れられた。もう一人は兵士であり、百卒長となり、従僕の病気を治そうとラビを探しに行き、その人が神の子だと知ると、「主よ、わたしの屋根の下にあなたにおいでいただくほど。私は価値のある者ではございません。ただ、お言葉を下さい」[マタイの福音書8章2節]と言った。[この錬金術師はキリスト教徒だったのかしら?]

 少年の心は「あなたが涙を流すところにあなたの宝物があります」と告げた。スカラベを見た少年はそれを前兆とみなしてそこの砂を掘り始めた。そんな彼を誰何した男たちは彼の金を奪い、さらに掘り続けさせ、何も出てこないので殴った。殺されそうになって血の涙を流した少年は自分の見た夢、ピラミッドの近くに隠されている宝物のことを話した。その男たちの一人は立ち去る前に、この場所で自分は同じ夢を何度も見たと告げた。スペインの羊たちが眠る見捨てられた教会のいちじくの根元に宝物があるという夢を見た、と。だが彼は砂漠を渡らなかった。少年の心は喜びではちきれそうになった。[この先のエピローグは書かないでおこう。]

 

 私は自分の人生のことを思った。私にとってのエジプトはイタリアであり、そこで多くの宝物を得た。私にとってのsegno (前兆) は、何といってもオットであり、ヴァティカンで出会った西山達也神父であったなと思い返している。