純正調のお話-応用編,その4- | フクロウのひとりごと

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愛知県在住のトロンボーン吹き、作編曲家、吹奏楽指導者。
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さて,きょうはもう1曲,実際の曲で実例を見てみましょう。
この楽譜。。

じゅげむ


2012年の課題曲,『吹奏楽のための綺想曲「じゅげむ」』です。
じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ…( ´_ゝ`)

その,中間部の終わりの部分。
この曲の,いちばんの『濁り』ポイントですね(´・ω・`)
下の段は金管中低音,上のメロディはアルトサックスソロ。
3小節目の連符はフルートとエスクラです。
調性は,ヘ長調(実際は調号で書いてありませんでしたが…)。


コードネームは書いてあるとおりなのですが…
まず,1小節目のGm7ヘ長調のIIm7純正律破綻の和音…

マイナーセブンスには2つの完全五度があるんでしたよね。
G音とD音,B音とF音
サックスの旋律にある主音のF音は第7音になりますが,
当然この音が動かなくてもいいようにすべきです。
と,選択肢は3つ。

方法1 … 第3音Bを,Fから純正に取って2セント低く,
そこからハーモニー全体が純正になるように,
相対的に根音Gを18セント低く,第5音Dは16セント低く…。

方法2 … 根音Gを基に,金管セクションのGmだけを純正に取る。
第3音B(1stトロンボーン)とサックスのFの完全五度は捨てる。

方法3 … 根音Gを基に取るけれども,
第3音のBはサックスから完全五度で取って,三度は捨てる。

次のAm7も同じになると思われます。
Am7は方法1の場合サックスのG音はほんとうは4セント高いので,
全体に4セント高いことになります。あくまでも計算上は…。
ハーモニー的には方法1なのかもしれませんが,
それではメロディの動きが不自然になりそうですよね。
いちばん現実的なのは,方法2でしょうか…。


で,ここはまだ良いのですが,問題は2小節目のG♭Maj7
(ちなみにこれはマイナーサブドミナントの代理コードですね)
メジャーセブンスも,マイナーセブンスと同じく,
完全五度を2つ持っている和音です。
この和音の場合だと,Ges音とDes音,B音とF音

これを純正にしようと思ったら,
サックスの主音Fは当然動かず,第3音Bが完全五度で2セント低く,
そこからG♭の長三和音をつくると…
根音Gesは12セント高く,第5音Desは14セント高くなる。
それで合えばいいのですが…
幸い,テューバのGesもユーフォのDesも,
どちらかというと高くなりやすい音です。でも…
ここでファゴットアルトクラバスクラも入ってくるんですよね…


このハーモニーがどうしてあんなに濁るのかといったら,
このGesとDesの五度,あるいはユニゾンが合わないからです。
これをどこ基準で合わせるのか,ここは考えどころですよね。
低音の8分音符の動きが自然に聞こえるかにも注意を払うべきです。
そして,楽器編成や楽器のクセなんかも考えていくべきなのです。
だんだん純正調の話ではなくなってきている気もしますが…


そして,この根音と第5音が仮にきれいに合ったとして,
さて第3音のB(2ndトロンボーン)は,どうするか…
長三和音の第3音として取るか,サックスから5度で取るか…
どちらの取り方でも一致すればいいですよ。
(上に書いた計算どおりにできれば一致しますが…)
まぁ,現実的には一致することはないでしょう(^^;
だいたいアルトサックスの実音Fって,高くなりがちな音
そういうこともある…

もし,トロンボーンセクションの中に上のF音があったら…
トロンボーンが上からF,Des,BでテューバがGesだったら…
当然,それぞれ五度を純正にすべきでしょう。
でも,F音はサックス…
もし,すぐ前にサックスがいたら,五度で取るでしょうね。
でなければ,三和音を純正にするでしょう。

実際どちらで取るのが美しいのか…
それは客席に行って聴いてみるしかない
ただし,それを判断するためには,
根音Gesと第5音Desが純正に合っていることが必要でしょう。


楽器編成楽器のクセ編成の並び方まで影響してくる…
どういう考え方で,どう合わせるのか,
どこを意識して,どこに合わせるのか,
その意思統一をしておくべきでしょうね。
そういうことのほうが結局,計算よりも大切になってくる。

だから演奏現場でおこなわれていることは,厳密な『純正律』ではないのです。
そして,それが間違っているわけでもない
演奏を,より美しくするために行われてきた,おそらく無意識の工夫なわけです。


最後の小節の主和音Fコードには9の音,G音が入っています。
これは,問題なく合わせられるでしょう。
G音(1stホルン)は,第5音Cから純正に取ればいいのです。
C音はお隣,2ndホルンです(と1stトロンボーンとユーフォ)。
ホルン4本が高い順ではなく上から1,3,2, 4となっているのには,あるいはこういう意味もあるのかもしれませんね。


明日は,純正調についてまとめてみます。