11月に観た映画・寸評4

 

『うなぎ』(1997年 日本)

 監督:今村昌平

 キャスト:役所広司 / 清水美沙

 

 

 浮気した妻を殺害して服役した男(山下拓郎)が刑務所を出所したあとも他人に対して閉ざしていた心を一人の女性との出会いによって心を開くまでの過程を描いた作品。冒頭の妻を殺害するシーンが非常に凄惨な描き方なのでかなりシリアスな展開になるだろうと思ったが、意外にもコミカルな描写をも含むヒューマンストーリーだった。冒頭の妻を殺害するシーン。山下は包丁で何度も何度も執拗に妻の体を突き刺す。心の底から愛していた妻に裏切られた絶望感が伝わってくる。出所するシーン。刑務官が大きなビニール袋に入れた一匹のうなぎを山下に手渡す。服役中に山下が飼っていたうなぎだ。奇妙に思う保護観察官に山下は言う。「私の話をよく聞いてくれるんです。それに、余計なことは言わないし。」山下にとって唯一心を開くことができる相棒なのだ。出所後の山下は服役中に取得した理髪師の免許を活かして廃屋寸前の理髪店を改装して床屋を開く。山下にとって水槽に入れたうなぎだけが唯一心を開くことができる相手だ。そして、ある日、自殺を図ったひとりの女性を助けることから徐々に山下の心が開かれていく。

 水槽のうなぎは山下の心象風景の象徴だ。近所に住む船大工が川で獲ったうなぎを分けてあげるという申し出を断るシーンがある。彼にとってうなぎは食用ではないのだ。その山下が終盤で飼っていたウナギを川に戻してあげる。狭い水槽に閉じ込められていた山下の心は広い川で自由に泳ぎ出したのだ。心を開くことができる相手にめぐりあえたことによって。

 今村監督の映画と言えば、人間の心の深淵に潜むどろどろとした部分をえぐり出す作品が多いがこの映画はそれらとは少しテイストが異なる。山下を取り巻く人々の描き方などは寅さん映画を彷彿させるものがあるが、それも一興と思わせる作品であった。