烏口腕筋は肩甲骨-烏口突起から起始し、上腕骨中程に停止していて、主に肩関節を屈曲もしくは水平屈曲するときに働く筋肉です。
カラスの口を意味する「烏口」という独特の響きを持つ言葉ですから、烏口突起とともに一度くらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか?
ただし、この筋は主動筋として働くことはなく、補助機能としての役割ですから、三角筋や上腕二頭筋ほどのネームバリューはないかもしれません。
そういう意味で一般の方の知るところではないでしょうね。
我々のような仕事に就いている者でも、あまりこの筋肉が問題になることはないので、ついつい疎かにしてしまいますが、時として、これを処置することなしには症状が治まらないことがあります。
まず、肩の前面に痛みを送るケースがあるのですが、これを五十肩の一形態として考えるならば、頻度は非常に少ないでしょう。順位を付けるならおそらく最下位。
原因として考えなくとも良いレベルかな、と。
しかし、もう一つ重要な症状の原因となることがあります。
それが、腕や手指のシビレ。
これを見落として、症状の改善が遅れたりするので要注意です。
この筋肉は腋窩神経に絡み合ってますので、この筋のトラブル(TPによる短縮膨大が一番多い)は神経圧迫という二次災害を生みます。
圧迫状態が限度を超えれば、まさに疼きやシビレという症状を出してしまうのは理の当然。
実はこれが結構多いのです。
私の失敗例をお話しましょう。
40代後半の女性。
右腕~手指のシビレが主訴でした。
腕~手指のシビレはまるで流行しているかのように最近多いのですが、どの症例でも1、2回で改善感を与えることができていました。
そういう意味でたかをくくっていたのかもしれません。
最も多いと思われる斜角筋、それに伴う小胸筋。別件で小円筋。
あとは首、肩、腕を全体に緩めると・・・
こんなところでだいたいケリがつくわけですが、このクライアントさんの場合は一向に治まる気配がないのです。
3回目に来られたときにも改善感がなかったので、これは時間がかかる症例というわけではなく単に自分のミスだと悟りました。
はて・・・どこか見落としているなぁ・・・
ふ~む・・・どこだ?どこを見落としている?
しばし記憶をまさぐっていくと、烏口腕筋!天啓のように閃きました。
(そうだよ、烏口腕筋の可能性があるじゃないか!なんとおバカな。何故思い至らなかった!)
そこに気がつけばほぼ勝ち戦です。
全体の施術の中でしっかり時間を設けて、この烏口腕筋の処理をしました。
はたして・・・
即効改善。今までなにやってたんだ?ぐらいの鮮やかな治り方です。
それから、これに懲りて、腕~手指の疼き、シビレの症状には必ず烏口腕筋の可能性を考慮することにしたのは言うまでもありません。
幸いなことにこの症例で気がついたお陰で、それから烏口腕筋原因の症例が3例くらいありましたが、いずれも事なきを得ています。
私自身も盲点になっていたくらいですから、中々気付きづらい原因だと思います。
神の身ならぬ人間のやることですから、見落としもあるでしょうが、もっと早い時期に楽にしてあげられたはずだと思うと、当然後悔もあります。
しかし、完璧、パーフェクトな存在になるのは無理ですから、間違ったら間違ったらでちゃんと修正をかけられる治療家でありたいな、と。
そういう目標を掲げてからもう四半世紀経ちました。
完璧には程遠いですが、当初の目標は達成しつつあるのだなぁ、と感慨深い昨今ではあります。
日々の仕事がそのまま修練と鍛錬になる・・・ホント、素晴らしい仕事に巡り会えたものです。