午前8時15分、一発の原子爆弾がさく裂した。3000度以上の熱線に肌は焼かれ、爆風で飛ばされたガラスの破片が体に刺さる。今も続く放射線障害。被爆者の“心の傷”は癒えない

 15歳で被爆した日本画の巨匠・平山郁夫氏。後年も、8月6日が近づくとうなされたという。被爆から34年後、「平和記念式典」で心に浮かんだ情景を描いた。171センチ×364センチを赤い炎で埋め尽くした「広島生変図」。一枚の原爆絵は「広島は生きているんだぞと主張している」(『平和への祈り』毎日新聞社)と

 爆心地から1・4キロで被爆した婦人部員。原爆症で頭髪は抜けた。「被爆した者を嫁としては迎えられない」と結婚も破談に。体から何度もガラス片が出る。娘3人が「がん」を発病した時は泣いてわびた

 きょう6日朝、慰霊碑で行われる記念式典で、その婦人が被爆者の代表として献花する。30年前に一度だけ訪問したが、あの“地獄”を思い出し、以来、行けなかった。しかし本年、「娘たちや孫のため、世界平和のために」と、“満身創痍”の体を奮い起こす

 小説『新・人間革命』の執筆開始は8月6日。被爆者が、世界中の人々が願う一節を心に刻む。「平和ほど、尊きものはない。/平和ほど、幸福なものはない」 

【8/6 聖教新聞・名字の言】
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 知らない土地に行った時にはスマートフォンのナビ機能が役に立つ。自分がいる場所から目的地までどれほど時間がかかるのか。スマホの画面に浮かんだ経路を効率よくたどることができる。だが周りの風景には気づきにくい

 作家の池澤夏樹(いけざわ・なつき)さんはそれより国土地理院の地図が好きだ。日本列島を網羅する「20万分の1」の地図130枚を飽かずに眺めたことがあるという。「自分が一生のうちに行くはずがない土地がこんなに広いこと(略)、それが世界と自分の正しい比率であることをしみじみと覚(さと)った」(近著「知の仕事術」)

 地図は過去と今を結びつけるものでもあるらしい。昨年公開されたアニメ映画「この世界の片隅に」の舞台、広島県呉市と広島市。監督の片渕須直(かたぶち・すなお)さんらが作ったロケ地の地図を手に訪れる人が今も絶えない

 主人公の北條すずは広島市で生まれ、呉に嫁ぐ。戦争に翻弄(ほんろう)されながらも懸命に生きるすずや家族。片渕監督は現地を何度も訪れ、時代や風土を徹底的に調べて映像に生かした

 映画のラスト。すずは原爆で廃虚と化した広島で孤児と出会い、引き取って育て始める。絶望から立ち上がろうとする日本人の姿を想像せずにはいられない

 戦後72回目の原爆の日を迎えた。スマホではなく、地図を広げれば見えてくるかもしれない。広い世界の中で自分はどこにいるのか。世界で起きていることと昔の出来事がどうつながっているのか。そして「この世界の片隅に」すずのような人が今もいることに。 

【8/6 毎日新聞・余録】
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