江戸時代,鉄砲の取り扱いは砲術と呼ばれ,武道十八般の一つとされた。砲術が他の武道と大きく異なる点は,他の武道が体技の錬成を目指すのに対し,砲術は鉄砲という機械の操法を習得する点にある。
この砲術の特色は,砲術を修行する人達を工夫好きにしただろう。鉄砲という機械を容易に操作するための道具を,自ら工夫して作る人がとても多いのである。
関流砲術大筒射撃
30キロもある大筒に火薬80グラムを装填しての
砲術演舞。ほとんど命知らずの技である。
鉄砲に装填する火薬を入れる容器を自分で作る人もいる。弾薬を携帯するための胴乱を手作りする人もいる。これは私が演武の時に使用している胴乱で,これは江戸時代に使われていた胴乱から型紙を作り,手作りしたものである。しかし,作ったのは私ではない。ある鉄砲隊の方が自分で作り,私に譲ってくれたものである。
私の胴乱(弾薬入れ)
下の写真の左側が,口薬入れと呼ばれる火薬の点火剤の容器であるである。この口薬入れは,友人のKさんが手作りしたものだ。口薬入れの注ぎ口は,バネにより自在に開閉する仕組みだ。口薬の右横にあるのはセセリ呼ばれる火道の穴掃除道具である。上は私が鯨の髯で作った物,下が,先達の会員が銅線で作り,プレゼントしていただいたものである。銅線は柔らかくて簡単に曲がるから,火道の掃除にはもってこいの材料である。
Kさん手製の口薬入れ
このように機械という物は,人を工夫好きにするらしい。道具を工夫をすれば,より機械が操作しやすくなるからである。鉄砲伝来により,機械である鉄砲がもたらされたことにより,鉄砲は,日本人をさらに工夫好きにしたのかもしれない。