あれだけ、美しい曲を弾くビル・エバンス
ところが、ピアノに向かう彼は、猫背でピアノに伸し掛かって、
うつむきながら、笑顔もなく、無念無想でただピアノを弾いている。
なぜこの演奏スタイルなのか?
ずっと疑問だった。
ピアノを弾くのが楽しくないのか?義務で弾いているのか?
なのに、音は弾け、美しく奏でられている。
その疑問を解いてくれたのが、最後のトリオのドラマーであるジョー・ラ・バーベラが書いた本「ビル・エバンス・トリオ最後の二年間」に書いてあった。
抜粋しよう。
『ビル・エバンスがジャズの即興演奏へのアプローチを明かしている。
簡単に言えば人は特定の物事に自分の全神経を集中させる必要があるということ。
そういう状態になるために、ビルはただ心の中で「スイッチを入れ」て、プロセスを開始するのだった。
それには少し練習が必要だが、最終的には自分自身を訓練する事で、
演奏中に完全に「その瞬間に集中」できるようになり、
それによって精神的・肉体的疲労を克服できる。
正直な話、そういう事が怒るのを私は何度もこの目で見た。
とくにビルの人生が終わりに向かうなか、彼の体力が枯渇したも同然のとき、
それでも彼はどうにか底力を発揮し、難局を乗り越えた。』
(ビル・エバンス・トリオ最後の二年間より)
ビル・エバンスは、若いときからこの全神経集中の姿勢だったわけか
まさに無念無想の弾き方。
旧い教会でのコンサートに来たジャズを知らない聴衆が、
なぜか宗教的に感じたと語った場面があったけど
まさに全神経集中であり、無念無想なのだ・・・
ピアノを弾く事に苦痛を感じているのかと疑っていた自分が恥ずかしい。
彼は、内面の自分と、いや、神と語り合っていたのかもしれない。