文章を書くことを生業としている立場から、メモとして、一つだけ自分の信念を挙げておく。

 

プロとして文章を書き、お金をいただくのであれば、「誤読の可能性が低く、できるだけストレスなく読める文章」を書くように努めることが、お客様への最低限のマナーだろうということだ。「特段にうまい文章というのではないけれど、書かれていることがすーっと頭の中に入ってくる」というのが私の目指している文章だ。

 

読者にとってストレスなく読めて、誤読の可能性も少ない文章を目指すのであれば、修飾語の語順、テンマルの打ち方はほとんどの場合一義的に決まる。数学的なロジックがある。以下、公益性が高く、実質的に出版社や著者にとっての不利益にはならないと判断し、「日本語の作文技術」(本多勝一)に紹介されている基本理論を私なりにまとめて紹介する。プロはもちろん、一般の人も知っておいたほうがいい、最低限の日本語作文基礎知識だと思う。

 

修飾する言葉とされる言葉を明確にするために、語順を変え、使用する言葉を換える

 

とても美人とは言えない。

 

>美人とはとうてい言えない。

 

>絶世の美人とは言えない。

 

入れ子の構造を外して、修飾関係にある言葉を直結する

 

私は小林が中村が鈴木が死んだ現場にいたと証言したのかと思った。

 

>鈴木が死んだ現場に中村がいたと小林が証言したのかと私は思った。

 

修飾語の語順の原則は4つ

 

1 句より節を先に

 

2 長い修飾語ほど先に

 

3 大状況や重大なものを先に

 

4 言葉のなじみによっては順番を変える

 

※一般に言われる主語と述語を近くに置くという原則は間違い。日本語の主語 は修飾語の一種と考えるべき。

 

読点(、)の打ち方の原則は2つ

 

1 長い修飾語が2つ以上あるとき、その境界にテン

 

2 語順が逆順の場合にテンを打つ

 

※上記2点以外のテンは、強調したい場合などに使う「思想としての自由なテン」。

 

※声に出して読んでみて、一呼吸置きたくなるところでテンというのは、こういう理屈が理解できない小学生のための説明。単純に音読の呼吸だけに頼ると、テンの打ち方を間違える可能性がある。

 

段落を変える位置は一義的に決まる

 

段落は複数の文章からなる思想の最小単位。

 

お金を100円単位でまとめるか、1000円単位でまとめるか、10000円単位でまとめるかによって、ひとくくりの金額は変わる。長い段落で構成される記述は10000円単位でくくったようなもの。短い段落で構成される記述は100円単位でくくったようなもの。しかし、あるところでは100円単位でくくり、あるところでは10000円単位でくくるということはしてはいけない。100円単位でくくると決めたならずっとそのロジックを通す。10000円単位でくくると決めたならずっと10000円単位でくくらないと、結局いくらあるのかがパッと見ただけではわからなくなる。そうなるとせっかく読んだ文章が効率よく頭の中にしまわれていかず、結局何を読んだのかわからなくなる。だから段落分けのいい加減な本を読むと、読んだ後に内容をうまく説明できない。

 

※本多氏の理論に対する異論もある。別の理屈があるのなら、それはそれでいいと思う。ただし筆者の感覚のみで書かれている文章は大抵読みにくい。

※プロとしてではなく、そもそも自分の気分で書くブログやフェイスブックはこの限りではない。私もフェイスブックやブログに書くときは、書籍執筆中ほどこれらのことを厳密に考えてはいない。

※私は、うまい文章というのは書けないので、文章を書くことよりも、良い素材を集める取材にこそ力を入れている。素材が良ければ、それをそのまま皿に載せるだけでおいしい料理になる。それが私の目指す究極の文章術。

※ここでいう「プロ」とは職業ライターのこと。職業ライターの仕事はわかりやすい線で宝のありかまでのわかりやすい地図を描けるようなこと。宝のありかを知らないと地図は描けない。だからそれを取材する。一方、小説家の仕事はさまざまな技巧を凝らしてまさに宝物とされるような絵画を描くようなこと。あちらは言葉を使うアーチスト。まったく別物。 

 

※10年近く前に、別のブログプラットフォームに書いたブログ記事の転載です。