9月1日に新刊『正解がない時代の親たちへ 名門校の先生たちからのアドバイス[エッセンシャル版]』が書店に並びます。

 

この本は2019年発売の『21世紀の「男の子」の親たちへ』と2020年発売の『21世紀の「女の子」の親たちへ』の2冊を合本しておいしいところだけを絞り出すようにしてまとめたエッセンシャル版です。

 

合計22校((麻布、栄光、桜蔭、鷗友、海城、開成、吉祥女子、神戸女学院、四天王寺、品川女子、芝、修道、女子学院、巣鴨、洗足学園、東大寺、桐朋、豊島岡、灘、ノートルダム清心、雙葉、武蔵)32人の先生たちにお話をうかがって集まった珠玉の言葉の数々を正解がない時代の子育てに生かしてもらえればと思っています。

 

今回、その本の「おわりに」をいきなり大公開します。

 

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おわりに 「答え」は子どもの中にある

 

自分は愛されているという安心感があり、自然の美しさと厳しさに畏敬の念を感じており、友達と楽しい時間を過ごすことができて、さまざまな失敗を経験し、しっかり反抗期を堪能したのちに、素敵な恋愛ができれば、その子はもうどうやったって生きていける。親がよほど余計なことをしなければ、子どもはそれなりに育っていく。無数にある幸せになる方法のなかからきっと自分に合った方法を見つけ出す。だから、子育てを、そんなに難しく考えることはない。

 

これが本書の結論です。いまの私の確信でもあります。

 

最近では「科学的に証明された」とか「エビデンスにもとづく」などと喧伝する育児法や教育法もありますが、それってまゆつばです。だって、育児法や教育法がその子にとって良かったのかは、その子が人生を終える瞬間にどんな気持ちかを尋ねでもしない限り判定のしようがないでしょう。

 

つまり「良い親とは何か」「良い教育とは何か」という問いは、結局のところ「幸せとは何か」「人生とは何か」という哲学的な問いに近づいていきます。哲学的な問いに対して、どんなに予算や時間をかけて調査したところで、エビデンスなんてとれるわけがありません。

 

仮に、世の中のエビデンスを結集してつくられたAIが、わが子にとっての〝最高の教育〟をアドバイスしてくれるとして、最高の習い事、最高の塾、最高の学校を教えてもらったうえで、最後に「でもいちばん教育効果が高いのは、親を取り替えることなんですけど……」と言われたらどうするんですかね?

 

それに、たとえばビジネスで大儲けしたとか、何かで金メダルをとっただとか、東大に合格しただとかそんなことで、子育ての〝成功〟だなんて言われたら、それこそ「その人生観、大丈夫ですか?」って話です。

 

だって、人生はその先もずっと続くんです。ある瞬間には世の中から拍手喝采を浴びたとしてもそこから転落してしまう人生を、私たちはたくさん目撃していますよね。一方で、世間からのスポットライトを浴びることはないけれど、しみじみと幸せな人生をおくっているひとたちがそこら中にいることを、私たちは知っています。

 

そもそも親が子どもの幸せを見届けることなんて、できないほうがいいんですよ。だって、子どもが幸せを全うするのを見届けるためには、子どもより長生きしなくちゃいけないですから。そんなの、親として最も避けたいことの一つですよね。

 

要するに、幸せになった子どもを見て早く安心したいなんて、さっさと捨て去るべき煩悩みたいなものです。「大丈夫。この子はきっと幸せに生きていく」と信じることが先なんです。それが子どもにとっては何よりもの自信になるんです。親はそのことに早く気づくべきだと思います。

 

では親は、不安だらけのなかで何を指針にして子どもを育てればいいのか。

 

図書館の育児書を片っ端から読んでも、ネットで検索しまくっても、「答え」が見つかるどころかますます迷宮の奥深くに入っていってしまうことがあります。そんなときこそ、灯台もと暗し。

 

「答え」は常に子どもの中にあることを、思い出してください。

 

2021年8月 おおたとしまさ

 

P.S. 本書に登場する先生方は、私にとってはもはや「恩師」です。男子校どころか、女子校にまで「恩師」がいるのは、私の役得だと思っています。