- 第十五話 『理解されぬままに』
アストクルフ家、敷地内。
夜の闇が支配する戦場。
もはや敵の数は無きに等しく、しかし強敵が残っている状況だ。
強敵の名はツー。
(*゚∀゚)「あははははは!」
狂気ともいえる笑い声を発しながら、カマイタチを幾重にも放ってくる。
それを受け止める影もあった。
(´<_` )「む……!」
弟者だ。
金色に輝く盾を持ち、自ら前に出て攻撃を防いでいる。
そしてその影からは
( ,,゚Д゚)「つぁっ!」
青い巨剣を持ったギコだ。
カマイタチの隙間を縫って走り、ツーに一撃を与えようとするが――
(*゚∀゚)「遅いねぇ」
刃が当たる前に消えられる。
限界突破により攻撃力が上がった反面、速度は下がったはずなのだが
しかしそれでも目視は不可能だ。
- ( ,,゚Д゚)「しかも能力がコンパクト故に体力消費も少ない……長期戦用、か」
(;´_ゝ`)「あわわわわ……」
傍らでガクガクブルブルと震えているのは兄者だ。
その珍妙な怖がり方が気に入ったのか、先ほどから『あわわわ』としか言わない。
(´<_`;)「兄者……せめて戦場から離れるとかしてくれないか?」
( ´_ゝ`)「何を言うか、弟者!
お前達の心を支えるのが俺の仕事ではないのか!」
( ,,゚Д゚)「誰がいつそんなことを決めた」
(´<_` )「流石の俺もお断りだ」
(;´_ゝ`)「酷ッ!!」
(*゚∀゚)「アンタら……やる気あるの?」
呆れ気味に問いかける。
そう思うのも当然だ。
攻防の間に兄者が珍妙な発言をし、そして二人がツッコむ。
ツーは、戦闘がいちいち中断されて苛立っていた。
- (*゚∀゚)「っつか、兄者……アンタを殺せば済む話じゃない」
(;´_ゝ`)「何故に俺!?」
瞬間、ツーが掻き消える。
直後には兄者の背後。
しかしそれを阻む者がいた。
(´<_` )「やらせんよ」
( ,,゚Д゚)「悪いが同意見だ」
二人で兄者を護るようにして立ちはだかる二人。
(*゚∀゚)「何でさ? コイツが死ねば、私達は思う存分殺りあえるんだよ?」
(´<_` )「常識的に考えて兄を見殺しにする弟などいないだろう」
( ,,゚Д゚)「それに、コイツにはまだ使い道がある」
(;´_ゝ`)「おぉ、弟者……ってか、ギコさん何気に酷いのでは?」
ギコは無視。
ツーに向き直りながら
( ,,゚Д゚)「さて……問題は貴様の動きをどう止めるか、だな」
- (*゚∀゚)「そりゃあ、無理ってもんだよ。
さっきみたいな地割れをされても、今度は私のカマイタチが全て整地してくれるしね。
実質、アンタらに私を止める手段はないのさ」
( ,,゚Д゚)「……しかし疑問がある。
何故、貴様は先ほどからチマチマと攻撃するだけなんだ?
その気になれば俺達を一瞬で切り刻むことくらい出来るだろう」
(*゚∀゚)「悪いねぇ、私は戦いってのを楽しみたいだけでさ。
アンタらが早く本気にならないかと思ってたんだけど――」
口の端を歪める。
(*゚∀゚)「既に本気だった、とか?」
∑(;´_ゝ`)「な、なんだってー!?」
(´<_` )「兄者、流石に少し黙ってくれ」
珍妙な兄者は弟者に任せ、ギコは言葉を紡いでいく。
( ,,゚Д゚)「本気……限界突破を使えと言いたいわけか」
(*゚∀゚)「さてねぇ……私としては楽しめればそれでイインダヨー」
( ´_ゝ`)b「グリーンダヨー」
( ,,゚Д゚)「……黙れ、珍妙」
『珍妙!?』と驚愕する珍妙な兄者だが、更にギコはそれを無視。
- その様子を見ながら、ツーがニヤリを口に笑みを浮かべた。
(*゚∀゚)「はは、アンタらの漫才はもう充分堪能したし……そろそろ本気バトルといかない?」
( ,,゚Д゚)「他人に本気を出してもらいたければ、自分からまず力を示せ。
今のお前程度の相手ならば、限界突破を使う気にはならん」
(*゚∀゚)「へぇ……後悔すんよ?」
( ,,゚Д゚)「覚悟も無しに戦いに身を置くほど馬鹿ではないだろう、俺もお前も」
(*゚∀゚)「格好いいねぇ……じゃあ、見せてあげるよ」
途端、ツーの姿が消える。
もはや定番となった高速移動。
しかしその速度ゆえに、目が慣れることはない。
( ,,゚Д゚)(しかし攻撃位置は予測可能だ……)
死角。
正面からのぶつかり合いが苦手なのか、今までツーが執拗に狙ってきた攻撃位置。
それならば、あの足さえ封じれば勝ち目が見えてくるのだが――
( ,,゚Д゚)「いや――」
駄目だ。
相手の力が失われれば勝てるのは当然。
全てを超えなければ真の勝利とは言えなく、そして屈服させることも出来ない。
ならば考えろ。
相手が見えぬ速度を持つとき、どうすればそれを超えられるかを――
- ギコと弟者が防護の姿勢を見せている時。
その遥か背後では、いつの間にか長距離退避している兄者が腕を組んで傍観していた。
( ´_ゝ`)「ふむ……」
呟く。
と、その時だ。
彼の元へ駆けて来る音。
(*゚ー゚)「えっと……兄者、さん?」
しぃだ。
まだ兄者と弟者の区別がついていないのか、名前に疑問符が付加されている。
( ´_ゝ`)「おや、しぃさん。
ここは危険だから避難した方がいいぞ?」
(*゚ー゚)「いえ……兄者さんがいるってことは、ここは安全圏だと思うんで大丈夫です」
( ´_ゝ`)b「何と、それは新たな珍発見」
(*゚ー゚)(……これが『ウザい』っていう感情なのかなぁ)
素直に思うが、しかし口には出さない。
これを果たして優しさというのかという判断は読者に一任する。
(*゚ー゚)「それで、ギコ君達は――」
( ´_ゝ`)「あの状態だ。 助けようにも助けようがないのが実状といったところだな」
- (*゚ー゚)「……そう」
言いながら、しぃは懐から拳銃を取り出す。
その様子を見ながら
( ´_ゝ`)「行くつもりか? あの危険域に入る、と?」
(*゚ー゚)「えぇ、そうよ」
( ´_ゝ`)「指輪も使えずというのに……死にたいのか?」
(*゚ー゚)「いいえ、死にたくなんかない。
ギコ君を残して死ぬわけにはいかないわ」
( ´_ゝ`)「では行くべきではないだろう?
彼は強いのだから、きっと勝つさ」
(*゚ー゚)「たとえそうだとしても、私は歩みを止めることはしない。
だから誰かが言ってた言葉を貴方に送るわ」
( ´_ゝ`)「それは?」
(*゚ー゚)「『依存はただの停滞』よ」
言葉と同時に走り出す。
向かう先は荒れ狂う風獣が存在する場。
愛する人がいる、ある意味地獄とも天国とも言える戦地。
後に残された兄者は頭をポリポリと掻きながら
( ´_ゝ`)「依存はただの停滞、か……俺は弟者に依存しているのだろうか?」
- (*゚∀゚)「あははははははははは!!」
声と共に来るは超高速の斬撃だ。
二本の足を用いた、しかしそれ以上の数の斬撃。
相対するはギコ。
その巨剣を巧みに操り、斬撃を防いでいる。
しかしその技術にも限界があり、それを速度が超えているのが事実であった。
一つ。
また一つと、ギコの身体に赤い線が刻まれていく。
( ,,゚Д゚)(ちっ……)
本日何度目かの舌打ち。
分が悪い。
こちらは二人いるものの、弟者は防御専門だ。
実質、攻撃出来る人間は己だけ。
ドクオやブーン達は今頃、他の指輪持ちと戦っているだろう。
援護は期待出来ない――
そこまで考えた時、ふと苦笑が漏れる。
俺はいつの間に助けを求めるようにまで落ちぶれたのか、と。
阿呆か。
馬鹿か。
戦場で頼りになるのは、結局は己の力。
他人の戦力など所詮は攻撃の線の方向修正でしかない。
斬撃を避け、往なし、しかし身に受けながら思う。
己の本来の戦いがこれなのだ、と。
- ならば
( ,,゚Д゚)「ならば――!」
声を発したときだ。
その声に被さるように、新たな声が介入してきた。
(*゚ー゚)「ギコ君!」
しぃ。
彼女が、何故かこちらに向かって走ってきている。
持っている拳銃をツーに向け、照準を合わせ――
(*゚∀゚)「おやぁ? おやおやぁ?」
前方のツーが目を弓にし、口の端を歪める。
その顔をかするように銃弾が飛んだ。
(*゚∀゚)「危ないねぇ……死んだらどうするつもりなんだい?
邪魔だから先に殺しちゃおう!」
途端、消える。
- まずい――しかし、チャンスだ。
ギコは思った瞬間に身を走らせた。
奴は高速移動をしているが、攻撃の瞬間には姿を現す。
先ほどからの攻防で解った点を加えると、これによって解るのは二つの点。
一つ目は、いくら速かろうがそれは移動にしか効果を発揮しない点。
つまり、攻撃の瞬間にはその速度はほとんど効果を失っている。
この制限があるからこそ、ギコはその巨剣でツーの攻撃を防御出来たのであろう。
二つ目は、攻撃目標が決まっていれば攻撃地点は自ずと割り出せるという点。
今の奴がしぃを狙っているとしたら、彼女の周囲――しかも死角――に姿を現すだろう。
そこを斬る。
しぃに危害が加えられることも考えられるが、そこは彼女の反射神経と判断力に任せよう。
今はツーを倒すことだけを考えろ。
非情とも信頼ともとれる感情。
果たしてどちらなのか、という疑問にギコは答えるつもりはない。
それは彼女が決めることだ。
走る。
視界の隅で弟者も身を走らせているのが見えた。
二人の様子とツーが消えたという事実を見て、しぃも瞬時に状況を理解。
その場で動かず、しかし周囲に気を配らせ始めた。
ツーの攻撃が来る前に、彼女の元へ辿り着いた。
高速移動をしている奴より早く来れたのに少し違和感を持つ。
何かを企んでいるのか。
- (´<_` )「何が来るか解らん……気をつけろ」
( ,,゚Д゚)「解っている」
しぃを護るようにして構える二人。
もはや何処から来ても対応出来るような、そんな気配を漂わせる。
これで奴も迂闊に攻撃出来まい。
そう思った瞬間だ。
瞬間、しぃの身体が弾け飛ぶように突き飛ばされた。
(;*゚ー゚)「ッ!?」
(;,,゚Д゚)「しぃ!?」
横殴り気味の、しかし見えぬ攻撃を受けたしぃは数メートル程の距離を飛び、地面を転がる。
慌ててそれを追うギコと弟者。
走りながら、彼女の起こすための左手を差し出し――
それが、間違いだった。
- (*゚∀゚)「もらい♪」
声と共に、右前方から刃が落ちる。
ギロチンのように上方から下方へ落ちる赤い刃。
それは途中にあるモノ全てを切り落とさんとばかりの速度と威力を持っていた。
結果――ギコの左手が鮮血と共に舞う。
(;,,゚Д゚)「……ッッ!?」
視界がスロー再生のようにゆっくりと時を刻み始めた。
ゾクリ、またはズクリ、と背筋に何かが這い登る。
視界に見える舞った左手が丁度一回転目を終えた時――
無くなった左手の先から蝕むように強烈な激痛が伝わる。
あまりの痛みに全身の力が抜け、その場で崩れ落ちるように膝をつくギコ。
(´<_`;)「ギ、ギコさん!?」
慌てて駆け寄る弟者と、そして地面に落ちる主を失った腕。
(;,,゚Д゚)「くっ……ぁ……!!」
上腕部から先が無くなった左腕を押さえつけるようにして呻く。
その切り口からは、多量の血が流れ出ていた。
(´<_`;)「いかん」
弟者が懐から布を取り出しギコの左腕を思い切り縛る。
あまりに乱暴な止血だが、やらないよりはマシだ。
- そこでようやく状況を理解したしぃが駆け寄る。
(;*゚ー゚)「ギコ君……そんな……!?」
(;,,゚Д゚)「しくじった……クソっ――!!」
荒い息と共に悪態を吐く。
(*゚∀゚)「あはははははははは! 油断してるからそうなるんだよ!」
前方に姿を現したのはツー。
その顔には昂ぶった表情が見え隠れしている。
大量の血を見たことにより興奮のメーターが一気に上がったのだろう。
しぃはその姿を睨みながら
(*゚ー゚)「許さない――!!」
立ち上がり、手に持つ拳銃をツーに向ける。
(*゚∀゚)「へぇ、それで一体どうするってのさ?
まさか私を殺すつもり?
それなら無理だから――」
声が終わる前に発砲。
- しかし銃弾はツーを捉えきる前に切り落とされた。
(*゚∀゚)「どうだい私の反射神経……ちょっと自信あるんだな、これが」
ケラケラと笑いながら右足を軽く振り回した。
その動作の度に周囲の風がかき回され、異音を奏でる。
(*゚ー゚)「……ッ!」
発砲。
しかし切り落とされる。
ツーの足元に、合計四つの鉛弾の破片が落ちた。
(*゚∀゚)「芸がないねぇ」
つまらなそうに呟く。
しかし銃弾は終わりを告げることなく飛ばされ――
ツーはそれを全て弾き、切り、叩き落す。
(´<_`;)「何と……」
(*゚∀゚)「はいはい弾切れ弾切れ。
次は私の番だけど、死ぬ準備はOKかなー?」
(;*゚ー゚)「……!」
殺気を感じる。
つまらない攻撃を複数回されたことへの苛立ちか。
その殺す意気がしぃに狙いを定め――
- その時。
しぃの華奢な肩にポン、と手を乗せた人物がいた。
(*゚ー゚)「え……」
( ´_ゝ`)「まぁ、待て待てお前ら。
少しクールダウンすべきだと思うが、どうか?」
兄者だ。
先ほどまで安全圏に避難していた卑怯者で卑屈で弱者で珍妙で愚かで――
(;´_ゝ`)「いや、そこまで言わなくても……」
(´<_`;)「地の文にツッコミを入れるとは流石だな、兄者」
そこで、攻撃を止めたツーがかつての仲間であった兄者に問う。
(*゚∀゚)「臆病者のアンタが何の用さ?
まさかその女の盾になるとか言うんじゃないだろうね?」
( ´_ゝ`)「そこまでの勇気があるなら、安全な場所へ逃げはしないさ」
(´<_` )「では、何故ここに?」
( ´_ゝ`)「いや、何……ちょっと気になることがあってな」
言葉と共に、兄者はしぃの腕を掴む。
戸惑う彼女の腕の先にあるのは桃色に輝く指輪だ。
- ( ´_ゝ`)「これを――」
抜き取り、ポケットへ入れる。
次の動作はまったくの逆だ。
同じポケットから今度は橙色の指輪を取り出し――
(;*゚ー゚)「……え?」
その細い指にはめた。
( ´_ゝ`)「いや、実は指輪の相性が悪かったりするかもしれないじゃない。
べ、別にしぃさんのスベスベの手を触りたかったんじゃないからね!」
(´<_`;)「兄者、それはツンデレではなくただの変態だ」
( ´_ゝ`)「弟者、落ち着け――というか黙れ。
さぁ、しぃさん……発動を試みるのだ!」
(*゚ー゚)「は、はい」
しぃが恐る恐る手を掲げる。
瞬間、発光。
橙色の光はしぃを包み――
( ´_ゝ`)「おぉ……やはり俺の勘は正しかった!」
(´<_`;)「勘だったのか」
( ´_ゝ`)「結果オーライというやつだな、うむ」
- 発光が止む。
その姿は――天使だった。
いや、厳密に言えば天使ではなく――しかしやはり天使というイメージを受ける格好だ。
翼。
それが彼女の背に生えていた。
しかし鳥のような翼ではなく、それは機械とも言えるものだ。
硬質な鉄の骨格、そして光り輝く炎のような翼。
それが彼女の背から、堂々と生えていた。
(;*゚ー゚)「こ、これは……」
戸惑いながら、己の背に生えた光羽を見る。
(;´_ゝ`)「な、何だとぉ!?」
突如、兄者が叫んだ。
(´<_`;)「どうした、兄者」
(#´_ゝ`)「こういうのは、魔法少女らしく一旦全裸で変身――」
(´<_` )「OK、俺が聞いたのが馬鹿だった」
そんな兄弟漫才は無視され、ツーが声を上げる。
(*゚∀゚)「はっ、たかが羽が生えただけでどうしたってんだい?
それで私のスピードに追いつけるとは思えないんだけどねぇ?」
- (*゚ー゚)「大丈夫……きっと、大丈夫よ」
(*゚∀゚)「は?」
疑問の言葉と同時に、しぃが翼を動かす。
鈴に近い音が響くと同時に鉄の骨格が動き、追従するように羽が舞い――
飛翔。
一瞬で彼女は数メートルの高さまで飛んだ。
(*゚ー゚)「大丈夫――」
その言葉は己に言い聞かせているのか、はたまた初戦闘を経験する翼に言い聞かせているのか。
真意は解らぬが――
(*゚∀゚)(何かが来るね)
直感。
しかし今までの経験から来るこの直感は、かなりの信頼性を持つ。
ナイフを両手に構え、待ちに入った。
上空。
しぃは目を瞑ったまま、両手を軽く広げた姿勢で浮遊している。
それが数秒続いた頃だ。
突如、翼が展開する。
鈴を打ち鳴らすような音と共に鉄の骨格が伸び
そして更に橙色の翼が広がり、夜に閉ざされた戦場を照らす。
後に続くは、炎の欠片ともいえる羽が宙に散らばり舞い――
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