自伝連作小説『少年時代(16)』 | 物語作家 小説家 森田 享

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小学校の卒業式のことは、よく覚えていない。

そして、小学校生活最後の春休みのことは、まったく何一つ記憶にない。

春休みが終わって、中学校に進学してみると、なぜか私たち仲間はみんな、ばらばらになった。中学校生活が始まることへの、ぼんやりとした不安もあり、よく仲間同士では、中学校へ行っても、ずっと一緒に遊ぼうな、と約束していたような気もするが、学級が別々になったら自然と互いに離れていった。

 

そして、中学生になっても、ごくたまにバギーカーのラジコンを持って、山の方へ遊びに行くことはあったが、もう瀬神ノ森の奥にまで入って行って、遊ぶようなことはなくなった。あの瀬神ノ沼は、ほとんど眼にすることさえなかった。

 

私は、大人になってから、瀬神市民の森として、よりいっそう整備された遊歩道を散歩しながら森の奥へ入って行って、わざわざ瀬神ノ沼を見に行ったことがある。沼は、今はもう妙に綺麗に整備されていて、人造の池のようになっていた。沼としての形は完全に変わっていて、ひどく小さくなったような気がした。どこか不気味で、神秘的にすら感じた、あの瀬神ノ沼の昔の面影は、もうなかった。

 

私の小学校の友達には、父親の転勤に伴い引っ越したり、私立中学校を受験し進学した者もあった。また、私の住む地区の公立中学校には二つの公立小学校からの卒業生が入学してきたし、とにかく中学校では、私の付き合う友達は完全に変わった。

それでも朝は、小学校時代の近所の仲間と何となく集合してから、一緒に登校し下校していた。入学当初は、そうしていたが、運動部活動が始まる頃に変化があった。

その頃の私は、野球に全く興味が無くなっていた。私の今までの友達は、ほとんどが野球部に入ったので、別の運動部に入った私は、彼らと下校することはなくなった。少年の私は、むしろ、ほっとしていた。

そのうちに朝も、野球部の友達と登校するのが何か嫌で、私は集合場所に行かなくなり、学校でも彼らを何となく避けるように成っていった。思春期に入った私の中に、無意識に変化を求める心の動きがあったとしか言いようがない。

 

中学校では、成田美穂のことも、まったく考えなくなっていた。

成田美穂が、私とは別の、他のどの学級にいたのかも、よく知らない。廊下などで、肩が触れ合うほどに近くで擦れ違うようなことがあって、何回かは視線を交わすことがあっただろうか、思い出せない。おそらく、バスケットボール部であった彼女の姿を、体育館で何回かは見かけたかも知れない。けれども、中学生の成田美穂は、私の記憶の中にはいない。それは、彼女の姿を見かけなかったのと同じことだ。

 

私は、自分の新しい学級と自分の部活動のことで、頭がいっぱいになった。学級の新しい男友達は面白くて楽しい奴ばかりだった。女子の顔ぶれは多少新鮮ではあったが、とくに心惹かれる子はいなかった。私は部活動に夢中になって、小学校では体験することのなかった『先輩との上下関係』と言うものの方が、もっともっと新鮮だった。

この時期の少年というものは、先輩の男子に憧れ、そして、一番心惹かれた先輩の男子に惚れることがあるものだ。このとき少年は、先輩の男子を通して、自分の理想の男性像を追い求め始める。

しかし、もちろん、男子としての恋愛の対象は女子なのだが、この頃の私は、不思議と恋には、小学校六年生の時よりも興味が無くなっていた。ただ、恋ではなく、性に夢中だった気がする。

私の運動部の先輩の女子に、小林という三年生がいた。可愛いのに、とても大人っぽい感じで、彼女に抱いた感情も完全に憧れだった。その黒く潤んだ大きな瞳と、ふくよかな右の頬に浮かんだ笑窪に、私は惹きつけられていた。でも、それは、あきらかに恋ではなく、ただ、女性という肉体への憧れだった。

その女子の、細い胴と幅広く厚みのある腰回り、丸みを帯びた大きな尻に、胸の『ざわめき』は抑え切れず、下腹部の奥の方が、じーんと熱を持った。彼女の光沢のある、艶めかしい肌をした太腿に、肉が満ちている。

そんな女子の姿を目にし、輝ける少年時代に別れを告げようとしていた私は、若い雄犬のような呼吸をしながら、中学校の校庭へ走り出さずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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