自伝連作小説『少年時代(9)』 | 物語作家 小説家 森田 享

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 夏休みの間、小学生の男子は、同級生の自分の好きな女子には、ほとんど会うことができない。小学校プール開放の日とか、学習塾の日にちが、たまたま同じになるとか、余程の偶然がない限り、その子の姿を見ることさえできない。まだ、恋だとは思いも及ばないのに、好きな子の姿を何週間も目にすることができないのは苦しく、居ても立ってもいられないのだった。そんな苦悶の一端でも、男友達に打ち明けて楽になりたいと思ったのか、私は八月の熱気が充満している『秘密基地』の中での仲間たちとの雑談の合い間に、成田美穂のことを、さりげなく挟み込んだ。

「生徒集会の朝礼で立っているときさ、貧血で倒れるのは決まって高橋とか成田とか、背が高くて体の大きな女子ばかりだろ?」

私は、仲間の前で『成田』と言うときには、いつも気が急いて、声が上ずらないように注意せねばならなかった。

そのとき私たち仲間は、なんで発育の良い女子ばかりが校庭や体育館で行われる朝の全校集会の整列で立っているとき、貧血になり真っ蒼な顔をして倒れたりするのか、について話し合っていた。

佐藤卓也が言った。

「そうだよな、ほんとに倒れたりするのは女ばかりで、しかも女子の列の後ろの方の、でかい女が多いよな」

 石神や横山が続けて言った。

「男で貧血で倒れるのなんて、いないもんな」

「腹が痛くて、腹痛を我慢し過ぎて倒れた奴はいた」

 中野が笑いながら、「ああ、一学期のときの関だろ」と言ったから、みんなで、どっと馬鹿笑いした。

「関は倒れて、保健室じゃなくて、まず便所に連れて行かれたんだ」

と横山が笑ったら、石神も笑い続けながら言った

「あいつは、ただ、うんこ我慢してただけで倒れちゃったんだぜ、バカだ」

 私は話題を元に戻したくなって、

「成長してマン毛が生え始めた女、高橋とか成田とかは、毎月、アソコから血が出るらしいぞ。だから貧血になるんだ」

と言った。

 佐藤卓也も、女の体への興味津々に続けた。

「知ってる。女は、生理のときにアソコから血が、いっぱい出て、だから貧血を起こして倒れたりするんだ」

 私や佐藤卓也に比べると第二次成長が遅く、まだ精通を迎えていないような、横山や中野が言い合いを始めた。

「あそこって何?」

「あそこだよ。女の股の、おれたちのチンポコの代わりにあるワレメだよ、バカ」

「けつの割れ目? けつの穴だ」

「違うよ。けつの穴の他に、もうひとつ別の穴があるんだぞ、知らないのかよ」

 私は、兄の部屋にあった男性週刊誌か何かから得た知識で、自分よりさらに未成熟な少年たちを性教育し始めた。

「違う。女には、おしりの穴と、前の割れ目のとこに、おしっこの穴と膣の穴があるんだ」

「ちつ?」

「じゃあ、穴が三つもあるんだ」

 佐藤卓也が、

「その膣から毎月、決まって血がいっぱい出るんだってよ、お母さんから、そう聞いた」

と言ったのを聞いてから、

「そうだ。成田とか他の女も、発育の良い女はみんな、もう毎月、月経になってるんだ」

と私が続けて母から聞いた言葉を口にした。『月経』のことを初めて耳にしたような少年たちは、奇妙で不快だという顔をしながら言った。

「ほんとに股にある割れ目から血が出るのかな?」

「おまえバカだな。お母さんだって、そうなんだぞ。訊いてみろ」

「血が出るって、どれくらい出るんだろう?」

と未熟な少年が問うので、私が応えて言った。

「量は分からないけど、一週間くらい血が出続けるらしい」

「一週間も血が出続けたら、死んじゃうんじゃないの」

「死なないくらいに少しずつ一週間、出るらしい」

「ずっと血が出るなんて、なんで血が出てるのを、そのままにして置くんだろう」

佐藤卓也が、

「成田とか高橋とか女は、月経のとき膣から血が出たまま、学校に来てるんだな」

と言ったら、横山も不思議そうな顔をして言った。

「パンツが血だらけになって、服にも血が付いたりしないのかな? 見たことないな」

「お母さんとか、女は、月経のときには、膣にナプキンって物を付けて、血はナプキンで吸収できるくらいの出かたなんだってよ」

 佐藤卓也の後に続けて、私も自分のお母さんとのナプキンに関する会話を話した。

「おれが前に風邪で下痢になって、トイレから出ても下痢が止まらないとき、お母さんがさ、生理用ナプキンを、お尻の穴に当てて置きなさいって言って、治るまで生理用ナプキンで下痢を抑えて置いたことがあった。この生理用ナプキンは、本当は下痢ではなくて、女の月経のときの血を抑えるときに使うものだって言ってた」

 まだ不思議そうな顔をしながら横山が言った。

「でも、なんで怪我した訳でも病気でもないのに、膣から自然に血が出てくるんだろう?」

 みんな全然分からなかった。

 石神と中野が、また言い合いを始めた。

「毎月、血が出るのか……。それで貧血になるんだな」

「なんで毎月なのかな」

「そうだよな、どうして一カ月に一回って決まってるんだよ」

「しょっちゅう血が出たら、死んじゃうだろ、バカ」

「それより、なんのために、割れ目の膣から血が出るんだ?」

「………」

 少年たちの知識は、それですべて尽きたようだった。

「女がセックスして、そのうちに、毎月の、その月経の血が出なくなることがあるらしいんだ。それで、女は自分が妊娠したことが分かるらしいぞ。妊娠している間は、月経がないんだって」

と私は、テレビとか本か何かで得た知識を披露し始めたが、未成熟な少年たちはみんな、目を丸くして聞いていた。

「妊娠って、赤ちゃんがお腹の中にいて膨れるやつだろ?」

「バカ、おまえは黙ってろよ」

「毎月一回、決まって膣から血が出るのも不思議だけど、妊娠したら今度は血が出なくなるのも不思議だな」

と佐藤卓也が言った。

 私は、もっとみんなを驚かせたくて、次の問題を出した。

「その妊娠して膣から出なくなった血は、どうなるか知ってるか?」

「………」

「分からないや」

「どうなるの?」

 みんな目を瞠っている。

「その血がお腹に溜まって、それが赤ちゃんになるんだ」

と、少年の私は得意気に自分だけの空想を語った。

「それ本当の話か?」

 佐藤卓也が私の顔を見ている。

「分からないけど、とにかく膣から出なかった血が、赤ちゃんの体の素になるんだ」

「ほんとかなぁ」

私たち少年仲間は、その後も、女や女の体について持っている各自の、ほんのわずかな知識を披露し合ったが、どれもこれも、あやふやな伝聞とか、誰かの妄想のようなものでしかなかった。

それから、好きな女子とか嫌いな女や、理想の女性について話し合ったが、私にとって重要だったのは、仲間の少年たちは成田美穂が別に好きではなく、何とも思っていない、と分かったことだった。

おそらく、私以外にも、佐藤卓也とか横山とか多くの男子が、成田美穂に恋し初めていたのだと思う。しかし、みんなまだ、テレビのアイドル歌手なんかを好きになり始めたくらいの頃だった。だから、身近な女子を好きになっていることを自覚できないでいたのだ。というよりも、まだ自覚することを、色々な外圧や抑制から、拒否するような時期だった。

ある特定の一人の女子を本気で好きだとか、精通したとか、生身の女のことを想像しながら一人でしている自慰行為は、その年齢の少年たちにとって『公然の秘密』みたいなものなのに、はっきりとはお互いに、まだ、そのことを打ち明けられずにいた。

今にして思うと、この時期は人生おいて、ほんとに貴重な時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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