この「しりとり物語13」というテーマのBlogでは、2018年1月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~しりとり伝言師」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。
 

 

しりとり伝言師~第2話「モッツァレラチーズ」

ひと文字渡して、言葉をもらい、もらった言葉で書を認(したた)める。
渡す色紙(しきし)と引き換えに、ひと文字預り、次なる縁(えにし)へ。
我が名はしりとり伝言師。


その女性は、ランチを終えた後には似つかわしくない、複雑な表情を湛えていらっしゃいました。

「私、悩んでるんです。」
「ええ、そのように見受けられます。」

沈黙が訪れました。このような場面では、不用意に話を繋がない方が得策というケースもございます。穏やかな心で女性の言葉をお待ち申し上げましょう。

「今さら遅いかもしれないし、生活に絶対必要って訳じゃないので、エネルギーとか時間とかお金とかの無駄なのかなぁ…と」

どうやら、お悩みを告げるかどうかをお悩みのご様子です。そろそろ、お返事をしても宜しゅうございましょう。

「お悩みなのはおそらく、それだけあなた様にとって大切なことだからでございましょう。」

すると女性は顔を上げられました。

「そう!そうなんです!分かります?」

まだ何も伺ってはおりませぬ故、分かるかどうかも分かりかねるところではございますが、どうやらその心配は半分になったようでございます。女性は堰を切ったように話し始めました。

「昔からイタリア語を勉強したいと思っていたんです。でも、ぼんやり思っていただけで、なかなかきっかけがなくて…でも、今、やりたいと思っているんです。ただ、結構お金もかかるし、今さら始めても遅いかなぁって…どう思います?」

「お悩み、お察し致します。先ほどお会いした方が『組み紐』をというお言葉を下さりましたので、わたくし、その最後のひと文字『も』をお預かりしております。あなた様には、頭に浮かぶ『も』で始まる言葉を仰って頂きたく存じます。」
「『も』で始まる言葉ですか?…も…も…『モッツァレラチーズ』。」
「さすがはイタリア語にご興味をお持ちの方だけございますね。」

小さな色紙を取り出しまして、筆を走らせます。

「では、参りましょう。認めっ!」

伸びどき知りたるモッツァレラチーズ

続いて、その意味をお伝え致します。

「解釈っ!」
「はいっ!」
「学びの欲求は、冷蔵庫の中のモッツァレラチーズの如く、あなた様の中に眠っておりました。そのチーズは今、にわかに熱を帯び、最も伸びやすい時を迎えているのです。学びもまた然り。熱を帯びている今こそが、最も伸びる時ではございませんことでしょうか。」
「私、イタリア語を学び始めて良いんですね!」
「ご多幸をお祈り致しましょう。それでは、『モッツァレラチーズ』の最後のひと文字『ず』をお預かり致します。」
「ありがとうございました!」

女性は一礼すると、顔を上げました。しかしながら、その視線は既に、わたくしの肩越しに向けられております。振り返るとそこには、イタリア料理レストランがございまして、お店の前でハンサムなイタリア人シェフが手を振っていらっしゃいます。どうやらこちらもお熱いようでございます。

(次週に続く…)

 

この週の採用ワード

 ずぶの素人(しろうと)