【新譜】ラヴェル/ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲集 ブッシュ・トリオ (2022) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

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学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

ショスタコーヴィチの時代 ㉙

最近リリースされた新譜から ㉙

交響曲第8番作曲のあと、1944にピアノ三重奏曲第2番と、弦楽四重奏曲第2番が作曲されました。それぞれ作曲動機は異なるものと思いますが、いずれも戦時末期に作曲された、ショスタコーヴィチの音楽の神髄の詰まった作品となっています。今回は、リリースは少し前(2023/10)にはなりますが、最新録音でのピアノ三重奏曲第2番を鑑賞してみたいと思います。

【CDについて】

作曲:ラヴェル

曲名:ピアノ三重奏曲イ短調 (27:10)

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:ピアノ三重奏曲第2番ホ短調 op67 (24:36)

演奏:ブッシュ・トリオ

録音:2022年10月11-14日 ベルリン Teldex Studio

CD:ALPHA1002(レーベル:ALPHA)

 

【曲と演奏について】

ラヴェル:ピアノ三重奏曲

このCDは、ラヴェルとショスタコーヴィチのカプリングですが、いずれも第三楽章がパッサカリアであること、それぞれ第一次大戦と第二次大戦にかかわるという共通点があるとのことです。大戦へのかかわりはそれぞれで、ラヴェルの方はフランスの参戦が決まった時に、いてもたってもいられずこの曲を書き上げ、フランス軍に従軍したとのことで、ショスタコーヴィチは大戦の影響は勿論大きいのですが、親友であったソレルチンスキーへの哀悼の曲でもあります。

 

さて、ラヴェルのピアノ三重奏曲は、ラヴェルらしいとても色彩豊かな曲です。華やかな管弦楽で聴くラヴェルの音楽が、この編成でも湧き出しているのは驚くべき事かもしれません。ラヴェルはこの編成で、湖の響きを出すのに相当苦労したと言われますが、音の魔術師とも言われるラヴェルの面目躍如というところでしょうか。ブッシュ・トリオの演奏も、その響きを存分に引き出した演奏で、素晴らしいと思います。残響も多めで淡い感じで仕上がっている感じがします。

 

ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番

ショスタコーヴィチは、親友で苦楽を共にしたソレルチンスキーの死にあたって、哀悼の曲としてピアノ三重奏曲を作曲しました。故人の哀悼のためにピアノ三重奏曲を作曲するというのは、チャイコフスキーやアレンスキー、ラフマニノフの作品でも有名な、ロシアの伝統ですね。そのソレルチンスキーという人物は想像するに超人的な天才で、32ヶ国語を話し、本はページ単位で読んでいたと言われます。専門は言語学ですが博学者で、音楽分野では批評家、音楽学者として活躍しました。レニングラード音楽院の教授、レニングラード・フィルハーモニーの芸術監督も務めています。著名な雄弁家として各地を講演して回りました。

 

ソレルチンスキーは、「ムツェンスク郡のマクベス夫人」を高く評価し、誌上でも「ソ連の音楽文化への多大な貢献」であると評していました。そして、ショスタコーヴィチに対する1936年のプラウダ批判の際に、ソレルチンスキーは、西洋の作曲家の作品を紹介することでショスタコーヴィチの「形式主義的」な音楽に影響を与えたとして非難され、以前の発言を撤回するよう圧力をかけられます。ソレルチンスキーは安全を懸念して、ショスタコーヴィチから指示があるまで「マクベス夫人」を批判しませんでした。この批判によって両者の固い友情が損なわれることはなかったと言われています。

 

献呈されたこの楽曲について、ソレルチンスキーの妹であるエカテリーナは、活気のある第二楽章はソレルチンスキーの音楽的肖像画のようであり、第三楽章は厳粛な哀歌、あの弦楽四重奏曲第8番に転用されたユダヤの旋律で有名な第四楽章は、ホロコーストヘの言及であるとも考えられると語っています。ソレルチンスキーの出身地であるヴィーツェプスクは、戦前は多くのユダヤ人が住んでいた町でしたが、独ソ戦によって占領されたのち、ゲットーが建設され、残留していたユダヤ人は虐殺されたということも関連があるとも言われています。

 

さて、前置きが長くなりましたが、この作品はショスタコーヴィチの当時の心情が色濃く出た音楽だと思います。静かな開始、明るいスケルツォ、切々とした哀歌、ユダヤの旋律から消え入るように終わるラストへとと見事に構成された作品で、非常に明快かつ雄弁な音楽だと思います。ショスタコーヴィチの音楽や心情が最もストレートに表出した作品の一つともいえるのではないでしょうか。そんなこの曲を若きブッシュ・トリオが、迷いなく見事に演奏しきったという感じのCDでした。

 

この曲の名演の一つにアルゲリッチ・クレーメル・マイスキーによる録音がありますが、以下のリンクは、後年にメンバーを変えて演奏されたライヴの模様です。より切迫感がある演奏になっていると思います。

 

購入:2023/11/10、鑑賞:2024/02/02