グレイト ~節目となったCDから3選~ ③
シューベルトのグレイトを再び確かめる特集の第3回です。もう最終回になってしまいました。今回は、ブリュッヘンと18世紀オーケストラの演奏です。いろいろグレイトに憑かれたように聴いてきた時期があったのですが、ある意味これが一つの終止符というか、普通の状態に戻ったという節目の演奏であったと思います。もちろんその後も聴いていますが、これで落ち着いたという感じですかね…。
【CDについて】
作曲:シューベルト
曲名:交響曲第9番ハ長調 D944 (55:54)
演奏:ブリュッヘン指揮、18世紀オーケストラ
録音:1992年3月 ユトレヒト Vredenburg
CD:438 006-2(レーベル:PHILIPS)
【曲について】
この交響曲は作曲当時としては非常に長く、オーケストラにとって演奏が難しいものでした。作曲当初は、ウィーン楽友協会からは演奏を拒否されており、メンデルスゾーンによる初演後も、パリやロンドンで演奏しようとしたときは、オーケストラに演奏を拒否されています。ロンドンでは、ヴァイオリニストが最終楽章の第2主題のリハーサル中に笑い崩れたと言われています。
【演奏について】
このCDを買ったきっかけはよく覚えていないのですが、なんとなく目についた程度ではなかろうかと思います。グレイトを見つけたら、なんとなく買ってしまうという時期だったのです。ブリュッヘンについては、リコーダーの人というイメージで、こと古楽器演奏に関しては、当時私は異端視していたきらいもあって、ほとんど聴いていませんでした。ただ、シューベルトの古楽器演奏は当時はかなり珍しいものだったと思いますし、グレイトだからこのCDを買ったことは間違いないのです。そして、実際聴いてみるとかなり衝撃的だったのでした。
今や、いろいろなHIP演奏を聴いた中でこの演奏を聴くと、しごく真っ当な演奏に聴こえてしまうのも不思議な所ですが、最初の印象は、リズムの彫りが深く表現内容の濃い演奏で、演奏の流れも私の思い描いていたグレイトのイメージに符合してしまいました。そして、古楽器演奏のスタイルでこういった切れのいい演奏を出してくるのは、ある意味反則技だぞ…、と思ったりしたのですが、実際面白いから仕方がないのです。そして、モダンオーケストラをいろいろ聴き比べて細かい所で良し悪しなど考えていた状況からは、解き放されてしまいました。その後あまり執着が無くなったというか。演奏のいろいろな可能性を強烈に教えてくれた録音かも知れません。
現時点で、再びこの演奏を聴いてみます。いつものごとくゆったりと始まり加速していく感じは、しっくりと波長があいます。素晴らしい導入です。古楽器の暖かい柔らかな音に包まれますが、主部に入っていくとリズムの刻みなどよりはっきりしています。これは極端に刻みを強調するという風でもなく、大変品のいい感じがします。そして、適度にアゴーギクが入りながら進んでいきます。第二楽章はとても聴かせる演奏で、この曲の素晴らしさの新たな発見です。一方、第四楽章は急ぎ過ぎではと思うくらいですが、時々遅くなって息をつかせてくれる部分もあり、バランスはいいと思います。HIPの特徴で売るという演奏ではなく、真摯に曲を追求している感じがとても好ましく感じました。
【録音について】
音は柔らかな雰囲気がとてもよく捉えられていい感じでした。バランスや細部の明晰さについてはよく解らないのですが、演奏の性格もあると思います。
【まとめ】
3回シリーズは、これで終了です。ありがとうございました。好きな演奏はもちろんこの3枚だけでなく、いろいろとあるのですが、それはまた追々聴いてみたいと思います。この曲のCDが増殖していく傾向は、現時点でも続いています(笑)。
購入:1993/09/19、鑑賞:2023/12/02(再聴)
過去2回の投稿のリンクをつけておきます。