「みこの御意見にいをとなえるようで恐縮ですが、わたしはどうも、真珠のようにそれ自体で美しいものには、それだけ不吉なところがあるようなきがしてなりませぬ。」
~中略~
「これも良く知られた道家の典籍の一つですが、
つねづねわたしの愛誦している『淮南子』の説林訓に次のような一節があります。
すなわち、明月ノ珠ハ虫尨ノ病ナレドモ我ノ利ナリ。虎爪象牙ハ禽獣ノ利ナレドモ我ノ害ナリ。
虫尨というのは貝の一種だそうです。
わたしたちは見かけの美しさに目をくらまされているけれども、
要するに真珠というのは、貝にとっての病気のほかならないのですね。
病める貝の吐き出した美しい異物、それが真珠です。
そういえば修行中の釈尊を誘惑せんとした悪魔のむれも、美しい見かけの下に病めるこころをかくしていた
のではなかったしょうか。
病気だから美しいのか、美しいから病気なのかはよく存じませぬが、この二つがどうやら相関関係を有しているのはまぎれも無い事実のようで、
以下略
P-183 高岡親王航海記 澁澤龍彦
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【虫尨】一文字なんだけど、辞書に探せなかった。
●読んでる時、 真珠にたとえるべき具体例が思い浮かびました。