想い出に変わるまで

想い出に変わるまで

よーし、小説書いちゃうぞ!

もちプロット、推敲なしだぞー思いつくままに適当に書いちゃうぞ!

キャラクターだってその場その場で作っちゃうぞーノリノリだぞー!

たぶんラブコメです。まとまりもなく、いつ終わるのか分かりません。
Amebaでブログを始めよう!

「なんだか、いろいろありすぎて疲れてしまいました」

あゆみさんは、そういうと畳の上にぺとりと座り込んでしまった。

沖縄から出てきて、羽田空港でうろうろして、この屋敷に来るまで騒いでいれば疲れるさ。

「食事の準備が出来たら、呼びに来ますから、休んでいてください」

「何から何まで、すみませんね」

あゆみさんの笑顔付きお礼。

この笑顔を見られるだけでも、彼女を引き取ったかいがあると言うもの。

思わず、あゆみスマイルに見とれてしまう。

お互い、見つめ合ったまま。

窓からは春風が入り込み、春のにおいを運んでくる。

あゆみさんの髪は風に流され、美しさを倍増させる。

心なしか、あゆみさんの瞳が潤んで見える。

唇は怪しくいろついている。

「あゆみさん……」

思わず、彼女ににじり寄ってしまう。

彼女と会ったばかりなのに、初対面だという気が全くしない。

昔からの知り合いだとさえ思えてくる。

彼女と向き合っていると、心からほっとする。

彼女とキスをしたい。

今、誰と寄りも、彼女とキスがしたい。

唇と唇を重ねたい。

そうすることで、彼女との距離が一気に縮まるはずだ。

「龍太くん……いいですよ」

「え?」

あゆみさん、今なんて言った?!

いいですよって、言ったよな。

何がいいんだ? 何をしていいんだ?

キスしてもいいのか? 彼女にキスを求めてもいいのか?

今日あったばかりなのに? あったばかりの男にキスを許してくれるのか?

「キスしてもいいですか?」

「ええ。いいですよ、龍太くんなら」

彼女の笑顔を見ると、理性など吹っ飛んでしまう。

「……」

ここでたじろいでいては男が廃る。

俺はあゆみさんの前に座ると、彼女の神に手を伸ばし、髪をかき上げた。

柔肌のうなじが目に入る。

あゆみさんは軽くうなずくとゆっくりと目を閉じた。

俺もあゆみさんの顔を近づける……。

春風がカーテンを大きくなびかせた瞬間……。

部屋中に安っぽい音色の着メロが流れ出した。

「電話ですか?」

あゆみさんが、目を開け俺を見ながら言った。

どうやら、キスはお預けみたいだ。

おれは、ポケットから形態を取りだし、液晶を見る。

見知らぬ番号からだった。

出るのに躊躇したが、このキスを奪った相手を確かめてやることにした。

確かめて、文句の一つでも言ってやる。

「もしもし」

「あ……岩上さんの携帯ですか?」

何となく聞き覚えのあるような女の子の声。

「そうだけど? どなたですか?」

「あ、私です。今朝駅前でお世話になった、冬原希美です」

「希美……ああ、のぞみちゃんか」

聞き覚えがあるはずだ、今朝駅前で道に迷っているところ、声をかけた女の子だった。

あゆみさんが、俺の肩をつつく。

「お知り合いですか?」

「ええ。ちょっとした知り合いです」

「あのですね……」

「どうかしたのかな? また道にでも迷った?」

「はい……まよいまぁしたぁぁあぁぁあぁぁあっぁ」

お約束通りに道に迷ったか、希美ちゃん。

泣き出しそうなのを一生懸命こらえているみたいだ。

「で、今どこにいるの?」

「え……教えてもらった通りに、路面電車乗って、坂道登って……」

女の子の半泣き声というのも、なかなか色気があっていいもんだ。

もう少しこの声を聞きたいが、あまり長引かせるのもかわいそうだな。

「何か近くに目印になるものないかな?」

「目印ですか?」

「古びた洋館があります。暗くてよく分からないけど、そうとう変わってる屋敷です」

それって、まさか……。

「あのさ、その洋館の屋根に風見鶏ついてるかな?」

「風見鶏って、鶏のですよね? ついてますよ」

知っている、屋根に風見鶏がついている洋館を知っている。

「そこで待っていて、すぐに行くから」

俺は電話を切った。

あゆみさんが、楽しそうに俺の顔を見ている。

あゆみさんとさっきの続きをしたいけど、希美ちゃんのところに行かないと。

「あゆみさん、ちょっと行ってきますね。部屋で休んでいてください」

「はい。お気をつけて」

俺は奪取で部屋を飛び出し、階段を下り、靴を履き、玄関の引き戸を開け、門を開け、坂道を駆け抜ける。

最初の角を右に曲がると……。

冬原希美がいた。

今にも泣き出しそうな顔で立っていた。

俺お顔を見た瞬間、安心したのか、目から涙があふれ出し……。

希美ちゃんは俺に駆け寄ってきて、抱きついて泣いた。

「希美ちゃん……」

「すびばせん……ううぅぅうう」

「もう怖くないからね」

「はい……」

よっぽど不安だったのか、希美ちゃんは震えていた。

俺は小さくふるえる希美ちゃんを、抱きしめた。

「すみません」

希美ちゃんが顔を上げ、俺の顔を見上げた。

「今日はもう遅いから、うちに泊まるといいよ」

「え? でもなんか悪いです」

こんな訳ありの子をほっとくほど、俺はひどい男ではない。

「部屋はあるから、心配いらないよ」

俺は希美ちゃんの頭を軽く撫でる。

「あ……ご迷惑ばかりおかけしてすみません」

希美ちゃんが俯いてしまった。

「いいから、いいから。さ、行こう」

「はい……」

俺は、希美ちゃんを連れて門を潜った。

門を潜ったところで、希美ちゃんが足を止め、屋敷を見上げる。

「どうかした?」

「あの……この屋敷……」

「あ、今時珍しいだろ?」

希美ちゃんが、自分の鞄をあさり、一枚の写真を取り出した。

その写真をのぞき込む。

そこには、屋敷が写っていた……なぜ?

「この写真に写っている屋敷って……」

「はい、私が探していたお屋敷です」

「……これってここだよね」

写真と屋敷を見比べる、まさにうり二つ、まさにこの場所で写した写真だった。

「…やっと見つけた、門で気がつきませんでした」

確かに、この屋敷の門は大きく、屋敷の中を伺うことは出来ない。

壁も高いしな。

裏に回れば、洋館風だし、まさか表が武家屋敷風だとは誰も思いはしないだろう。

「希美ちゃんが探していた家ってうちだったのかーなんだーそうだったのか」

「あの……つかぬ事を伺いますが……龍太さんはこのお屋敷のご長男でいらっしゃいますか?」

なんだか、さっきから希美ちゃんの態度が硬くなってきている。

「うん、この家の長男だよ、駄目兄貴ってやつさ」

「……」

希美ちゃんは俺の顔を見ると頬を赤らめて、俯いてしまった。

さっきから俯いてばかりだな、希美ちゃん。

「ま、こんな所にいてもしょうがないし、中に入ろう」

俺は、希美ちゃんの手を取り家の中へ。

……玄関には美佐枝が仁王立ちをしていた。

その後ろで、なにやら楽しそうな表情のあゆみさんが見える。

「や、ただいま」

無言のまま、俺を睨む美佐枝。

「さ、あがって、希美ちゃん」

「あ、はい……お邪魔します」

いそいそと靴を脱ぐ、希美ちゃん。

バランスを失い、顔から床に激突したり。

片足を後ろに折り曲げたまま、ぴょんぴょん跳ねて壁に激突したり。

かなりのどじっ子属性を持つ、希美ちゃん。

それを見て、くすくす笑っているあゆみさん。

あゆみさんに悪気があるわけではないと信じたい……。

「お兄ちゃん、このどじっ子はなんなんですか?」

ついにこの張りつめた空気と、不釣り合いの希美ちゃんの存在が、気になりだしたようだ。

「あ、えーと……冬原希美ちゃん……ちょっとした知り合いの子」

「なぜちょっとした知り合いの子をうちに連れ込んでいるんですか?」

「あうあう」

希美ちゃんが何かを言おうとしたが、美佐枝の気迫に負けてしまったようだ。

気迫に負けて、半泣きになってるよ……せっかく安心したと思ったら、これだしな、泣きたくなるよな。

「連れ込んだ訳じゃないよ……迷子で困っていたし、もう暗いから今晩泊めて上げようと思っただけだよ」

希美ちゃんを見ているとあまりにも不憫だから、安心させるため頭に手を置いた。

「今晩泊めるだけだよ」

「……まったく、お兄ちゃんは人がよすぎます」

美佐枝が嘆息した。

「どうやらお許しが出たようだ」

こういう時は美佐枝の気が変わらないうちに、次へ次へと駒を進めてしまうに限る。

「あ、はい! ありがとうございます。お世話になります」

とりあえず、希美ちゃんを俺の部屋の前部屋が空き部屋になっていたので、そこに連れて行き落ち着かせた。

「少し、ここで休んでいて……晩ご飯の支度が出来たら呼びに来るからさ」

「あ、私もお手伝いします……」

「ありがとう。でも疲れてるだろ? 少し休んだ方がいいよ」

俺がドアを開け部屋を出ようとした時……。

「龍太さん……ご両親から何かお聞きになっていませんか?」

いきなりの神妙な声で希美が聞いてきた。

「何をかな?」

「……お聞きになっていないのですね」

希美がかなり残念そうに言った。

「よく分からないけど、また後でね」

「はい」

俺はドアを閉め、開始たの居間へ向かった。

居間では美佐枝が一人、夕ご飯の支度をしていた。

いきなり増えた人数分を作るのにかなり手間取っている感じだ。

そんな美佐枝に俺は……。

「何か手伝うことあるか?」

美佐枝が各席に食器を並べながら、顔を上げ答える。

「お兄ちゃんは見ているだけでいいですよ」

「でも、それじゃ……」

「お兄ちゃんは私のことを見ていてくれれば、それでいいんです」









俺たちはぐたぐたになりながらも、地元の街へと帰ってきた。

俺と琴音は、あゆみさんに翻弄されっぱなしだった。

沖縄から出たのが何年も前だと言うことで、こちらの街の進歩速度に驚き、そして興奮し、さらに天然ボケを発揮し、俺と琴音を困らせた。

沖縄だって街は進歩してるだろうに……。

一同は、なんとか路面電車まで乗り込み、後一停車場で、自宅まで後数分の位置までやってきた。

「路面電車なんて乗るの何年ぶりかしらね」

周りをキョロキョロと見回しながら、人差し指を口の脇に持って行く。

こういう、あゆみさんの仕草が子供っぽくてかわいい。

俺の周りにいる、女の子にはいないタイプで新鮮だ。

ぎゅりぎゅり

「はうあ!」

いきなり足をすごい力で踏まれ、ぐりぐりされている。

マジで痛い。

「アンタ、あゆみ見て何イヤらしいこと考えてんのよ」

琴音がすごい吊り目で俺を威嚇してくる。

「痛いって、ぐりぐり止めてください……」

「アンタが、イヤらしいこと考えてるからでしょ」

「イヤらしい事って何だよ」

「うるさい!」

最後に強烈な、グリグリをされた。

俺は踏まれた足を抱え込み飛び跳ねる。

コレじゃまんがだよな。

「くすくす」

「?」

あゆみさんが俺を見て笑っている。

「龍太さんっておもしろいんですね」

「……あゆみさんに言われてしまった」

「あらどうしてですか? 私なんてつまらない女ですよ? 龍太さんと一緒にいると飽きませんよ」

なんか俺とあゆみさんいい感じなのか?

今だって俺とあゆみさんは視線を合わせて、笑顔を向けてくれてるし。

ま、まさか、あゆみさんは俺に一目惚れしてしまったのか?!

「どうしたんですか? 顔真っ赤ですよ?」

あゆみさんの手が俺の額に伸びる。

「あのーあゆみさん?」

「うーん……熱はないみたいですね」

「こっほん」

琴音の咳払いが聞こえたような……またしても俺ピンチなのか?

ギリギリ、俺は蒼白になりながら、琴音の方へと向く。

そこには、さっきよりさらに吊り目になった琴音さまが俺を睨んでいた。

「イヤ、コレは誤解なんだよ」

「あれ? 言い訳するんだ……言い訳するようなやましいことしたんだ」

「うっ」

「あらあら。どうしちゃったんですか? 琴音ちゃん目怖いですよ? 目悪いんならめがね掛けた方がいいわよ」

「あわわ。この空気を読めなさ……完全に宣戦布告だ…・・・」

ブチ!

ブチって確かに聞こえた、琴音のこめかみ辺りからブチって確かに聞こえた。

その証拠に、周りの乗客も琴音を何事かと見ている。

「もうしらないから」

琴音のことだから、もっと言い返すか、俺に矛先を向けて攻撃でもしてくるかと思ったが、あっさりと一言だけだった。

「ひなた丘ぁーひなた丘ぁー」

シンと静まりかえった車内にアナウンスが響き、ドアが開いた。

琴音が路面電車から下車し、自宅の方へと続く坂道を駆けていった。

「あらあら。琴音ちゃん怒らせてしまいましたね」

「あゆみさん、わざとでしょ? それより降りますよ」

「あ、はいはい」

俺と琴音さんは路面電車から降り、路面電車が発車するのを待って歩き出した。

「さて、どうしたもんですかね」

実際、困った、このままあゆみさんを琴音の家に連れて行っていいのかどうか。

「何がですか?」

やっぱり、何も考えていない、あゆみさん。

「だから、喧嘩したばかりなのに、顔合わせづらくないですか?」

「……あらあら、大変確かにそうですね。私どこへ泊まればいいのでしょう」

あゆみさんは大学受験のために上京してきたのだ。

下宿先に、古くからの友人である、琴音を頼って。

「とりあえず、お茶でも飲みながら……と言いたいところですが、ここら辺住宅街だから、そんな場所無いしな……」

「それだった、いいアイデアがありますよ」

あゆみさんが、目をキラキラと輝かせながら言った。

何か非常にマズくもあり、かなり嬉しい予感がするのだが。

「お兄ちゃん? 停車場でなにやっているんですか?」

背後から、よく知った声がした。

妹の美佐絵が笑顔で立っていた。

「帰りが遅いから、迎えに来ましたよ」

「……遅いって、まだ夕方の6時じゃないか」

「実は何か嫌な予感がしたんです。お兄ちゃんの身に何かよくない出来事が合ったのかと思い、いても立ってもいられずに来てしまったのです」

その予感は当たっていそうな気もするが、しかし妹が心配して向かえに来るなんて、普通は兄が心配して迎えに行くもんだろうに。

「龍太さん、こちらは?」

「お兄ちゃん、この女性<ひと>はどなたですか?」

「えっと、妹の美佐絵で。こっちの人が高月あゆみさん」

妹の直感か、女の直感か、美佐絵が俺を睨みつつ言う。

「おきれいな人ですけど、お兄ちゃんとどういったご関係ですか?」

「えーと、あれだよあれ! そうそう、琴音の友達で」

「龍太さんのお友達ですよ」

「そうそう、お友達なんだよ」

お友達かよ……さっきまでのいい感じの雰囲気は何だったんだよ。

「お友達ですか、それにしてはお兄ちゃんと話す高月さんの顔が楽しそうでしたけど」

「お友達ですから、お話しするのは楽しいですよ?」

「そうですかね……恋する女性のお顔でしたよ」

「こ、恋いって……ま、まさかあゆみさん、俺に……」

美佐絵がいきなり俺の手を取って歩き出す。

「さ、帰りますよお兄ちゃん」

「ち、ちょっと」

情けない兄はズルズルと引きずられていく。

その姿がどう見えたか知らないが、あゆみさんがクスクス笑っている。

この人の笑ってる顔……好きだなと思った。

坂道をズルズルと引きずられていく、女の意地なのか、ただのバカ力なのか、美佐絵の腕力に驚く。

「なあ、美佐絵、そろそろ離してよ」

「だめです! 家につくまで絶対に離しません、それに」

美佐絵はいきなり立ち止まり、後ろを振り向く。

「なんで高月さんがついてくるんですか?!」

俺たちの後を笑顔でついてきた、あゆみ。

「あらあら。お邪魔だったかしら」

「そう思ったら、帰ったらどうですか?」

「……いろいろと事情がありまして、帰りたくても帰れないんです」

あゆみが少し寂しげな表情を見せた。

「下宿先にでも行ってください、いつまでもお兄ちゃんの後追いかけてこないでください」

「美佐絵、言い過ぎだぞ。あゆみさんは泊まるところがなくなっちゃって、困っているんだよ」

行き先を無くしたのは自業自得だけどね。

「お兄ちゃん、さっきから悪い予感がするのですが……まさかこの人を家に泊めたりしませんよね?」

「ははは。そんなことするわけ……」

俺はちらっとあゆみさんを見た。

あゆみさんが俺に助けを求めている視線を感じた。

一方的な、誤解だとしても言い。

ここで、もし彼女を見捨てるようなことしたら、俺は……俺は……。

「あゆみさんがよければ家の空き部屋を使ってもいいですよ」

俺の言葉に思わず驚く美佐絵。

信じられないといった顔だ。

「あらあら。本当によろしんですか?」

「ええ、部屋なら余ってますし。困ったときはお互い様ですよ」

俺の申し入れで、あゆみさんの顔から不安が消え去り、笑顔がもどった。

そう、俺は彼女に不安そうな顔をして欲しくなかった、笑顔を見せて欲しかった。

笑顔だけを見せていて欲しい。

俺はこの笑顔を見たいがために、彼女を見捨てることが出来なかったのだ。

俺の家はひなた丘の上にある。

名前が表すように、日当たりがよく、ここいらで名の通った住宅街だ。

その中でもひときわデカいのが我が家。

何でもご先祖さまが、ここで温泉宿を開業しようと企み、温泉を堀りながら宿まで建てたが結局温泉が出ずに、ただの広い屋敷になった。

その後、代々の当主が、自分の趣味に合わせ、この家を改築したり増築したりするもんだから、一体何風なのか分からない屋敷となってしまったのだが……。

俺の祖父ちゃんが当主の時に祖父ちゃんが剣豪物小説に憧れ、屋敷を改築して武家屋敷バリにしてしまったので、外から見ると武家屋敷に見えないこともない。

もっとも裏に回れば、曾曾祖父時代の洋館の面影も色濃く残っていたりする、訳分からない屋敷なのだ。

美佐絵が門を開け、敷居をまたぎ、家の中へ入っていく。

その後を俺、さらにその後をあゆみさんがついてくる。

「龍太さん……」

「あまりのバカさ加減な屋敷に驚きました?」

「それもありますが……何かこう懐かしいものを感じます」

あゆみが屋敷を考え深げに見ている。

「木造屋敷ですからね、懐かしく思えたんですよ」

「この屋敷に見覚えがあるんですよね。小さい頃にここに来たような」

屋敷の中に入り、俺はあゆみさんに空き部屋をいくつか見せて回った。

「どの部屋がいいですか?」

「えーとですね……どこでもいいんですか?」

「今、俺と美佐絵しかいないから、空いてればいいですよ」

「龍太さんの部屋の隣がいいかなーなんておもったりして」

「いいですねーもう俺の隣部屋にしましょう」

俺はそう言うと、俺の左となり部屋に駆け込み、部屋にあるゴミをすべて庭に放り出した。

畳を急いで拭く、障子を開け、窓を開ける。

もう何年も使っていない部屋だから、空気の入れ換えをしないと、湿気クサくていけない。

部屋には木目調の机と部屋の片隅にクロゼットが残った。

「まままあ、素敵なお部屋ですね」

あゆみの顔が少女のようにキラキラ輝いた。

「荷物置いたら、夕食にしましょう」

「はい」

開けた窓から風が入り込み、あゆみさんの髪を流す。

あゆみさんは目を細め。

「私の新しい物語がここから始まるんですね」

と美しい声で言った

俺はそんなあゆみさんに見とれた。

俺は羽田空港を甘く見ていた。

人の多さ、広さが俺たちの街の駅前よりはるかに広い。

想像だにはしていたが、ここまでだとは思わなかった。

琴音は、テンションの天井を突き破り青天井コースに突入してしまい……。

目をグルグルと回転させながら、辺りを見回している。

「この人混みの仲から、探し出せるかな」

「……とりあえず、沖縄からの到着便を調べようよ」

俺は琴音を促した。

……で。

問題は使用している航空会社なわけだが……。

当然、琴音が知っているわけがない。

なにせ、沖縄に住む友達が、電車で東京に来ると信じて疑わなかったくらいなのだから。

「沖縄からの到着便の時刻を調べよう」

「うん」

空港と言えば、よくドラマとかに出てくる時刻案内板があるはずだ。

きっとあるはずだ。

うん、絶対にあるはずだ。

俺と琴音はキョロキョロと辺りを見回すがない。

ちなみにここは、羽田空港第一ターミナルの地下一階っぽいところ。

っぽいところと言うのがミソなのだ。

辺りを見回したがどこにもないようだ。

「ないね……ここ空港じゃないのかな」

「あはは、寝言は寝てから言ってよ」

俺は、エスカレータを見つけ、上の階にいくことにした。

琴音は不安そうに俺の後を黙ってついてくる。

琴音……さっきまではしゃいでいたのに、すっかりおとなしくなっちゃって。

全く身知らずの土地で不安になるところなんて、年相応の女の子らしい。

いつも大人しく振る舞っていればいいのに。

「龍太……またロクでもない事考えてたでしょ」

「うっ」

「アンタの考えてることぐらいお見通しなんだから」

人間、相性がよすぎるのも問題だ。

地下一階の上は到着ロビーっぽいところだった。

「あー。あったよ時刻案内板」

到着ロビーなんだから無くちゃ困るわけだが。

「えーと、午前中に沖縄から到着する便は……」

「3本だね。3本のうち、2本がこの第一旅客ターミナル到着、残り1本が第二旅客ターミナルか」

到着時刻は当然3本ともズレている。

「思っていた以上に本数が少なくてたすかったね」

「そうだね」

「あー安心したお腹空いちゃった」

「俺もお腹空いたよ。何か食べようか」

「うん」

「おごり?」

俺は琴音に一番重要なことを聞いた。

「どーうしよーかなー」

「おいおい、朝電話でおごってくれるって……」

「ふふ。冗談よ、ココまで付き合わせちゃったんだからおごるわよ」

「よかった」

安堵で息が漏れた。

俺たちは第一旅客ターミナル2階にある、軽食屋に入った。

琴音はナポリタンとレモンティー。

俺はミックスサンドとジンジャエール。

「よく考えたら、二人だけでこうして遠出するって、久しぶりだね」

琴音がストローでグラスの氷をカラカラと回しながら言った。

「俺たち、あまり遠出出来なかったもんな……」

「そうそう、誰かさんがお兄ちゃん離れ出来なくてね」

「ま、あれはあれでかわいいところあるから」

「龍太は妹には甘いからね……」

俺は黙ってミックスサンドをほおばる。

その隙にミックスサンドについてきた小さなタコさんウィンナーを琴音がつまんだ。

「あー! 俺が楽しみ取っておいたタコを!」

「ウィンナーくらいで騒がないでよ」

「琴音が食べるからだろ、自分のナポリ食べろよな」

「だって、おいしそうだったんだもん」

「それを分かっていながら、食べないでくれよ、とほほ」

「しょうがないなーほら、あーん」

いきなりスパゲティーを巻き付けたフォークを差し出す、琴音。

「な?!」

「ほら、あーん」

周りの視線を覚悟で……。

「……あー」

何か横で、やたらと熱い視線を感じる。

「羨ましいですね」

「「!!!!!!!!!!!」」

俺と琴音二人して同時に姿勢を正す。

そーっと、横を見ると、そこにはニコニコと笑顔の女の子が立っていた。

「あ、あゆみ? なんでココにいるのよ……」

「乗ってた飛行機がここについたもので」

「飛行場だしね」

「そうですよねー飛行場ですものねー。琴音ちゃん不思議なこと聞くんだから」

俺達に熱い視線を投げかけた女の子は、おそろしくマイペースな子だった。

「だって、沖縄発の飛行機、まだ到着したのないじゃない」

琴音がこの天然系の子に突っ込んだ。

「あら。そう言えばそうですね……なぜでしょう……」

彼女から『「?』マークのオーラが見えた気がした。

「もういいわ、あゆみ」

「え? そうですか」

「琴音ちゃん、こちらの方は?」

再び、俺に熱い視線を送る、あゆみと呼ばれた彼女。

「元カレの岩上龍太よ」

「あー何度も、何度も話を聞かされた、あの彼ですねー」

俺の知らないところで何度も、何度も話題になってたのか。

いろんな意味で複雑。

「はじめまして、岩上です」

「はいはい、私は高月あゆみです」

あゆみちゃんが右手を差し出す。

「?」

「握手ですよ、握手」

「ああ」

俺はあゆみちゃんと握手をした……本当にマイペースだな。

「手、暖かいんですね」

「え? そうですか?」

「手が温かい人に悪い人はいないって聞いたことありますよ……。龍太くんはいい人なんですね」

「あは、そうですか? あゆみさんの手だって温かいし、柔らかいですよ」

「あらあら、それって私を口説いてます? 会っていきなり口説かれるなんて、驚きですね」

「ゴホン! いつまでも手を握り合ってるのかしら?」

いい感じの俺たちの間に割って入ってくる、元カノの琴音。

「あらあら、ヤキモチ焼いてるのかしら、琴音ちゃんは」

「ち、違うわよ! こんな所でイチャつかないでもらいたいわ」

「……うーん、そうですね。琴音ちゃんの前で元カレと手を握り合っちゃいけませんよね」

あゆみちゃんが、満面の笑顔で反撃不可能な嫌味攻撃をした、天然って怖いな……。

高月あゆみ。

年齢は俺と琴音と同じ20歳。

見た目はおっとり系美少女。

性格は超マイペースで超天然。

髪はすごく綺麗な黒髪でロングのストレート。

服装はカジュアル系、セーターは白。スカートは茶色のコールテン生地。

「さて、そろそろ私はおじゃまみたいなので、帰りますね」

あゆみちゃんが深々と頭を下げて、立ち去ろうとする。

「ちょっと、あゆみ」

「え? 何か用かしら?」

「あんたね……その大ボケ直しなさい」

「?」

「来年の大学受験のためにうちに下宿するために、沖縄から出てきたんでしょうが」

「……あーあーそうでした。すっかり忘れてました」

口元に手を当て笑顔で流す、天然系美少女。

「この子、疲れるわ」

琴音の本音がボソッと漏れた。

……その後も空港でいろいろドタバタ劇があったのだが、ほとんどがあゆみさんの大ボケに振り回される俺と琴音の構図だった。

元カノとの約束の時間5分前に改札前に到着。

路面電車と在来線とのターミナル駅(?)。

改札前で、行き交う人を観察しながら、元カノを待つ。

俺の前をいろいろな人たちが足早に過ぎ去っていく。

サラリーマン、OL、主婦、学生、職業不明の人……。

見ていて飽きないとはこの事だと思う。

そんな人混みをぼんやりと眺めていると、一人の女の子が困った様子で辺りを見回している。

はっきりいって、挙動不審ってやつだ。

きょろきょろ、きょろきょろ、おろおろ、おろおろ。

まるで私を狙ってくださいと言わんばかりの子羊状態、いやカモ状態。

これが、土日だったら、絶対に飢えた男共のターゲットになっていただろう。

しかし、今日は平日、それも朝、そんな飢えた男共などどこに見あたらない。

そんなことを露知らずに、辺りを挙動不審に見回す女の子。

女の子の姿からすると、中学生ぐらいか。

顔は俺が立っている改札口からだと、よく見えない。

髪型はセミロングの束ねたやつ、色は艶やかな黒。

束ねるリボンは赤。

ピンク色のダッフルコートにホワイトブルーのストライプ柄のミニスカを履いている。

足下は黒のハイソックスに赤色のローカットスニーカー。

「……かわいい。ぜひ妹に欲しいぐらいだ」

思わず、本音が漏れる。

こんなかわいい子をほっといていいわけがない。

顔なんて見なくとも、かわいいに決まっている。

俺はそう勝手に決断し、彼女の元に走り寄った。

「きみーどうしたの? さっきから困ってるみたいだけど」

一気にまくし立てる。

こういうときは、先に強気に出た方が勝ちだ。

そうこれは、俺と彼女との一本勝負なのだ!

「え?」

彼女が振り向く。

声を掛けるなら、右後ろ斜め45度と言うではないか。

誰が言っているか知らないけどさ。

「いや、君がさっきから困ってるみたいだから、つい声かけちゃった」

とりあえず、俺……いや僕は敵じゃないよとアピール。

振り向く彼女は想像以上にかわいかった。

幼さの仲に見え隠れする美少女の片鱗。

少女から大人へと変貌する変わり目の今にも壊れてしまいそうな危うい美しさ。

自分で何を言っているのかが分からないほどのかわいさ。

「かわいい……」

また、思わず本音が漏れる。

どうやら、俺はかわいいと思うと、すぐに口から漏れてしまうようだ。

「え?」

やばい、不審がっている、なんとかせねば。

「さっきから、この辺見回しているけど誰か探しているのかな?」

なるべく優しく、下心が見えないように注意しながら言う。

「……ちょっと、道に迷っただけです、私、方向音痴なもので」

「えーと、どこ行くつもりなのかな?」

「……えーと、ココなんですけど」

彼女は、ダッフルコートのポケットから一枚の紙を取り出した。

取り出した紙には、地図らしき物が。

「ココに行きたいんです……」

「……」

紙にはフリーハンドで描かれた線、そこに汚い字で書かれた地名らしきもの。

「えーと、コレ地図だよね?」

彼女はコクコクと首を縦に振る。

どうやら地図らしい。

地図なのかな……これ。

俺にはどう見ても落書きにしか見えないが……。

「そうだな……とりあえず、行き先の住所と分かるかな?」

住所さえ聞けば、なんとか道を教えることが出来る。

彼女は勢いよく横に首を振る。

知らないらしい……口で知らないって言ってよ。

「困ったな……。ちょっとその地図見せてくれるかな」

彼女の手から地図らしき紙を取り、真剣に見る。

真剣に見ても、どこからどう見てもただの落書きにしか見えない。

……火にあぶると、本物の地図が浮かび上がるとかなのかな、まさかな。

「うーん。この変な箱みたいなのが、路面電車なのかな……そうすると、この十の字が大十字路になるのかな……で、このうねうねしたのが海かな……」

彼女が心配そうに俺を見つめる。

いきなり声を掛けてきた、男に自分の行き先を知られるのが不安なのだろう。

俺が彼女の立場だったら、即に交番にでも駆け込むけどな。

「わかりますか?」

彼女が恐る恐る声を掛けてきた。

「んーーなんとか。本当になんとかだけどね」

「本当ですか? よかったぁ」

俺の一言で彼女の不安が吹き飛んだようだ。

よかった、よかった。

路面電車の発着場を指さしなが言う。

「あの路面電車に乗って、六つ目の停車場で降りる」

「はい、降りて」

「降りるとすぐ目の前に大き坂があるから、その坂の頂上付近に萎びた洋館が建ってるんだ」

「洋館ですか?」

「うん。地図からすると、この目的地らしき×印は洋館を指していると思うんだ」

彼女の困惑の表情が浮かぶ。

「でも、私の聞いた話だと大きい武家屋敷風のお家だと」

武家屋敷風のお家ね、はて?

んーーなんかどこかで聞いたような単語が並んでるな。

「この×印の付近に武家屋敷風の家なんてないしな……」

「ないのですか?」

「ないね……」

俺は彼女に紙を返した。

「そうですか……とりあえず、その洋館に行ってみます。何かの間違えで武家屋敷風のお家が洋館になってしまったのかも知れないですし」

とんでもないこと平然と言ってのける彼女。

「そっか……そうだな、何にだって間違いはあるし。もしかしたら武家屋敷が間違って洋館になっちゃたかもしれないしな」

「はい! ありがとうございました」

彼女は深々と頭を下げてお辞儀をする。

人混みでこんな丁寧なお辞儀をされると恥ずかしい。

「そうだ、君名前なんて言うの?」

「え? 私ですか? 冬原希美です」

「希美ちゃんかいい名前だね」

希美ちゃんが照れ笑いを見せた。

どんな表情でも、ものすごくかわいいと思う。

「あの、貴方のお名前もぜひ」

「えーと。俺は岩上龍太」

「龍太さんですね」

改めて、希美ちゃんに名前を呼ばれると恥ずかしい。

二人とも照れ笑いでその場をごまかした。

「そうだ、何か困ったことがあったら俺の携帯に電話してよ」

俺は鞄からノートを取り出し、一ページ破り、携帯の番号を書く。

「はい、これ俺の番号。困ったらいつでも電話しておいで」

「いいんですか? 身知らずの私にそこまでしてもらって……」

「いいの、いいの。困った人がいたら助けるのが俺の信条なの」

当然、かわいい子こに限るけどね。

「……それじゃ、何かあったら電話しますね」

「うん。待ってるよ」

「はい、ありがとうございました、それじゃ路面電車も来たみたいだし、私行きますね」

「気をつけてね」

「それじゃ、また」

彼女は何回か丁寧なお辞儀をしながら、路面電車へと走っていった。

「さて、いいこともしたし。ちょうど腹も減ったから何か食べに行くかな」

「あんた、人の約束に遅れておいて何のんきなこと言ってんのよ」

「あーあー何も聞こえない」

「ほんとーに聞こえなくしてほしいのかしら」

……希美ちゃんにかばうばかり、本来の目的をすっかり忘れていた。

「ははは、冗談だよ、赤城」

俺の元カノ、赤城琴音。

年齢は俺と同じ20歳。

容姿は普通よりちょい上ぐらい、どんなに頑張ってもクラスで一番になれないかわいさ。

でもなぜか、男子の裏投票でいつも一位を独占してしまう過去を持つ女。

髪はロングでうっすら茶髪で、サイドで三つ編みにしている。

目が悪く、外を歩くときは大きい、丸メガねを掛けているのが特徴。

服装は赤のパーカーにベージュのキュロット……希美ちゃんを見習え。

肩には愛用の白と赤のストライプ柄トートバックを掛けている。

溢れんばかりの平凡オーラを、全身から出している。

「ちょっと、何よその視線」

「な、なんでもないって」

「怪しいわね、またスケベなことでも考えてたんでしょ」

「違うって」

「さーどうかしらねー」

やたら楽しそうに俺のことをからかってくるな。

「東京で待ち合わせだろ、いそがないとヤバいんじゃないか?」

「そうね、急ぎましょ」

赤城が俺の手を掴んでぐいぐい改札口に向かっていく。

「おい、俺、まだ切符買ってないぞ」

「ノープロブレム! 私が買っておいたわ」

東京行きの切符を二枚、自慢げに見せる、琴音。
「おごりか?」

「今回は、私が無理して誘っちゃったからね、こんぐらいは出すわよ」

「珍しいこともあるもんだな」

付き合ってた当時、一回もおごってもらったことはない。

むしろたかられてばかりいた記憶が……本当に付き合ってたのかな、俺たち。

「何か言った?」

「いやなんでもない」

改札口を抜けて、ホームに出て、ちょうど来た東京行き普通列車に乗り込む。

電車に乗り込むと、琴音はめざとく空席二つを見つけた。

二人して並んで座る。

「こうしてると、また付き合いたくなっちゃうね」

「赤城……まだ俺のことを」

「……だってあんたといると楽しかったもの」

彼女の表情が寂しげだった。

俺と琴音……ごく自然に付き合いだした。

付き合ってた期間はだいたい1年。

初めてのデートも琴音だったし、初めて女の子と手を繋いだのも琴音。

初めてキスしたのも琴音、初めて見た女の子体は妹……。

異性関係の初めてのほとんどを琴音と経験した俺。

ほんの些細な誤解から喧嘩が始まり、そして別れた。

初めての別れ話も琴音……。

別れた後に、誤解が解けて仲直りをして、元の友達関係に戻った。

そして、今にいたる。

「いいよ、今の関係で」

「……そうね。この関係の方が二人に取って自然だものね」

「ま、キスとかごにょごにょしたくなったら、いつでも言ってくれ」

「あ、あんたねー! よく人前でそんなことを」

琴音が右手拳を握りしめながら、俺を威嚇する。

本当に怒り狂う炎が見えてきそうだ。

「お、落ち着け、赤城……」

俺の余計な一言でマジキレしてしまった、琴音。

拳を握りしめたまま、威嚇するように俺を見下ろしている。

「あんたって人はいつまでもいつまでも成長しないわね」

「ち、違うんだって琴音。ちょっとした言い間違えだって」

周りの乗客達が、ちらちらと琴音を引いた目で見ている。

乗客達の視線に気づいたのか、琴音はコホンと一つ咳をして、俺の隣の座席に再び座った。

「今度言ったら、絶対に許さないんだから。絶交よ絶交!」

「分かってるって、もう言わないよ」

今度言ったら、絶交だけではすまないよな、絶対に……命に関わる問題だ、忘れないでおこう。

「ところで、上京してくる子との待ち合わせの時刻って何時? 俺聞いてないんだけど」

琴音が俺の顔を呆れた表情をしながら見ている。

「心配いらないわよ、ちゃんと携帯にメールが来てるんだから……」

そう言い終わると、愛用のトートバックをガサゴソとあさりだした。

ガサコソ、ガサガサ。

「うーん」

眉間に皺を寄せながら、賢明に携帯を探している。

その姿も、なかなかかわいい。

「あれ? おかしいな……確かに入れたはずなのに」

ものすごく嫌な予感がする。

「どこにもないんだけど……ちょっと龍太、あんた知らない?」

予感的中。

「赤城の携帯なんて知らないよ」

「そうよね」

「携帯なくても、そのくらいは覚えてるんだろ?」

そう一つ重要なことを俺は忘れていた……。

「アンタ、私と何年一緒にいるのよ」

「そうだった……」

そう、琴音はある特定の数字系の暗記にからっきし弱いのだ。

どうでも言い数字は事こまく覚えているのだが、大事な数字にはからっきし弱い。

大事な数字は頭に入っても、重度のプレッシャーですぐに忘却の彼方へと数字さま御一行さまが旅立たれてしまうのだ。

琴音曰く、小さい頃のトラウマがそうさせるそうだ。

「お前な、何で大事な時間を携帯だけにしか入力してないんだよ。いざのためにメモ帳やら手やら、顔やらにでも書いておけよ」

「うるさいな」

「なんとか思い出せないのか?」

「無理」

即答かよ、俺は唖然と琴音の顔を覗き込む。

「今あたしの頭にあるのは、さっき買ったパンの値段くらいだもん」

「……その友達はどこから来るんだ?」

「沖縄」

「沖縄から直接か? 途中どこも寄らないでか?」

「うん。直接東京にはいるってメールが来てたよ」

「赤城……沖縄から電車で東京には来られないぞ」

「あっ」

「だって東京に行くって書いてあったから、てっきり東京駅だとばかり」

「羽田だって東京だよ」

もうこれだけ分かれば、彼女のボロボロの記憶の糸を類寄せる必要はない。

「羽田空港で沖縄からの到着便を調べて、待っていれば会えそうだな」

琴音が目を輝かせて、俺に詰め寄ってくる。

「さすが、龍太! 頼りになるね。前から頼りになるとは思っていたけど。うん、さすがに私が見込んだだけのことはある」

さっきまでのキレていた琴音ちゃんはどこへやらだ。

「とにかく、羽田空港に向かおう」

「うん、そうだね」

俺たちは、山手線で浜松町まで行き、そこで東京モノレールに乗り換えた。

他にも行く経路があるのだが、モノレールの物珍しさに惹かれて、モノレールを選んだのだ。

モノレールに乗ってテンション高めの琴音。

目の輝きがいつにも増して輝いている。

こうなると、俺は完全にちょっと後ろに控えた琴音の保護書状態になる。

まわりの乗客に迷惑が掛からないように、言葉を選びながら彼女に接する。

普段のノリで、彼女と会話したら、大変事になってしまう。

とにかく彼女がこれ以上にハイテンションにならないように、気をつけてコミュニケーションを取る必要があるのだ。

……とにかく早く、羽田空港に着いてくれ。

がさがさ。

誰かが寝ている俺を揺する。

がさがさ。

誰かが俺の睡眠を邪魔しようとしている。

がさがさ。

仏の顔も三度まで、この執拗な揺さぶりに頭来て、勢いよく上半身を起こした。

「お兄ちゃん、朝ですよ、起きないと遅刻してしまいますよ」

マイシスターがこれでもかと言うぐらいの、笑顔で俺の顔を覗いていた。

「なんだ、美佐絵か」

怒りのはけ口が無くなってしまったので、渋々と妹の顔を見る。

当然、下半身は見られてはならない。

「おはようございます、お兄ちゃん。いい天気ですよ」

妹は窓際まで行き、勢いよくカーテンを引いた。

朝の日差しが俺の部屋に入り込む。

くるりと俺の方を向く、マイシスター。

朝日が美佐絵のかわいさを、一段と引き立たせる。

綺麗に切りそろえた、ショートカット。

うっすらと化粧の乗った肌。

優しいピンク色の唇。

愛くるしい瞳。

聞く人の心を和ませる、穏やかな声。

見る人全てを幸福にするにであろう、最高の素材が完璧にそろった、マイシスター。

この極上の妹と……俺は。

「お兄ちゃん? どうかしましたか?」

唐突に美佐絵が俺の体に馬乗りし、視線を合わせてきた。

「うぐ」

どこのエロゲーですか?

冷静に自分に突っ込みを入れる、俺。

「ちょっと、お前こそ何してるんだよ」

「何って、お兄ちゃんがいつまでもボーとしてるから目を覚まさせてあげようかと」

妹は目をつぶり、唇をつぼみ、そっと俺に近づけてきた。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」

俺は慌てて、両手で妹の肩を掴む、これ以上、妹の顔が近寄らないように。

これ以上近づいたら、俺だって理性を保てるか分からない。

美佐絵は目を開きいた。

「お兄ちゃん、遠慮しなくてもいいのですよ、モーニングキスです。お目覚めのキスですから」

マイシスターはものすごい笑顔で、とんでもないことを言ってのけた。

俺だって、これが妹じゃなかったら、飛びついてキスしていただろう。

だが、これはマイシスター美佐絵。

昨日のキスは何かの間違えだ、これ以上禁断の兄妹愛的な世界に足を踏み入れてはいけない。

そうタブーに触れてはいけないのだ。

残念だが、諦めてくれ俺。

妹に欲情してはいけない。

「冗談はそのくらいにして、どいてくれないかな? どいてくれないとベットから出られない」

「モーニングキスをしてくれたら、どきますよ」

「どいてくれ」

「お兄ちゃん、してください」

再び瞳を閉じて、迫ってくる妹。

その時、部屋の中を流行曲が流れ出した。

机の上に置いてある携帯が流行曲の着メロを流している。

妹を押しのけ、俺は急いで携帯に飛びつく。

電話に出ると、女の子だった。

「おー龍太。おはよう」

声の主は俺の元カノからだった、

その声が聞こえたかどうか知らないが、妹の動きが止まった。

「おはよ、どうかしたのかこんな朝から?」

「いやちょっとね。あんた今日は?」

「ん? 普通に予備校だけど」

「そっかー。……たまにはちょっと付き合わない?」

妹の方をちらっと見る。

美佐絵と元カノは仲が悪かったのだ。

「なっ!」

「龍太どうかした?」

美佐絵が俺の掛け布団を丸めて抱きついてる。

瞳を潤ませ、まるで俺を誘うかのように……。

唇が妖しく動く。

お・に・い・ちゃ・ん・す・き。

確かにこう動いた、間違いなく動いた。

「……」

「おーい、龍太」

「ちょっとごめん」

携帯をそのまま机に置き、妹がフェロモンをまき散らすベットに近づき。

シーツを力任せに引っ張る。

「きゃ!」

かわいい悲鳴と共に妹が、床に落ちる。

「お前もいつまでもここにいないで、学校行く支度しなさい」

「……意気地なし」

マイシスターはふらふらと部屋から出て行った。

出て行く瞬間、俺の方に向かって軽くキスをした。

「まったく」

俺は机の上に置いた電話を取り、通話を再開した。

「ごめん、ちょっと立て込んでいて」

「……また美佐絵ちゃん?」

「ああ。ちょっとな」

妹からキスをせがまれた、誘惑されたなんて、口が滑っても言えない。

「あの子、過激なところがあるからね」

「さすがよくご存じで」

「そらーアンタとのつきあいは短かったけど、中身は濃いからねー」

「そうだっけ?」

「そうよ。と言ってもほとんど美佐絵ちゃんとの喧嘩だった気もするけどね」

そう、事実俺と楽しく会話しているより、妹の美佐絵と口喧嘩してる方のが長かった。

俺と元カノがデートしていると、どこからとも泣くマイシスターが現れ、俺たちのデートの邪魔をしてくるのだ。

そのたびに、元カノと美佐絵の口論が始まった。

「で、話の続きだけど、何かあるのか?」

「あ、うん。私の昔からの友達がね、何年ぶりかでこっちに戻ってくるんだよ。でね東京まで迎えに行くことになってるんだけど、一緒に行ってくれないかな?」

東京まで電車で約1時間。

「いやだから、予備校があるんだって」

「さぼっちゃえよー。たまには私と付き合いなさいって」

「駄目だって」

「元カノが涙ながらにお願いしてるのにー断るなんて……鬼畜ね、非道ね」

すごい言われようだ。

「わかったよ……飯ぐらいおごれよな」

「りょーかい。大人気発売中のオージ牛肉使用の牛丼をごちそうするわよ」

「……ごめん、用事が入った。また今度誘ってくれ」

そう言うと俺は電話を切った。

ふぅー朝からドタバタだったな。

支度して予備校に行くとするか。

着メロが部屋に流れる。

電話に出ないと、何を言われるか分からないので仕方がなく、再び電話に出た。

「あんたね! いきなり電話切る癖直した方がいいわよ!」

「交渉決裂したんだこれ以上はなす事もないと思って」

「勝手に決裂してんじゃないわよ! 今、七時半だから九時に駅改札口で待ってるわ。ちゃんと来なさいよね」

一方的にまくし立てて、電話は切れた。

「人のこと言えないよな」

俺は携帯を机の上に戻すと、部屋を出て、居間にへと向かった。

居間では美佐絵が朝食の準備をしている。

岩上家の両親はほとんど仕事で家に寄りつかない。

両親が、今どこの国で、どんな仕事に携わっているかさえ知らない。

月に一二度電話してくるくらいだ。

よって実質、俺と美佐絵の二人暮らしみたいになっている。

俺の面倒をかいがいしく見る美佐絵。

食卓での俺の所定位置に座る。

俺の前に美佐絵が座る。

「いただきます」

二人同時にいただきますをして、朝食開始。

「いやー美佐絵の料理はいつもおいしいなー」

「ありがとう、お兄ちゃん」

「あはは。こんな妹がいる俺って幸せだなーーーーー」

「……」

非常に気まずい、さっきの電話が原因だ。

元カノが電話してくると、おもいっきり不機嫌になるのだ美佐絵は。

「……」無言の俺。

「……」無言の美佐絵。

黙々と食事がすみ、食器をシンクに移し、二人でお茶を飲み、二人で同時に家を出る。

「ごめんな、美佐絵」

家の鍵を閉めている妹に謝る俺。

「お兄ちゃんが謝ることなんて何もないですよ」

「いやほら、さっきの電話」

「忘れました。それより朝の続きは帰ってきてからしましょうね、お兄ちゃん」

朝の続きって……続きをする気ですか? マイシスターよ。

「いや絶対にああいうことはマズいって」

「……お兄ちゃんは私がお嫌いですか?」

「好きに決まってるだろ。誰もお前のこと嫌っちゃいないよ」

「お兄ちゃん……嬉しいです」

妹の熱い視線が苦しい。

駄目だ、このままだとマズい気配に流されてしまう。

流れを変えなければ。

俺は携帯を取り出し時間を確認する。

「路面電車に間に合わない」

棒読みで俺は言い、走り出す。

「あ、お兄ちゃん」

妹も俺の後を追ってくる。

路面電車の停車場まで二人で走る。

全速力で走ったら、数分で着くが、美佐絵の足に合わせると倍の時間が掛かる。

離れないように、妹が追いつけるような速度で走る、一定の距離感を保ちながら走り続け。

二人で路面電車の停車場に走り込む。

「はぁはぁ、お兄ちゃん大丈夫ですか?」

「大丈夫。美佐絵こそ大丈夫か? かなり息が上がっているが」

「平気ですよ、このくらい。ほらほら」

妹はおどけようとして、そのまま立ちくらみで倒れ込もうとした。

俺は反射的に手を伸ばし、妹を抱きかかえる。

こんなところで倒れて、頭でも打ったら大変だ。

「おいおい、無理するなよ」

「はい」

美佐絵の頬がピンク色に染まる。

妹は俺に熱い視線を送ってくる。

まるでキスをせがむような視線、そうキスをせがんでいる視線。

妹の顔が折れに近づいてくる。

いや、違った、俺が近づけているのだ、無意識に。

「うむ。朝からお熱いなバカ兄妹」

俺たちを冷静に見つめる、一人の少女が立っていた。

九十九桜。

容姿端麗、冷たさの仲に優しさを備えた可憐な顔つき。

肩まで伸ばした美しい黒髪が彼女を引き立たせている。

美佐絵と同じ学校の生徒で、美佐絵の一年先輩である、

現在はまっているのは、剣道。

前にはまっていたのは空手。

その前が柔道。

ちょっと飽きっぽい格闘少女である。

格闘家らしく無駄な肉は一切ないが、出るところは出ている、同姓から見たら羨ましい限りの肉体も備え持つ素晴らしい少女だ。

「岩上、またいやらしいこと考えているな」

殺気立つ桜。

それを感じたのか、美佐絵が間に入り込んできた。

「おはようございます、桜先輩」

「うむ、おはよう美佐絵」

「桜ちゃんがこんな時間にここにいるなんて珍しいな。朝練はどうしたんだ?」

「……寝坊した」

桜ちゃんは一見隙もなく完璧そうに見えるが、実は根の部分がかなりいいかげんでずぼらなのだ。

その完璧そうに見える姿と、根の部分が相まって、何とも言えない、不思議感を漂わす魅力的な女の子になるのだ。

実際にその何とも言えない魅力に取り憑かれ、彼女に言い寄ってくる男の数は計り知れない。

当然、力任せで寄ってくるバカもいる、そのバカを習得した格闘技で容赦なく投げ飛ばしたりしている。

「桜ちゃんらしいな」

「うるさい! 朝からイチャついている貴様に言われたくない」

なぜか首を取られている俺。

俺の顔の脇には桜ちゃんの豊満な胸が。

「このエロがっぱが!」

首を押さえられ、頭を握り拳をでグリグリされる。

「痛い、痛いって桜ちゃん」

俺と桜の日常風景。

俺がバカなことをやると、桜ちゃんが容赦ない攻撃をしてくる。

これはこれで、桜ちゃんとのコミュニケーションの一種だと思っている。

実際、桜ちゃんの技の切れ味で、その日の体調から、あの日まで全て分かってしまうほど、コミュニケーションが取れてしまうのだ。

今の技の切れ味から行くと、この俺と美佐絵の雰囲気をよしと思っていないらしい。

端から見ても朝から、兄妹どうしてラブシーンを掘っておけなかったんだろう。

「あのーお兄ちゃん。夕食のおかずは何がいいですか?」

桜ちゃんとのスキンシップをよくと思わない美佐絵が、嫉妬心丸だしで俺を睨んでくる、

痛い、痛い、全身突き刺さるような視線が痛い。

「ごめん。今日は用事があるから、外で食べるからいいや」

「え? そんな……」

俺の返事を聞いて思いっきり凹むマイシスター。

「うむ、用事といってもそうは遅くならないのだろう?」

桜ちゃんが場の空気を読み、助け船を出してくれたようだ。

「そうだな。帰ったら一緒に食べようか? 待っててくれるかい?」

「はい」

美佐絵が嬉しそうに返事を返す。

「そうだ!」

「どうした? 岩上」

「桜ちゃんも一緒にうちで食べないか? 二人よりも三人で食べた方がおいしいし」

「え? いいのか?」

「ああ、かまわないよ。な? 美佐絵」

「はい。お兄ちゃんがいいというなら言いと思いますよ」

少し残念そうに答える美佐絵。

可哀想であるが、ここは心を鬼にして、朝の続きを阻止しなければならない。

「そうか、それなら喜んで相伴しよう」

路面電車が美佐絵と桜ちゃんを降ろす停車場に止まった。

「それじゃーお兄ちゃん、予備校頑張ってきてくださいね」

笑顔で手を振りながら降りていく、マイシスター。

「それでは、また後で」

床に置いた道着袋を手に取り出口に向かう桜ちゃん。

「二人の邪魔をして悪かったな」

「……そんな事はないよ。むしろ桜ちゃんが来てくれて助かった。桜の面倒頼むよ」

「ま、いつも食事をごちそうなっている身、そのくらいの役目は買って出よう」

「サンキュー桜ちゃん」

「なに、恨まれ役ならなれている」

「助かるよ、桜ちゃん」

桜ちゃんが照れくさそうに頬を掻く。

二人と他の生徒達を降ろし、路面電車は再び動き出す。

窓の外では、美佐絵が俺に手を振り、桜ちゃんが照れながら俺を見ていた。

「桜ちゃんも年頃の女の子なんだよな」

ポケットから携帯を取り出し、時間を見ると元カノとの約束の時間にはなんとか間に合いそうだった。

高校を卒業して早二年、予備校と自宅の往復に費やす日々。

いい加減、両親の電話越しの声が痛く感じる。

直接に言葉では言わないが、そろそろ希望校を諦めて、家業を継ぐか就職でも専門学校でもレベルを落とした大学にでも行けるとこなら、どこでも行ってくれという重圧<プレッシャー>が伝わってくる。

俺だって、好きで浪人をやっているわけではない。

予備校に通って、深夜遅くまで勉強をして、読めば模試の点数が大幅アップを願って、参考書を買いまくっても、俺の前にどうにもならない壁が立ちはだかることぐらい分かっているし。

そのどうにもならない壁をなんとか、よじ登ろうとしても、努力だけではどうにもならないことぐらい理解してるつもりだ。

それでも俺は……。

それでも俺は、諦めずに、勉学に励んでいる……。

俺の名前は、岩上龍太。

年齢は20歳。

職業は浪人。

ある約束を守るために、まったく手の届かない遙か雲の上にある大学入学を目指している、現実をかえりみない愚かな男。

……・そう某少年誌で連載していた某温泉宿ラブコメの主人公と同じ境遇と言えば分かるだろうか。

俺にも片思いの幼なじみがいて、その子とある大学に一緒に行こうねと約束したのだ。

某少年まんがの方は、家を追い出されて、祖母の温泉宿に転がり込み、約束の子と遭遇しつつ宿の下宿人女の子達に囲まれハッピーに暮らすという、何とも羨ましいストーリーだったが……。

俺の場合、約束の幼なじみがいるだけで、温泉宿を持つ祖母もいなければ、下宿人もいない、寂しいただのサラリーマン一家の長男坊にすぎない。

温泉宿までもいかないが、ご先祖さまが残してくれた、屋敷があるが……。

それでも、俺は約束を果たすために、敢えて困難にに立ち向かっているのだ。

そんな不平不満を考えんがら、参考書に向かっていると部屋のドアをノックする音が聞こえた。

トントン。

「ん?」

俺は軽く返事をする。

ドアの向こうから、喋り掛けてくる。

「お兄ちゃん、お腹すきませんか?」

ドアの向こうに立っているのは妹だった。

「ん? 空いたような空かないような……」

「……ちょうど、お夜食を作ったんですけどよろしければ」

どうやら、我が妹は俺のために夜食を用意してくれたようだ。

「入っていいぞ」

俺は妹を部屋に招き入れいた。

妹はトレーにおにぎりとみそ汁を乗せて部屋に入ってくる。

部屋には何とも言えない、食欲を促進させるいいにおいが漂って来た。

「お兄ちゃん、がんばってるみたいですね。夜食食べてください」

「お、ありがとうな、美佐絵」

岩上美佐絵。

年齢17歳、女子校に通う高校二年生。

容姿端麗、性格良好、成績優秀。

俺にはもったいないぐらいの妹。

俺は妹が持ってきてくれた、おにぎりにかぶりつきながら、美佐絵の顔を見た。

美佐絵の頬が少し朱くなっている。

「美佐絵、この部屋暑いか?」

「え? 暑くないですよ。お兄ちゃん、変なこと聞きますね」

おにぎりを喉に詰まらせそうになったので、みそ汁でおにぎりを胃に押し込める。

「……・だって美佐絵の頬が朱くなってるから」

そう言われて、美佐絵は両手で頬を押さえた。

俺はかまわずに、おにぎりを食べ続ける。

「え? えーーーーー朱くなんかなってませんよ」

美佐絵はなにやら、アタフタし出した。

両手で頬を押さえていたかと思ったら、いきなり頭上でバタバタと振り出したり。

潤んだ目で俺を見つめたり。

なにやらボソボソと、俺に聞き取れない、小さな声で呟いたり。

「美佐絵? どうしたんだよ」

「な、なんでもないです、お兄ちゃん!」

「なら……いいけど、おにぎりおいしかったよ、美佐絵」

「うん、お兄ちゃんの顔思い浮かべながら、一生懸命作りましたから……ポッ」

最後のポッってなんですか? ポッて。

「美佐絵は料理うまいし、優しいし、かわいいから、いいお嫁さんになりそうだな」

「そ、そんなこと……ないです」

俺の言葉で慌てふためく、かわいいマイシスター。

「絶対になるって! 俺のお嫁さんになって欲しいぐらいだぞ」

「え? ええええええええええええええええええええええええ!」

……何をそんなに驚いているんだい? マイシスターよ。

「おに、おにい、お兄ちゃん、そ、それって、それって……ぷ、プロポリスですか?」

「プロポリスって……それをいうならプロポーズだろ」

ちなみにプロポリスとは、ミツバチの唾液と樹液の混合物で、抗菌作用があるらしい。

その辺は置いておいて、目がグルグルと回っている、ハイテンション気味のマイシスター。

「おに、おにい、お兄ちゃんがわた、私にプロ、プロポーズ」

「おーいー美佐絵ちゃん?」

「お兄ちゃんと、私がけ、結婚……ポッ」

だから、その最後のポッてなんなんだよ。

美佐絵が落ち着くまで、夜食の続きを食べることにした。

おにぎりを食べ、みそ汁を飲み、美佐絵の顔を見て、参考書を眺める。

この繰り返しを数度繰り返すと、夜食を食べ終わったが……。

美佐絵はまだ目をグルグル回しながら、ぶつぶつと何かを呟いている。

……俺の妹は危ない人なのか?

「あの、美佐絵。夜食食べ終わったんだけど……」

俺は遠慮がちに、美佐絵に退出を求めた。

「あの、あのね、お、お兄ちゃん」

「ん? なんだい美佐絵」

「わ、私まだふつつか者ですが……」

「は?」

「おおおお、お兄ちゃんのためなら頑張っていいお嫁さんになります」

「へ?」

「だ、だからさっきのプロポリス……プロポーズおおおおおお受けししします」

「な?」

「もう妹と思わずに、一人の女、貴方の女だとお思いください!」

なんですとーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

俺は脳内で思いっきりシャウトした。

妹が俺の嫁さんになるだとおおおおおおおおおおおお。

そんなバカな事があってたまるか!

……いやでも、美佐絵ならいいかも、かわいいし、料理うまいし。

っておい! それはいくら何でもヤバいだろ。

そんなわけで、全力でマイシスターを傷つけずにやんわりとプロポーズを断ることにした。

「な、何バカなこと言ってるんだよ、さっきのは話のあやだろ、あや。もしくはただの社交辞令」

俺の言葉が終わった瞬間、妹が強烈な殺気を出しながら俺を睨んできた。

「何を遠慮しているのですか、お兄ちゃん。遠慮などいりません、私と一緒になりましょう」

「いやだから、兄妹でそういう関係はヤバいだろ、どう考えても」

兄妹じゃなければいいのか、俺。

いいよな、兄妹じゃなかったら願ってもないチャンスだ。

しかし、現実は俺の妹……・マイシスター!

何が悲しくて、妹と結ばれなくてはいけないのか。

俺には約束の子が待っているのだ!

「そんな世間体を気にしていては、幸せになんかなれませんよ?」

マイシスターは潤んだ瞳で俺を見つつ、両手を俺の頬を押さえ…・…。

唇を近づけてきた。

妖しく光る妹の唇。

俺は吸い込まれそうになりつつ、拒否る。

とにかく拒否る、ひたすらに拒否る。

しかし、美佐絵も諦め悪く、俺の隙をつき攻撃してくる。

俺がほんの一瞬、美佐絵から視界をそらした瞬間!

キスされた。

俺は妹とキスをした。

妹は兄とキスをした。

それは軽い、とても軽い唇が当たるだけのキスだった。

妹はくるりと回転して、俺の方を向きながら言った。

「初めてのキスはお兄ちゃんです」

美佐絵の見せた笑顔は今まで見た笑顔の中で一番輝いていた。

「それじゃ、お兄ちゃん、勉強頑張ってください、お休みなさい」

そう言い残すと妹は飛び跳ねるように部屋から出て行った。

残された俺は、美佐絵の唇を思い出すかのように、唇を指でなぞっていた。

「美佐絵の唇……柔らかかったな」