職場の大学には附属病院もあり、教職員は新型コロナウイルスワクチン Pfizer–BioNTech COVID-19 vaccine の先行接種・優先接種の対象であり、私も既に接種を2回受けた。
ワクチンの商品名は COMIRNATY、薬品名は Tozinameran (開発コード名 BNT162b2 [mRNA])。
2回接種を終えて、自分が受けたワクチンにはウイルス抗原タンパク質をつくらせる mRNA がどのくらい含まれていたのか知りたくなった。
世界保健機関の発表文書やファイザーの添付文書によれば、BNT162b2 [mRNA] (以降、mRNA と略記) は 4284個の塩基配列 (下記) で表され、1回分の接種量 0.3 mL 中に、mRNA が 30 μg 含まれていることが分かった。
分子生物学の研究で DNA や RNA を扱い、エタノール沈殿処理して沈殿を目で見ることがあるが、30 μg は結構な量なので正直驚いた。
このワクチンの mRNA では、通常の mRNA の塩基であるウラシルが N1-メチルシュードウラシルに置換されている。
ワクチン接種で体内に入る mRNA はヒトにとっては異物であり、通常であれば免疫応答が誘導されて分解されるが、ウラシルを N1-メチルシュードウラシルに置換することで免疫応答を回避するように設計されている。
mRNA 分子の数の計算には、高校の化学で習った “モル”、“分子量”、“アボガドロ定数” を使う。
mRNA の分子量計算
4284個の塩基中に801個含まれる N1-メチルシュードウラシルを、いったんウラシルに置換して EnCor Biotechnology 社のウェブサイトにあるオンライン・プロトコル (リンク) で計算すると、1377262。
N1-メチルシュードウラシルの分子量はウラシルより14大きいので、1377262 + (801 × 14) = 1388476 ≒ 1.39 × 106。
分子がその分子量と同じ数値のグラム数だけあるとき、その量は1モル。
分子が1モルあるとき、分子の数はアボガドロ定数と同じ 6.02 × 1023。
よって、mRNA 30 μg に含まれている mRNA 分子の数は、
6.02 × 1023× 30 × 10-6 / (1.39 × 106) ≒ 1.3 × 1013 (有効数字2桁)。
参考までに、モデルナ製ワクチンの1回分の接種量 0.5 mL 中に含まれる mRNA は 100 μg で、ファイザー製よりもかなり多い。
BNT162b2 [mRNA] の全塩基配列
1-2 5'キャップ
3-54 5'非翻訳領域、ヒトαグロビン mRNA 由来、Kozak 配列は最適化してある
55-3873 SARS-CoV-2 Sタンパク質前駆体 (1273アミノ酸残基) をコード
コドンの最適化によるタンパク質発現量上昇
K986P および V987P のアミノ酸置換によりタンパク質の安定化・発現量上昇
3874-3879 翻訳停止コドン ΨGA が2つ並ぶ
3880-4174 3'非翻訳領域、AES mRNA および mt 12S rRNA 由来
mRNA の安定化・タンパク質発現量上昇
4175-4284 poly(A)、途中に10塩基のリンカー配列がある
塩基: A (アデニン)、C (シトシン)、G (グアニン)、Ψ (N1-メチルシュードウラシル)
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