ワクチン広場 -45ページ目

報告されている7症の症例評価について(2)

Q3:では、7例の死亡症例については、どんな原因があると考えられるのですか?


乳児急死症候群 (Sudden Infant Death Syndrome,略してSIDSという)という死亡後診断名があります。


検死解剖、死因調査、治療歴を通じて考えられる死因が不明な乳児の死亡の場合にこのように呼びます。だいたい日本での発生頻度は、おおよそ出生数4000人に対して1~2人の頻度と考えられています。

ピークは生後2~4ヶ月で冬季に多い、母親の喫煙、うつ伏せ寝、がマイナス因子で母乳栄養は危険を減らすと言われていて、実際には、多くの場合、睡眠中に死亡しているのが発見されることが多いとされています。運よく呼吸停止状態で発見されて蘇生できた例をSIDSのニアミス例と呼ばれます。日本でも1ヶ月に10人以上は、SIDSで亡くなられているということになります。

外国の調査では肺炎球菌、ヒブワクチン接種でSIDSの頻度は上らないとの調査結果があり、今回の検討でもそれが検討されていたようです。


また、ワクチン接種後の死亡について、肺炎球菌ワクチン接種後の死亡接種10万あたり0.1~0.2ヒブワクチンについての調査で0.02~0.1という結果があり、今回の頻度はその程度であり、特にワクチン接種が原因で死亡が増えた訳ではないという結論に達したのです。


以上、ここで冒頭のママ達が疑問に思っている小児用肺炎球菌、ヒブワクチンの接種者での死亡が増えたか?というのは必ずしも正しくないことになります。

2011年1月から公費助成が開始され、2月後半から3月にはいって、各市町村で接種者数が増えた。接種者が増えたから有害事象の報告が増えたのも事実。しかし、因果関係があるとは言えないし、接種を受けたことがある子どもの死亡率があがったのではない。子どもの全死亡者数はほとんど変わってないのである

また亡くなられた方の死因として何が考えられるか?SIDSや基礎疾患に関連して亡くなられた可能性が高いということになります。


いずれにしても、ワクチンの安全性を否定するものではないと言えましょう。結局は、疫学といいますが、明らかなワクチンを接種したことで起こることが、増加したり程度が強くなったということが無いという結論からワクチンが再開になりました。


ワクチン後進国である日本は、先進国の結果を見ながら進められるというメリットがあり、外国のデーターも重要な参考資料となります。

現時点ではワクチンの副反応がゼロで免疫を100%得るということはないと考えます。そのことを承知しながらも、ワクチンで予防することの大切さを理解する。打つリスクより、打たないリスクの方がよほど重症な疾患になりやすいことを理解する。そして製薬メーカーはワクチンの”副反応ゼロ免疫100%”を目指して改良し続けてもらいたいと思います。


報告されている7例の症例評価について(1)

私のクリニックでは、一般外来、感染症の外来、健康外来と3箇所からアクセスできるようにしています。入口、待合室が別なのです。健康外来は乳幼児健康診断・育児相談、予防接種を行う外来です。


その健康外来でママ達の話題は・・・


小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチン、三種混合ワクチンを接種された人で亡くなったお子さんが報告された。しかも短期間に連続して報告された。そのために小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンが一時接種が見合わせされた。その見合わせ期間中に専門家会議が開かれ、その専門家の中で詳細に検討したところ”安全性に問題なし”との結論が出て、両方のワクチンとも4月1日より再開された。


ママ達からよくある質問が、

『本当に亡くなられた患者さんとワクチンの因果関係はないのか?』

『亡くなられた患者さんはどのようにして亡くなられたのか、本当に検討されたのか?』という疑問。

検討に参加された委員のお名前や、亡くなられた方の内容のあらましは厚労省のサイトから知ることができます。亡くなられた患者さんの情報は個人情報ですから個人が特定されないように年齢などは幅を持たせて報告されています。


Q1:現在報告されている症例には、どんな症例があるのですか?

亡くなられた方は当初は4例でしたが、その後追加されて7例が検討されています。いずれの方も接種されたワクチンは単独ではなくて、いわゆる何らかの他のワクチンとの同時接種が行われています。接種前の条件として基礎疾患なし4、基礎疾患あり3となっています。


症例の概要を得られる情報から、発生順に追ってみます。


症例1;生後6ヶ月未満女児、基礎疾患ない、2010年7月26日、アクトヒブ1回目、DPT同時接種、接種2日目より呼吸回数が多く、翌日深夜自宅で呼吸を異常を認めた後翌日(接種後3日後)死亡解剖所見から疑われる死因は急性循環不全、ワクチン接種との因果関係は不明とされている。


症例2;生後6ヶ月未満男児、出生時チアノーゼ、心臓腫瘍を疑われ3ヶ月検診では異常なし、右心肥大、2011年2月4日、アクトヒブ1回目、BCG同時接種 接種2日後死亡、朝呼吸停止、解剖は行われていなくて、死因、ワクチンとの因果関係不明とされている。とあります。一寸所用ができたので、ここで、一時中断させていただきます。


症例3;6ヶ月以上1歳未満男児、基礎疾患なし、2011年2月15日にアクトヒブ1回目、三種混合2回目を接種接種後7日後に死亡、うつぶせ寝で心肺停止状態で発見、解剖所見からSIDSによる死亡と推定、便からノロウイルスが採取されていたが、胃腸炎らしい症状はなかったので、関連は不明、ワクチンとの因果関係は不明


症例4;6ヶ月未満女児、基礎疾患なし、2011年2月17日にプレベナー2回目、アクトヒブ2回目三種混合を接種後3日で死亡、朝、呼吸停止状態で発見、解剖所見では死因はSIDSを疑われている。嘔吐物を誤嚥して窒息した疑いもある。ワクチンとの因果関係は不明


症例5;2歳男児、心室中隔欠損、慢性肺疾患、てんかんなどあり、2011年2月28日にプレベナー1回目、アクトヒブ1回目を接種、翌日死亡、うつぶせ寝で心肺停止状態で発見、解剖による死因は誤嚥による窒息を疑われている、ワクチンとの因果関係は不明


症例6;1歳女児、基礎疾患なし、2011年3月1日にプレベナー1回目三種混合4回目を接種、翌日死亡、深夜から高熱、翌日昼寝中、うつぶせ寝で呼吸停止状態で発見された、解剖所見から死因やワクチンとの因果関係は不明とされている、咽頭拭い液からヒトメタニュウモウイルスが採取されていて急性感染症による死亡も考えられている


症例7;6ヶ月以上1歳未満女児、右胸心、内臓逆位、単心室、肺動脈弁狭窄あり、2011年3月3日、プレベナー2回目、アクトヒブ2回目、三種混合2回目を接種、翌日死亡、昼、顔色異常、眼球上転、意識消失、解剖所見から死因もワクチンとの因果関係も不明とされている。



Q2:ワクチンの接種と7例の死亡症例に関連があるのですか?

翌日死亡が3、2日後死亡1、3日後死亡2、7日後死亡1となっており因果関係がありそうな直後のアレルギーなどによるショック死は1例もありません。ワクチンを接種して具合が悪くなり治療を行った後で亡くなられるというわけでもありません。そういう意味では、7例の方は何れも予測されない死ということになります。


症状や所見としてどのようなものがあれば、或いは解剖所見としてどのような所見があればワクチンと因果関係があるといえるかということも、基準があるわけではありません。

脳の呼吸中枢に働いて呼吸を停止させる、心臓に働いて心停止をさせる、その誘因にワクチンがなるかということが証明されるには、脳症があって何らかのワクチンの関与があることが証明されるか、心臓の刺激を伝える伝導系に変化が起こっているかということを検討しても陽性とする所見がないということだと理解されます。


ワクチンとの因果関係は不明と言う言い方は、関係があるのかという疑問も起こりましょうが、将に不明としか云いようがありません。


同時接種が悪いのか?というと、三種混合も、ヒブワクチン(アクトヒブ)、小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)も夫々に接種した後に局所が腫れたり、触ると熱を持っていたり、発熱を示す例があることは知られています。副反応の一つですが、それはワクチンの接種によるメリットに比べれば許容範囲の副反応だと考えられます。


同時に接種をすれば、夫々の起こる比率よりも多少率が高くなる可能性が考えられますし、そのような報告もあります。実際には、同じ人に複数回接種して、毎回、発熱があるとは限りません。よく、発熱が高いと、そのことが人体に害をもたらすと考える人が居られますが、発熱は人の病原体に対する防御反応だという考え方も一般的です。

人は病気から免れる方法を考えてワクチンを作った

先日、片付けものをしていたら、自分の小学校時代の通知表が出てきました。学校で受けた予防接種が記載されていて、腸チフスのワクチンを受けた記録がありました。とても痛くて、後が腫れて、熱が出て、熱が出ているというと外で遊べないので、親にも隠していたことを思い出しました。今は、このワクチンを受けている人はいないでしょう。効果が無くて、日本では廃止になったからです。ポリオや麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘、などのワクチンもありませんでした。種痘は天然痘の予防接種で、接種を受けていますし、BCGも受けていますが、今とは随分違っていたということがわかります。ワクチンで最初に使われたのは、実は天然痘に対する種痘なのですが、その種痘のまえに、天然痘ウイルスそのものをワクチンに使っていたことが記録に残っています。4世紀とも7世紀とも言われていますが、中国で天然痘の患者さんが着ていた下着を着ることで、感染したからでしょう病気が軽く終わることを経験的に学んでいて、病気を免れる方法として使われていたようです。それが西に伝わり、種痘よりも先にヨーロッパにも伝えられていたようです。中には重症になって亡くなることもあったようです。そのようなことがジェンナーが牛痘を人痘の予防に使おうと言う知識のもとになっていた可能性があります。ジェンナーよりも先に試していた人があったことも記録にあるそうです。種痘は多くの人を天然痘から免れることで命を救いましたが、種痘後脳炎という重篤な合併症を起こすこともあったのです。ワクチンの歴史は、弱毒生ワクチンから始ったのです。病原体そのものを生きたまま、人に接種を行うと言うことは、当然、病気を起こすことになるのですから、そう簡単に行える方法ではありません。抗体があれば、病原体を殺すことができるのではないか、毒素に対する抗体を人に与えれば毒素を中和することができて治るのではないかと考えて、結構、無茶なことをやっています。肺炎球菌をウサギに注射をして抗体を作らせてそのウサギの血液を抗血清として肺炎の患者に使ったりもしています。効果はなく、異種の動物の血液成分をあたえることで、効果はなくかえって命をちじめることになったそうです。破傷風の抗毒素を馬で作って治療に用いたり、蛇の毒素に対する抗体を動物で作らせてそれを用いたり、抗体を直接入れようとすることも試みてきています。私が受けた腸チフスワクチンのように細菌を殺してそれをワクチンとして使うということも色々の病原体で試みています。現在のワクチンは、その時代の免疫学や細菌学、ウイルス学、などの周知をあつめて、作られています。現在のものが完成形ではなく、発展途上の形だと思いますが、昔とは全然異なり、より効果があり、より安全なものを目指しているといえましょう。

ママからの質問3;ヒブワクチンと肺炎球菌でお薦めの年齢が違うのは何故?

この質問は予防接種に来られたママからの質問でした。確かにヒブワクチンは5歳まで、肺炎球菌は9歳までと勧めている小児科医が多いと思いますし、高齢者にも肺炎球菌のワクチンが薦められています。肺炎球菌には型が93あります。そのなかで侵襲性が強い型とそうでもない型があります。肺炎球菌はカプセルに包まれている菌で、そのカプセルに対する抗体を持っていると、菌が体に入ってきたときに抗体が結びつきます。そうすると、その抗体蛋白を認識したマクロファージ(大貪食細胞)が食べて菌を殺してくれるのです。また、体の中に補体(ほたい)という蛋白を持っていますが、菌と抗体が結びついたものに補体がくっつくと、菌が破壊されるという反応も起こるのです。これはヘモフィルスインフルエンザタイプb(ヒブ)の場合も同じなのです。このような、菌に対しても免疫と言う仕組みの他に、自然免疫と呼ばれていますが、病原体を排除する仕組みが沢山ありました、その発達も菌から体を守っている仕組みを強化しますので、年齢が長ずるにしたがって強くなり、感染症の頻度が下がるのです。高齢者は逆にsどれが弱くなるので、ワクチンで補強しようというわけです。ヒブと大腸菌が持っているポリサッカロイド(多糖体)には共通の抗原(抗体を作らせるもとになるもの)があって、5歳を過ぎると抗体ができるから、ヒブの感染症が減ると言うことも言われています。肺炎球菌は型が多いこと、感染があっても重症にならずに抗体ができるのだがそれには時間がかかることから、ワクチン接種を勧める年齢が異なるのです。今の肺炎球菌のワクチンは子どもに毒力の強い7つの菌型について作られていますが、すでに更に6つ増やして13にしたワクチンが開発されて導入され始めていて、将来日本でも変更されることになると思います。こうなると、高齢者にもそのワクチンが薦められることになるかもしれません。

ママからの質問2;肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンは何故2ヶ月からなの?

ママからの質問は、三種混合ワクチンと肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンは同時接種が出来るのに最初だけは何故、2ヶ月で2つだけなの?という質問でした。三種混合は定期接種で予防接種法という法律で決められたいます。それでは3ヶ月から開始となっています。私共小児科医は三種混合も2ヶ月からでも好いのではないかと考えていますが、今のところ、法律を改定しなければなりません。他方、世界の他の国々では、肺炎球菌、ヒブ(ヘモフィルスインフルエンザ菌タイプb)による髄膜炎は乳児に多く、早期に接種を受けることを推奨しています。幸い、この二つのワクチンは目下のところ任意接種ですから、医師と利用者の話し合いで決めることがでます。そこで、髄膜炎セットとして2ヶ月からこの二つを接種することをお薦めすることにしたのです。今回の公費助成もそれを追認した形で、2ヶ月から接種をしても助成は行われています。幼いと未だ免疫の機能が発達していなくて効果がよくないのではないかと心配される方や、幼いのに注射で可哀想だといわれる方も居られます。外国のデータではありますが、2ヶ月から開始をしても抗体は作られることは確認されています。早期に免疫をつけることに意義があるのですから、2ヶ月からお薦めをしています。確かに幼い子どもに複数の予防接種を同時に行うのは痛々しいと思われる方もおありだと思います。昔から『鬼手仏心』という言葉がありますように、一見、痛みつけるように見える行為ではあるが、その人のために敢えて行っている様をいうのですが、注射をするというオニのような手段ですが、命を救おうと言うホトケの心でやっているのだということで、赤ちゃんもママも頑張りましょう。