ワクチン広場 -44ページ目

同時接種について

Q1:今回、ワクチンの同時接種が問題になりましたが、実際にワクチンの同時接種は危険性があるのでしょうか?


結論から申しますと、同時接種が危険性が高いとは言えないということになりました。


厚労省の回答では鹿児島に於ける(ヒブワクチンに対して早くから公費助成を行った)調査結果を例示して、同時接種を行うと発熱などを伴う人の数が少し増加することを述べていますが、既に本邦での接種が圧倒的に同時接種で行われていることからも、危険性が高いとはしていません。(検討される時点で既に75%が同時接種で行われていました。)


外国では既に同時接種は常識になっています。「外国で好いから日本でも好いというのは如何なものかと」と言われそうですね。外国だって、やみくもに同時接種を行ったいるわけではありません。例えば、複数のワクチンを接種するときに血液中のコーチゾール(副腎皮質ホルモン)を測定したり、被接種者も行動を分析して、1回目と2回目で特にストレスが上昇していないという確証を得てもいます(論文掲載雑誌、Child Dev.1994,65;1491-1502,Pediatrics,1992,90;771-773).

アメリカ小児科学会、アメリカのACIPという組織が勧告している内容でも、生ワクチンであっても、同時接種を行うことが安全性を低下させない、むしろワクチンで予防できる病気にいつ感染するともわからないのだから、同時接種を勧めています。


確かに、今回、亡くなられた方の3人は重篤な基礎疾患をもって居られました。そのような患者さんに複数のワクチンを接種すると、負担が重いのではないかと考えられましょう。他方、基礎疾患があるから、菌血症を起こしやすく髄膜炎や肺炎に罹患し易いということもあります。そのような方だからこそ、早くに複数の危険性の高い病気を予防したいという考えもあります。


今回の接種再開にあたって、心臓疾患等をお持ちのお子さんに接種を行うときに同時接種を行うかどうかを医師と被接種者側がよく話し合って接種を行うことを述べています。心臓疾患があると、菌血症ひいては細菌性髄膜炎の危険度が高くなりますので、早期に免疫を獲得させてあげたいし、そのためには同時接種が効率が好い方法なのでケースバイケースで行われることになるでしょう。


ワクチンの与えるリスクよりも罹患した場合のリスクを考える複数ワクチンの同時接種はやむを得ない選択ではないでしょうか。結果としてワクチンとの因果関係はあるとはいえないのですから、接種は妥当であったと言えましょう。


ちなみに同時接種について、米国では出来ればワクチンは別の四肢に接種をする。やむを得ない場合には局所反応が二つのワクチンで同じ部位で重複しないように1~2インチ離して注射をするようにとしています。1インチは2,54cmです。また、ワクチン同士を特別に認められている場合以外は別の注射器で行うことを基本にしています。
日本では、未だ下肢に注射をすることを認めていません。したがって上肢を使うことになります。

私は三種混合、ヒブ、肺炎球菌を同時接種で行う場合には、肺炎球菌が局所の発赤や腫れは目立ちますので、ヒブと三種は同じ側で、肺炎球菌を別の側に接種しています。




予防接種と体温(3)

ワクチンを接種したときに、発熱を来たす要因としては、“ワクチン自体が外因性発熱物質ではないか?”ということが考えられます。ワクチンにそのような成分を含んでいれば接種すれば高率に発熱を来たすので、それは好くないので、極力排除するようにして作られています。



ワクチンは明らかに異物ですし、病原体と同じ成分を持っておりますし、生ワクチンの場合には、接種されたワクチンの生きた細菌(BCG)やウイルス(麻疹、風疹、ムンプス、水痘)は接種された人の体で増殖をしますし、弱毒されたとはいえ、病原性は持っていますから、ヒトの体に刺激を与えて内因性発熱物質、すなわち発熱サイトカインを作ることになる可能性はあります。


『発熱は病気のサインである、体温の高さと病気は平行する、放置すると体温はとめどもなく上昇して大変な状態になる(体温が高いと脳が犯されると思っている方は少なくないようです)』と、多くの人が当然のように、また必要以上に発熱を恐れています


私が勤務医時代に看護師(当時は看護婦)さんが研究で発熱を取り上げました。アンケート調査で、多くの親が、37℃以上は発熱だと思っていましたし、高熱は38℃以上だと思っていました。

それは何と、親が看護師である場合にも一般のママと差がありませんでした。『高熱で怖い病気は?』という質問に、脳炎・髄膜炎と肺炎と答えていました。それも看護師であるママと同じでした。アメリカの論文で医師に調査をしたものがありましたが、医師も同様に答えていました。



発熱を恐れる親や人は少なくありません。しかし、発熱は正常のヒトに見られる反応であり、世界の発熱の定義は38℃以上であり、危険な体温は41.5℃以上であること、実際に滅多にこの域までは上昇しません。37.638℃の微熱は正常でも病的でもありえるグレイゾーンであることをもう一度確認をしておいて頂きたいものです。


体温の高さと疾病の重症度は必ずしも一致しません。熱以外の症状が重要な判断材料です。周囲に関心をもって行動している場合、笑顔が出る場合、食欲があって、元気な場合などは軽症です。グッタリとして周囲への関心も乏しい、刺激を与えないと眠り込んでしまう、熱が高いのに顔色が青い、急に震えをともなって発病した、などは疾病が思い可能性があります。



不活化ワクチン(三種混合、肺炎球菌、ヒブ、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、ヒトパピローマウイルスワクチンなど)は接種後1日以内に発熱を来たす場合が多く、一方ウイルスで出来ている生ワクチンはウイルスが増殖してウイルス血症を起こすときに発熱を来たす場合が多いので、少し後になって発熱(514日後)します。いづれにしても、不活化・生ワクチンもによる発熱は軽微で12日後に消失します。

最後に発熱の際に、冷やすことは解熱効果には乏しいこと、本当に冷やすとかえって発熱を促すことにもなることは前に書きました。どのようになったら解熱剤を使うかは、予め、医師と相談をしておくことが好いだろうと思います。











諸外国の状況について

Q1:今回のワクチンは海外製だということですが、海外では日本と同じような症例はでているのでしょうか?

実は世界の国々で色々の国で導入するに際して、或いは導入後に検討がなされています。

乳児急死症候群(SIDS)は世界のどこの国でも、問題が解決されていない乳幼児の死亡の原因の一つです。


その発生とワクチンとの関係が検討されています。世界の国々から出される論文を全部読み取ることはおよそ不可能です。実に数多くの論文が毎日出されています。一日中、机の前に座り目を通しても読みきれる量ではありません。

そこで、私は先ず本を買います。プロトキンという学者が編集責任者になっている、ワクチンと言う本があります。目下の最新版は第5版なのですが、私は2版から読んでいますが、段々厚くなり、今や枕に丁度好い厚さになりました。

その他にアメリカ小児科学会が出している本を読みます。アメリカには医学国立図書館があり、そこにインターネットでアクセスすると、論文の題名、掲載雑誌、著者、要約が読めます。もっと読みたい場合には医師会図書館などから取り寄せて本物を読みます。それから知識を得るわけですが、個々の論文のまとめよりも、もう少し大きく結論めいたことを書いてみます。


日本はワクチンの後進国と言われていますが、用いることができるワクチンがここで、小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチンと相次いで導入されました。しかし定期接種として国が強く勧奨(すすめている)ワクチンは外国に比べて少ないのです。


同時接種もここで、漸く一般化されようとしていますが、制度上は確立されているわけでなく、同時接種を受け入れていない医師と利用者は少なくありません。

麻疹・風疹・水痘・ムンプスが同時に接種されている国、三種混合、肺炎球菌、ヒブ、不活化ポリオワクチン、髄膜炎菌ワクチン、ロタウイルスワクチン、などを同時に接種している国もあります。そのようなワクチンを導入してSIDSが減少したという国もあります。

検討する期間も接種後1週間、2週間、1ヶ月など決して短い期間に限っていません。SIDSが増えたとする国はないようです。ワクチン接種後の1週間以内の発生と2週間までの発生が、発生率が倍になっている国もありました。それは、ワクチンとの因果関係がないので、そうなるのだと考察で述べていました。


接種後から長い期間になると、ワクチンによる疾病の予防効果により死亡者数が減ります。SIDSの発生機序について検討した論文には、脳の微細な異常や心臓の電気的な刺激を伝える伝導系に異常があって、感染症やワクチン接種に際してつくられる活性物質(サイトカイン)が影響してSIDSに至らしめるのではないかと検討をした論文もありますが、トータルとしてワクチンによるメリットの方が大きいので、ワクチン接種を除外しようとする論文はないようです。


どこの国でも、ワクチン接種のあと、調査を行うとSIDSに属するような死亡の例はあるが、ワクチンが明らかに原因になっているという死亡の例がないと言えそうです。



予防接種と体温(2)

“ワクチン接種と体温(1)”で体温とひと口に言っても奥が深いことを書きました。


体温を測定して温度が高い場合に、大きくわけると2つの場合があります。ヒトは体温の調節を脳にある体温中枢の指令により体中でそれに反応して一定になるようにコントロールしています。環境の温度が高くて、コントロールできなくなって体温が上昇した場合を『高体温』と言います。熱射病、熱中症などと呼ばれる状態はこれに属します。


一方、脳にある体温中枢が体温を高く上げるように指令を出していて、それに反応して体温が上昇した場合を

『発熱』と言います。自分で体温を高くコントロールしているのです。中枢は脳の視床下部と言う部位にあり、指令している温度をセットポイントと言います。セットポイントを上げるように働く物質のことを発熱物質と言います。



ウイルス、細菌、かび、などの産生した物質を外因性発熱物質といいます。外部から微生物や異物の侵入があった場合に、それに反応して体内で作り体温を上昇させるように働く物質を内因性発熱物質と言い11種類あるとされています。特にマクロファージという細胞がつくる、インターロイキン1、インターロイキン6、腫瘍壊死因子は大きな働きをしています。これらは細胞が作る活性物質という意味のサイトカインの仲間であり、発熱サイトカインと呼ばれています。


自分で作ったサイトカインが視床下部を流れると、局所でプロスタグランディンE2という物質が作られて、それがセットポイントを上げる働きをすると考えられています。インターロイキン1,6、腫瘍壊死因子は体温をあげるだけでなく体内の免疫系に働き活性化する働きも持っていますので、体温をあげる働きも防御機能の一つと考えられます。



魚類や両生類、爬虫類などの変温動物に病原微生物を注射して飼育するという実験で、環境温度を高く設定したグループの方が死亡率が低いという実験結果が発表されています。微生物は温度を高く培養すると増殖が衰えるという実験などからも、体温が高いことが有利だとして、西暦前465年から375年の頃の人であるヒポクラテスの提唱が近代科学でも支持されていると言えます。若し、体温が高いことが有利ならば、積極的に体温を下げることは、不利になることになります。


体温を下げるように働く薬剤で解熱剤(げねつざい、下熱剤と書くのは間違い!)があります。解熱剤はプロスタグランディンE2を低下させることで、セットポイントを下げる働きを持った化学物質です。安易に解熱剤を使うことが有利でないことがお分かりいただけると思います。



また、体温のコントロール機能を失った高体温の状態では解熱剤は効果がないこともお解かりいただけるでしょうか?体温をさげるのに、物理的に体を冷やすという方法が考えられます。


日本では頭をつめたい水を浸した手ぬぐいをおく、水枕、氷枕を用いるなどを昔からやってきました。西洋ではウオーターバスといって3334℃の湯(?水)風呂に首から下をつける、同じような温度の水にスポンジをひたして体に塗りつけるということを行うことが知られています。


脳の指令が高い温度を求めているのに、体温を下げようとする物理的な方法は脳の指令に背いていることになります。体はもっと体温を上げようと反応するので本人は苦痛であることや、場合によってはもっと高熱になることがあるので、最近は冷やすことを勧めていません。


身体は、体温を上げるためには、皮膚の表面を流れる血液を少なくするために血管を収縮させます。熱をよく失う手足を流れる血液を減らします。そのために手足は冷たくなります。それでも、脳の指令に合わなければ、筋肉を震わせて熱をつくります。その状態が悪寒・戦慄です。


脳の指令通りに体温が上がったり、それ以上に上がろうとすると、皮膚の表面を流れる血液を増やすべく血管は拡張します。手足の血液の流れを増やします。汗をかいてからだの表面から失う熱を増やします。多分、このようなときには冷やしてやると気落ちが好いかも知れません。


体温が高いことは病原体から身を護るには有利かもしれませんが、マイナスもあります。消費カロリーが体温が1℃上ると1012%増えるといわれています。体から蒸発する水分が増加しますから水分の補給が十分でないと脱水になります。


体の色々な部位で働く酵素の適当な温度とずれるので、代謝の面では不都合な場合があります。体温の高さ、持続、患者さんの状態で解熱を図ることが必要な場合もあります。



解熱剤が必ずしも発熱サイトカインの産生を抑制しないこともあります。

感染症の場合に、脳以外の他の身体部位のプロスタグランディンE2も増えていて、それは免疫を抑える効果もありえるので、解熱剤を使うことは免疫抑制に働くとは限らないとして解熱剤を適宜使うことの妥当性を唱えている学者もいます。















予防接種と体温(1)

ワクチンを接種して発熱をすることはあります。肺炎球菌ワクチンは他のワクチンよりも、その頻度が少し高いようです。接種の際に、発熱の可能性があること、「発熱があっても元気が良くて他に症状がなければ様子を見ても大丈夫ですよ、若し心配でしたら御連絡をください」と話しています。多くのママはそれでも、連絡をして来られることはなく、様子を見て下さっているようです。


でも、中に、受診をされたり、急患として時間外診療を受けたりされる方もあるようです。日頃から、受診される患者さんの訴えとしては、発熱は一番多いものです。患者さんも、医師も発熱に対しての対応は、必ずしも好くないように思います。


体温計がない時代、そう、ヒポクラテスの時代でも発熱という言葉はあったようです。そして発熱は体を護る反応だともヒポクラテスは語っていたそうです。声は現代も同じです。多くの医師が発熱は体を護る反応だと言い、パパやママも発熱は体を護る反応だとご存知です。
他方、発熱は心配な症状の一つでもあるのです。体温といっても、体の何処の部位で測定するかが、問題です。

本当の体温は深部体温、英語でcore temperaturです。それは37,537.8あります。

それを測定するのは、肛門から長い温度計を挿入して測定します。測定される側も刷る側もこの方法は一般的に行うには問題があります。次に安定して測定できるのは、口腔内です。外国映画を御覧になると体温計を口にくわえて測定していますね。実際には呼吸をしていて空気が動いているので肛門内よりも若干低く測定されます。しかし、安定して測定できる方法です。


日本は脇の下で測定します。この方法は体温を正確に測定しようとするには余り好い方法ではありません。脇の下の汗をよく拭いて、しっかり脇を固めても、温度が体温に近くあがってきて安定するには10~40分かかります。そうでないと皮膚の温度を測定していることになります。皮膚の温度は環境の条件でコロコロ変わります。

世界の国々の中で、体温測定を腋の下で測定することを金科玉条にしているのは日本くらいだそうです。体温を測定するのに昔は水銀体温計で10分はかけていましたが、現代はそんなに悠長なことをやるには多忙です。
そこで、電子体温計なるものを発明し、挟んでから温度が上るスピードで予測式なる方法を日本ではあみだしました。所詮、皮膚温を測定しているので、正しく測定できません。


学術論文で、子どもの低体温が多いなどとするものがありますが、全く科学的根拠に欠けるものですし、ママやパパが『うちの子の平熱は低い』などと仰るのも全く根拠にはなりません。


女性で、基礎体温を測定すると排卵があったかどうか、妊娠した可能性があるか、卵巣の機能の検査としても役に立ちます。それは脇の下の温度でなく、口腔温です。

どんなに上等の体温計で測定しても脇の下では真の体温の測定はできません。


耳で測定する体温計があります。赤外線センサーがついていて、温度はかなり正確に短時間に測定できます。何故、耳で測定するかと言いますと、鼓膜を流れる血液の温度は深部体温と同じなのです。

そこで、センサーの先端が鼓膜に向いていると鼓膜の温度、即ち真の体温が測定できるのです。

ところが、耳の穴から鼓膜までの外耳道はS字状にカーブしていて、必ずしも先端が鼓膜に向っているかどうかがわからないことです。多くの場合外耳道の温度をそくていしているか、場合によっては耳垢の温度を測定しています。本当に鼓膜の温度が測定されると37.5℃を超える可能性があるので、わざと低く表示されるようにしているメーカーもあり、こうなると何を測定しているのかわからないことになります。


世界の発熱の定義は38℃以上を言います。それより、0.5℃低い範囲は正常か異常のグレイゾーンです。それを微熱と言います。日本では、予防接種では、37.5℃以下であれば、接種を可能だとしています。特に測定部位や体温計の種類は指定していませんが、接種前の体温測定にもこのような事情があり、“ワクチン接種をして発熱の可能性があります”と言う場合には、38℃以上になることがある”という意味です。


20年前、所沢市で集団予防接種のときに、市役所の方が被接種者を並ばせておいて、耳で測定されていたので、37.5℃以上の人を拾い出す方法としてはそれでも好いが、37.5℃以下の人を拾い出すには不適当だと話してやめてもらったことがあります。