東京都内で麻疹流行のニュース
相関と因果関係は別物
4月26日の日本経済新聞の夕刊の十字路という欄に野村マネージメントスクール主席研究員の野村幸彦さんが、脳研究者の池谷裕二氏の著書を引用して データの間に見かけ上相関があることと、それらが原因と結果の間にあることとは全く違うと戒めていると 書いておられます。これは、肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチン接種とワクチン接種後の死亡例の関係でもそうであったのだと思いました。野村さんは、実験科学は絶対に因果関係を証明できない、相関関係が強いときに、脳が勝手に因果関係があると解釈してしまう とも書いておられます。
肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンを接種したあとで、死亡した人が増えた、だからこの二つのワクチンは死因である、または死因である疑いが濃厚であると考えられた。これは、あくまでも仮の結論、推論でした。
ヒトは必ず死亡します。亡くなった人に共通の因子を一つあげて、死亡という結果と結びつけて並べてみます。誰もが死因になりそうでないと考える事象をあげて、並べたのでは相関関係があるとは思わないでしょう。ましてや、因果関係も考えないでしょう。ところが、ワクチンというのは、ヒトにとっては異物であり、身に危険を及ぼしそうなものでもあります。副反応があることはよく知られています。ましてや、国が接種を中止したとなると、因果関係があると強く思う人が多くなるのも当然でしょう。
ところが、肺炎球菌やヒブワクチンを導入するに際して、予め私どもは学習をしました。ワクチンの有効性だけでなく、安全性、副反応について学びました。私の場合には、本や論文を読んだり、講演を聴いたりしました。幸いにして日本は、ワクチンについては後進国であるので、世界で既に検討されたものを利用できます。ワクチンを接種したあと、必ず、一定時間を接種した場に留まっていただくのは、直後に起こるかもしれないアレルギー反応に備えるためです。全身に一挙におこるアレルギー反応をアナフィラキシーと言います。それは、過去にも起こった例は報告されています。7人の報告された例には、それは1例もありませんでした。外国の例でも、乳児急死症候群(SIDS)に属すると考えられる死亡例は報告されて検討されています。外国の検討では、SIDSはワクチン接種では増えないことが証明されていました。ワクチン接種後のSIDSについても検討されていました。既に外国で検討されているから日本では不要だとは思いません。今後、このワクチンによる福音を日本の子どもに享受させたいと思えば、一度、立ち止まって日本は日本のデータで検討してみることは必要だろうと思いました。
公費助成が国会を通過したのを契機にして1月から公費助成を始めた市町村が多く、被接種者が増えた。当然、接種後に死亡した人の数も増える、死亡した人にワクチン以外の死因が証明されればワクチンとの因果関係は否定されますが、肯定も否定も十分できたとは言えない、それならば、ワクチン接種者での頻度と非接種者での頻度を比較することを行ったりして、検討することになりましょう。そして、特にワクチンが危険とするに至らなかったので接種が再開された、つまり因果関係は証明できなかったというのが結論になったのだと思います。
病気のときに薬を呑んだ、病気が治った だから呑んだ薬は有効だというのはしばしば間違いであることを知っています。それが薬の乱用を招き、副作用に悩まされることにもなるのです。相関と因果関係は別物、これは今後も肝に銘じて科学的に対応したいと思います。
ワクチンの種類にはどのようなものがありますか
夜の急患
4歳の女児、保育園に4月から通うようになって、病気ばかりしている、この数日、発熱・咳がありかかりつけ医で診てもらっているが、今日も40度になった、夜間診療に行ったが肺炎かもしれないと言われたとのこと、深夜帯に拝見した。打診で右の背部に濁音(打診をすると音が鈍い)呼吸音も弱い、熱は肺炎だけでも上るが菌血症も考えて、血液検査を行った、白血球18600/μℓ、好中球は幹状核球37%、分葉状核球48%、CRPは12.6mg/dl、血液培養も行った、肺炎球菌の肺炎及び菌血症を考えて、アモキシシリン60mg/kg/day投与した。
ママは、肺炎球菌ワクチンをやっておけばこのようなことはないのかと言われた。100%予防は無理だが、髄膜炎への進展や菌血症のリスクは低いので好くなったら肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンを接種されることをお薦めした。ワクチンの意義はこのように、発熱に際して、シリアスな病気を考えなくても済むということになりますし、
医療費の削減にもなるのではないでしょうか。
家族が水痘に罹患したときに、予防接種以外に予防法がある?
Q;家族が水痘に罹患したときに、予防接種以外に他の家族の発病を阻止する方法があるということを聞きましたが本当ですか?また、それは他のうつる病気でも利用可能の方法でしょうか?
A;水痘は人から人に感染して、比較的発病率の高い病気です。潜伏期間はおおよそ2週間です。水痘の発病は発疹がでて気がつかれます。潜伏期間の終り、つまり発病直前に感染源になりえます。接触が濃厚な間柄である家族間ではしばしば、家族への感染が起こります。よく、接触して2日以内であればワクチンを接種すると発病阻止、軽症化できるといわれて、保育園・幼稚園などでの感染予防に薦められています。ところが、必ずしも発病していることが発病直後に診断されるとはかぎりません。そのような場合にはワクチンを用いても必ずしも予防できるとは限りません。そのような場合に、実は薬剤を用いる方法があります。一昨年、藤田保健衛生大学小児科教授を定年退官された、浅野喜造先生が編み出された方法です。水痘ウイルスは、アシクロビル、パラシクロビルという薬物で増殖を抑えることができます。だから、水痘の治療に用いられています。浅野先生はアシクロビルを用いる方法を選ばれました。通常、治療にはアシクロビルを体重1kgあたり1日80mg使いますが、その半量を2週間の潜伏期間中で丁度中間に用います。4日間、投与するのですがうまくいくと、発病はしないで免疫はできるという方法なのです。免疫を調べる方法は、水痘ワクチンを先駆けて作成された故大阪大学微生物研究所教授の高橋理明先生が作られた皮内テスト用の抗原を使います。免疫の有無はこの抗原を皮内注射して翌日に注射部位の発赤の大きさを測定して判断できます。陰性の場合に、この方法を行います。うまくいけば発病をしないのですが、うまくいったのかそれとも感染しなかったのかの区別はつきません。そこで、4週くらい経過をしたあとで、もう一度皮内テストを行ってみれば、判断ができます。この方法は、今では世界でも認められていて、内科の教科書で有名な、セシルの内科学教科書にも記載されています。健康保険は予防には適応されないので、保険診療としておこなうことはできません。子どもが罹患した場合の、両親や同居の大人、同胞には使える方法です。水痘の免疫を測定する方法に皮内テストがあること、血液抗体が陽性でも皮内テストが陰性だと発病する可能性があることなども、よく知っている医師が意外と少ないのは事実です。ウイルス感染症で薬物が有効な病気は、この水痘に対する薬物、インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬、エイズに対する薬剤の組み合わせくらいしかないので、沢山あるウイルス性疾患に共通な方法ではありません。水痘でも予防は予めワクチンを用いるのが正攻法だと考えます。