抗体を測る
大学や高校の新入生に、色々の免疫の状態を記載して提出するところが増えてきた。入学後に学内で流行されても困る、医学部や看護学校をはじめ医療系の学校では、学生が罹患することも勿論だが、学生が病気の媒介者になっても困る。だから、単に予防接種歴を調査するだけでなく免疫の状態を知っておくというのは、賢明な方法であろうと考える。ところが、その調査で記入する調査票から、その学校のレベルがよくわかる、学校のレベルと言うよりも関係者の知識のレベルといっても好いのかもしれない。例えば、麻疹について、補体結合抗体、赤血球凝集抑制抗体、エライザー法によるIgG抗体などと学校によって違っていた。本当はもう一つ中和抗体という方法がある。抗体を測定するのには、目的がある。罹った病気が麻疹であったかどうかを知りたいという場合には、病初期と回復期の2回、抗体を測定して、回復期に著明に抗体が上昇していれば罹患した可能性があるという判断をする。ワクチンを接種して抗体ができたかどうかを調べるために、接種をする前と接種をして一定期間経た後で採血をして、後で抗体が出来ていれば効果があったと判断することができる。ある人が今後、その病気に罹る可能性があるかどうかを占うのに、抗体を調べて抗体があれば罹らないと判断する。今、単に抗体と書いたが、抗体といっても測定の方法で、何に対しての抗体なのかが実は異なっている。麻疹であればウイルスを殺す抗体があれば、発病しない。そのような抗体のことを中和抗体という。ウイルスは細胞に感染して細胞の中で細胞を利用して増殖をする。ウイルスと細胞には相性があり、何の細胞でもウイルスが増殖するわけではない。麻疹の場合にはミドリザルの腎臓の細胞が用いられている。ミドリザルの腎臓の細胞への感染を阻止できる抗体が中和抗体として測定されている。これにはミドリザルの腎臓が必要であり、測定にも時間が必要である。麻疹のウイルスはミドリザルの赤血球を凝集させるという力がある、それを阻止する抗体を測定するのが赤血球凝集阻止抗体である。ミドリザルを殺す必要がなく検査に要する時間も短い。感染して抗体が出来たかどうかを見るのには手っ取り早い。でも、長年たつと陰性になってしまうし、必ずしもウイルスを殺す抗体と同じではないのでこれが陽性でも発病する可能性がある。だから、新入生が今後麻疹に罹る可能性があるかどうかを見るのには不適当な方法である。病原体のどの成分に対する抗体があれば発病しないのかということと、病原体の部分に対する抗体が同じだとは限らない。だから目的別に抗体を測る必要がある。それなのに、それがわかっていない指示を出している学校がしばしばある。一口に抗体があると言っても、内容は異なることを知っておいて欲しいと思う。