小谷野敦「江藤淳と大江健三郎 戦後日本の政治と文学」 | とんとん・にっき

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小谷野敦の「江藤淳と大江健三郎 戦後日本の政治と文学」(ちくま文庫:2018年8月1日第1刷発行

を読みました。文庫本ですが、解説まで入れると449ページもある分厚いものです。元々は、単行本で2015年2月に筑摩書房より刊行されたものです。
 
第3章に、以下のようにあります。
1965年から67年にかけて、講談社から「われらの文学」全22巻が、大江と江藤を編集委員として刊行された。野間宏から倉橋由美子、高橋和巳、江藤、吉本隆明などの戦後文学を中心とした叢書である。そのうち大江の巻は、「奇妙な仕事」から「性的人間」あたりまでが入っている。解説を書いたのが江藤で、ここでは「性的人間」を中心に論じつつ、結果的には大江を批判することになっている。
 
1965年と言えば、江藤は33歳、大江は30歳である。二人とも若いにも拘らず、全集の編集委員になったとは驚きです。
 
「われらの文学」は、僕が初めて買った文学全集でした。一口坂を下りきった、法政大学の前にあった本屋に、毎月届けて貰っていました。江藤はほとんど知りませんでしたが、大江の本は初期の数册、文庫本を譲り受けて読んでいました。文学全集というとお堅いイメージがありますが、なによりも「われらの文学」というタイトルに引かれらのかもしれません。昭和40年代始めのことです。
 
それ以降、大江健三郎の本は単行本は出る度に購入し、過去に出たものは文庫で購入しました。そして、昨年完結した「大江健三郎全集」を購入するまでになりました。そうそう、大江年譜の最後に出てくる、作家生活50周年を記念して創設した「大江健三郎賞」、第8回まで受賞作をすべて読み、講談社で行われた大江と受賞者の対談にも、ほぼ参加することができました。変な自慢話にになってしまいましたが・・・。
 
大江健三郎について
三太・ケンチク・日記 2005年10月23日
「大江健三郎全小説」全15巻!
とんとん・にっき2 2019年12月12日
 
それにしてもこの本は、幅も奥行きもすごい。とてもとても素人が太刀打ちできる代物ではありません。江藤家、大江家の系図を検討し、両者の出生から幼少期から始まり、そして江藤淳の自殺まで、「伝記」とはこういうものだとばかりに、これでもかというほど、詳細に書かれています。また、参考文献と年譜がまたすごい。そして、平易な文章で、読みやすい。
 
本の帯には、「宿命の敵同士を描く決定版ダブル伝記」とあります。続けて、
大江健三郎と江藤淳は、戦後文学史の宿命の敵同士として知られた。同時期に華々しく文壇に登場した二人は、何を考え、何を書き、それぞれどれだけの文学的達成をなしえたのか。また、進歩的文化人=左翼の大江と、保守派文化人=右翼であった江藤の言動から1950年代末以降の日本の文壇・論壇とは一体どのようなものだったのかを浮き彫りにする。決定版ダブル伝記。
とあります。
 
小谷野敦:
1962年茨城県生まれ。東京大学文学部大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。大学助教授、東大非常勤講師を経て、作家、文筆家。著書に「もてない男」(ちくま新書)、「聖母のいない国」(河出文庫、サントリー学芸賞受賞)、「現代文学論争」(筑摩選書)、「谷崎潤一郎伝」「里見とん伝」「久米正雄伝」「川端康成伝」(以上、中央公論新社)ほか多数。小説に「悲望」(幻冬社文庫)、「母子寮前」(文藝春秋)など。