高村薫の「我らが少女A」を読んだ! | とんとん・にっき

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高村薫の「我らが少女A」(毎日新聞出版:2019年7月30日発行)を読みました。初出は「毎日新聞」2017年8月1日~2018年7月31日です。約1年の長丁場、536ページの大作です。行きつ戻りつ、さすがに簡単には読めませんでした。推理小説なのか、本の帯には「合田雄一郎シリーズ最新作!」とあります。

 

「土の記」(上・下)を読んだときに、以下のように書きました。

 

かつては小説家としてデビューし、多くの作品を残していた高村薫ですが、僕の理解では推理小説だったか・・・。略歴を見ながら僕が読んだものを拾ってみると、「マークスの山」「照柿」「レディ・ジョーカー」「晴子情歌」等々、当時出すものはそこそこは読んでいました。「晴子情歌」(上・下)は、よく覚えています。青森の名家の人々の生き様を通して、近代日本そのものを描き切った名作です。(これらはブログを始める前のことです。)

次に出た「新 リア王」がら読まなくなったようです。次第に高村は、小説から「時評」にシフトしていきます。いや、小説は書いていたでしょうが、僕の前からフェード・アウトして、「時評」が前面に出てきました。
高村薫の「作家的覚書」を読んだ! 

 

ま、そんなことで、過去に読んだことはまったく役に立たず、新鮮な気持ちでこの本に立ち向かったのですが、なかなか手ごわい作品です。

さて、どこから取り掛かってよいのやら…。個性豊かな登場人物が多く、しかも老若男女、現在と12年前の二つの時代が重なって、なかなか理解しづらいことこの上ない。

 

合田雄一郎、痛恨の未解決事件
12年前、クリスマスの早朝。
東京郊外の野川公園で写生中の元中学美術教師が殺害された。
犯人はいまだ逮捕されず、当時の捜査責任者合田の胸に後悔と未練がくすぶり続ける。
「俺は一体どこで、何を見落としたのか」
そこへ思いも寄らない新証言が――池袋の殺人事件で逮捕された男によると、
自分が殺害した女性が野川公園の未解決事件に関連する物を所持していたと言うのだ。
合田の脳裏に、一人の少女の姿が浮かび上がる――。

 

高村は、国際基督教大学(東京三鷹市)の出身、あの辺りは今でもあまり変わっていないという。細かいことまで、驚くほど詳細に街の周辺のことが出てきます。最初に出てくるのが、西武多摩川線多磨駅の駅員・小野雄太です。そして、この物語のラストは、「小野雄太は、夏には父になる。」で終わっています。小野雄太は、物語の中で縦横無尽に活躍するわけではなく、どちらかというと、横から眺めている、といった役割です。むしろ彼の同級生たちが主人公です。同じ場所、同じ時間を共有する群像劇と言えます。

 

朱美と真弓の関係を抜き出してみると微妙です。

 

そうして思わず手繰り寄せた苦い記憶の傍らを、さらに一段と苦い思いが駆け抜ける。いいえ、玉置なんかどうでもいい。これは朱美ちゃんと私の問題なのだ。いったい私は彼女をどれくらい大事に思っていたか。どのくらい信じていたか。彼女に対してどれくらい正直だったか。朱美ちゃん、こういうところへ来るんだ――? そう、彼女の脱線を知って居て、そんな白々しい台詞を吐いた私を見たときの、朱美ちゃの面倒臭そうな倦んだ眼が全部の答えであっただろう。

 

いいえ、私だけが悪いのではない。彼女だってほんとうに大事なことは何も私に話さなかったではないか。初体験のこと。援交のこと。お金のこと。いいえ、運命の偶然というやつはもっと厳しい顔をしている。もしもあのとき、あの南口のマックの前で出くわしていなかったら、自分と朱美はあのまな互いに何も知らないふりをして、うんと平穏な関係でいられたのに。もしも水彩画教室だけの関係で終始していたなら、どちらもあんなに残酷なほど気を回したり、余計な憶測をしたりすることもなく、もっとふつうに笑い合って生きてゆけたのに――。真弓は記憶の袋を絞り出すようにして考える。

 

髙村薫(たかむら・かおる):

1953年大阪府生まれ。1990年『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞、93年『リヴィエラを撃て』で日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、同年『マークスの山』で直木賞、98年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞、2006年『新リア王』で親鸞賞、10年『太陽を曳く馬』で読売文学賞、17〜18年『土の記』で野間文芸賞、大佛次郎賞、毎日芸術賞を受賞。他に『照柿』『晴子情歌』『冷血』『空海』など。

 

我らが少女A特設サイト

https://wareragashojoa.com/

 

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